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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

渇きの水槽

作者: 枝節 白草

夏のホラー2017投稿用の作品です。

二つ目書いてしまいました。

「おーい、夏樹!今度の日曜釣り行こうぜ!」


そう声をかけてきたのは中学生の時からの友達の誠也だ。

同じ高校に入ってからも何かと気が合うためよくつるんでいる。


「お?急にどうした。俺釣りは趣味じゃねんだけど」

「夏樹変わった生き物好きだろ?釣れたもの鑑定してくれよ」

「はぁ?おまえどこに何釣りに行くつもりだよ」

「ふふふ、裏野ドリームランドさ」

「はぁぁ!?あそこ閉園してるだろ!しかも遊園地だろ!」

「しー!声でけぇよ。…あそこさ、アクアツアーあったろ?変な噂あったの覚えてるか?謎の生き物がいるっていうやつ。それ釣ろうぜ」

「あー、そうか、おまえバカだもんなー、夏の暑さでとうとう頭壊れたかー」


付き合うのも馬鹿馬鹿しい。夏樹は話を切り上げようと思ったが誠也は妙に食い下がる。


「ちーがうって!聞けって!謎の生き物の正体な、飼いきれなくなったペットが捨てられてたんじゃないかって噂があんだよ。変わった魚とかいるかもしれねぇぞ?」


なるほど、オカルトかと思っていたが急にリアリティが出てきた。

そういう事なら夏樹も興味が無い訳では無かった。


「ほほう、それならガーとかピラルクとかワニガメとか居るかもしれねぇな」

「お、良いねぇ、のってきたねぇ親友」

「よし、おっけー。んじゃ日曜の昼な」




約束の日曜日。裏野ドリームランドの壁外にて二人は合流する。

誠也が持ってきたのは釣竿と餌のみ、飼いきれなくなって捨てられたペットなんて持ち帰っても手に余る、元々キャッチアンドリリースのつもりでいた。

夏樹に至っては釣竿すらもっていない。


「夏樹は釣らねぇの?」

「釣竿なんて持ってねぇし、てかどうやって侵入すんだ?」

「普通に入り口開いてんだろ」


入り口に向かうとゲートにはキープアウトの古いテープがあるだけ。

ところどころ契れて風化している、侵入する人は割りと居るようだ。

その証拠に壁はスプレーの落書きでいっぱいだった。

二人は中へと侵入していく。建物が崩れる程の劣化は無い、塗装が剥げて錆びが目立つ程度で意外と綺麗だという印象を受ける。

看板も字が読める程度に汚れているだけ、道に迷う事は無いだろう。

実際看板に従い歩くとアクアツアーへは難なく着けた。

ぐるりと円を描いた池と周辺に生い茂る植物、それに小型の船が一艘。

しかし予想と大きく外れた事が一つだけ。


「おー、ここがアクアツアーだな…って、おい!水ねぇぞ!」

「閉園時に抜いたのかな、渇いてら」


アクアツアーの正体はコンクリートでできた大きな人工池だったようだ。

水が抜かれ、渇いたコンクリートにはヒビも入っている。

魚なんているはずも無い、いたとしても鳥や虫に食われてることだろう。


「…はい、じゃあ残念ってことで、帰るぞ誠也」

「ちょ、待てよ。ここまで来て何も無しで帰るのか?釣竿まで持ってきた俺がバカみたいじゃねぇかよ」

「誠也は実際バカだろ、第一水ねぇし、生き物もいねぇし、やることもねぇ」

「俺がバカかどうかは議論の余地があるが、確かにやることはねぇな」


それでも諦めきれず誠也はコンクリート剥き出しの人工池をぼーっと眺めている。

その時、ふと誠也が何かに気付いて慌て始めた。


「おい夏樹!下に子供がいる!」


誠也に言われ水の無い人工池を良く見ると、円を描いた深い溝の反対側から一人の子供、小学生くらいの女の子が歩いて来るのが見えた。


「やべぇな!落ちたのか!?ちょっと下降りる梯子とか探そうぜ!」

「……」

「誠也?」

「ここってもう一個噂あったよな?」

「はぁ!?今はあの子助けるのが先だろ!」

「子供が行方不明になるっていう…」

「あの子が当時の幽霊だとでも言いてぇのか!?頭涌いてんじゃねぇのかおまえ!」


夏樹は人工池の溝の下に降りる為の梯子を見つけると走りだす。

しかしそれは誠也に止められその場で転びそうになった。

誠也は夏樹の腕を必死に掴んで離さない。


「おい!誠也!ふざけてる場合じゃ…、誠也?おい、どうした?」


誠也は人工池の下の女の子を見たまま固まり、夏樹の腕を掴んだまま小刻みに震える。

そして誠也の目は明らかに普通では無かった。


「夏樹、あれ、何に見える…?女の子…か?」

「……なに、…言ってる…え?」


誠也は目が良い為先に気付いたのだろう。

