使命
男は自室でキャスター付きの椅子に立ち、手製の絞首台に首を通していた。男が椅子から跳ぶのと同時に、俺は縄をかけていた物干し竿をずらして地面に落とす。男は大きな音をたてて地面に落ちる。男はしばらく咳き込んだ後、ベッドに入り泣いていた。
その日の深夜に男は起きると、毛布をかぶりながら動かないでいた。そしておもむろに毛布から出て、財布を持って外に出ていった。後をついて行くと、男はドラッグストアで風邪薬一箱を買った。そして、さらに近くのドラッグストアを周り、同じ種類の風邪薬が入ったビニール袋を複数持って自宅へ歩いていた。風邪薬を過剰摂取するつもりなのだろう。
男が横断歩道を渡る時、車が歩道に突っ込んで男と他の人々を襲った。男は避けることができなかったため、地面に倒れてへこんだ頭から血を流していた。俺は男の背中を手のひらで叩いて、手を空に掲げた。黒い空に一筋の光が男にのびて、すぐに消える。
天から声がする。
「ご苦労だった。もう役には慣れたかね」
「はい、見ての通りでございます。自殺阻止が私の使命なのですから」「それは何より。民にはきっかり寿命通りに逝ってもらわないと不都合であるからな」
「ははは。それは自殺した私に言っているのですか」
「いや、そんな訳では無い。失礼だった」
「いえ、いいんです。今が一番生きているって気持ちですから」