女の子が少しずつ近づいて来たことで夏樹にも気づく事ができた。

女の子は歩いていない、歩いてなんていなかった。

水は無い、渇いた剥き出しの人工池の底を…泳いでいた。

そもそも歩けるはずなんて無い、足が…無いのだから。

足の変わりに生えたそれはまるで蛇の尻尾の様に見えた。

そしてその顔は、表情が崩れる程に、笑顔だったのだ。


「あれ、なん…、近づいてくるぞ!誠也、どうしよう!」

「逃げる以外にねぇだろうが!」


誠也と夏樹は全速力で競うように遊園地の出口まで走る。

キープアウトのテープを越えれば逃げ切れる、はずだった。

出口が無い…、ゲートの痕跡すら無くコンクリートの壁だけがそこにあった。


「なんでだ!ここだったはずだろ!」

「落ち着けよ!慌てて走ったから間違えたんだよきっと!」


二人は看板を見つけ出口までの道順を探す。

しかし、そこにはこう書かれていた。

[アクアツアーへようこそ]


「うわあああぁぁぁぁ!!」

「逃げてたのに!なんでここがアクアツアーなんだよ!」


二人は再び全速力で走りだす。もうどっちに走ってるのか分からない、ここじゃ無ければどこでも良かった。

しかし走っても走っても出口は無い、それどころか遊具も何も無い。

ただ壁だけがそこにあった、渇いたコンクリートの壁だけが、そこにあった。


次第に天気も悪くなり、厚い雲に覆われ、ポツリポツリと雨まで降りだす。

雨はすぐに豪雨となり足元が泥濘む。それどころか足が浸かる程に水嵩が増していく。


「水の逃げ場がねぇぞ!それどころか何もねぇ!」

「と言うか、ここどこだ?コンクリートに囲まれた通路?」


二人は嫌な予感がして背筋が凍り付く。

コンクリートに囲まれた円状の通路、そう、今いる場所は。


アクアツアーの人工池の底。


「そんなバカな!早く逃げるぞ!あいつが来る!」

「梯子!梯子があったはずだ!」


次第に水が溜まっていく中で必死に梯子を探す。

そして運良くソレはすぐに見つかった、夏樹が場所を覚えていたのだ。

それにあの変な女の子にも会わずに済んだ。

梯子を掴み登り始める、助かった!そう思った瞬間だった。

先に登っていた夏樹の足を誠也が掴む。


「誠也!?今度はなん…誠也!」


誠也の足にしがみつく何か、それは顔が崩れるほどに笑顔の女の子、足は無い。

誠也の足を抱き込んで離さない女の子。


「夏樹…、助け…、……」

「ああ!助ける!絶対助けるからな!」

「…夏樹、…ありがとう。おまえだけでも逃げてくれ」


誠也は夏樹の足から手を離すと、雨の溜まった人工池へと落ちていった。

笑顔の女の子と一緒に…。


「誠也ぁ!!」


ああ、雨の色というのは赤かっただろうか、こんなにも、赤かっただろうか。

水面に浮いてきた釣竿だけが誠也の名残を残していた。



夏樹は残りの梯子を登りきる、さっきまでの雨が嘘だったみたいに晴れていた。

上から見た人工池は、渇いてヒビ割れたコンクリートで出来ていた。

生き物は何もいない。


夏樹は放心したまま出口のゲートへと歩く。

破れたキープアウトのテープは来たときと同じまま、ただ誠也だけがいなかった。


「出口の場所、合ってるじゃねぇか…。くっそ!合ってるじゃねぇか!」



夏樹は家に帰る途中ずっと誠也の事を考えていた。

誠也の家族に何て言えば良いのか、そもそも信じてもらえるのか。

とりあえず今は家に帰りたかった。自分の家族に会いたかった。



「ただいま、母さん」

「おかえり夏樹、どこ行ってたの?泥だらけじゃない」

「うん、少し…転んでね」

「お風呂入っちゃいな。お湯張っておくから」

「ありがとう」


いつも通りの家、いつも通りの母親。

帰ってこれたんだと実感して涙が溢れる。


「どしたの夏樹、何かあったん?まぁ、風呂沸いたし入ってきな」

「そうするよ、そのあとゆっくり説明する」


………。


「母さん!お湯入って無いよ!」




こちらも応援お願いします(笑)

書いてて自分で怖くなりました(笑)

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― 新着の感想 ―
[一言] うひょぉう… 逃げても帰っても逃れる方法が見えず、水のあるべき場所で常に付き纏う恐怖… こりもまた怖いですね…
[良い点] アクアツアーの謎の生き物……。前作に引き続き、ありえない化け物の描写が怖いです。 最後のお風呂のシーンが意味深ですね。乾いた風呂釜……。 [一言] 何となく、お風呂に入ったら、その水から…
[一言] 裏野ドリームパークって関西にあるんですか?
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