第五話 幼さの代償
ブ、ブブ……ブックマークしてしてくださる、神様がいました!!
頑張って完結目指します!!
夜会は嫌いだった。
グァルディオラ帝国の支援を受ける上で必要なことだとわかっていても、どうしても気持ちを切り替えられない。
幼い頃に国は滅び、兄とともにグァルディオラに逃げた。
あの日、あの場所で最初に向けられた視線は、哀れみだった。
誰もが「可哀想な子供」と同情し、それと同じだけ亡国の王族である幼い兄妹を哀れむ自分に酔っているように見えた。
なんとか生き残る術を見出したものの、それからの時間は安穏とは程遠い時間だった。死んだ方がマシとも思える程には過酷な訓練に次ぐ訓練。幼さなど微塵も考慮されず、何度も怪我を負い、生死の境を彷徨ったことも、一度や二度ではない。
そんな日々の続く中、戦場に出たのは八歳を迎えて少し過ぎた頃だった。
覚えたての剣など役にも立たない。しかし頼りの兄の同行は禁じられ、大人に囲まれての行軍。緊張で寝られぬ夜。抜け出した天幕の外では、兵士達が「八歳の旗頭」と馬鹿にして、レフェトが復興するかどうかを賭けていた。
ーー馬鹿にしないで。
五歳でグァルディオラに保護された時、皇帝の前で言った言葉に迷いはなかった。あの時、泣いて懇願し、ただ助けを求めれば、保護された姫として、多少の不自由はあれど、温室で安穏と過ごせただろう。
だがそれは、グァルディオラのレフェト併合の為の傀儡として、生かされるだけの生。
故郷を、幸せな家族の記憶が詰まっているあの地を、他の誰かにくれてなんてやらない。
優しかった家族は既に兄一人。
その兄からも引き離され、厳しい訓練に耐え、何度も何度も悔しさに拳を握り、唇を噛み締め、涙を堪えた。それら全てに耐え抜けたのは、喪ったものを一つでも多く取り戻すため。
ーーグァルディオラ帝国の為なんかじゃないわ。
リューシディアの軍人としての才が芽吹き始めると、グァルディオラ帝国はレフェト奪還を名目にリューシディアを戦場へ送り込んだ。レフェト奪還とは無関係な、劣勢極まった戦場へ送り込まれ、追い詰められ、木の根を齧って生き抜いた事もあった。
けれど、まだレフェトは取り戻せない。
バルバディカに奪われた王都を取り戻さない限りグァルディオラに利用され続けるのだと、今ではわかっていた。それからというもの、何年も前に受け入れた現実に度々打ちのめされそうになる気持ちに蓋をし続け、何年が過ぎたのだろう。
今回の戦で、漸く旧レフェト領であるサフィールを取り戻せた。
グァルディオラのために戦ったわけじゃない。
なのに、この宴は?
まるでグァルディオラがサフィールを併合したかのような騒ぎ。不愉快で仕方ない。
着替えと偽り会場を出たリューシディアは、その足で訓練所へ向かった。どうしようもなく剣を振るいたかった。
誰もいない訓練所で、ドレスのまま剣を振るう姿は異質だろうなと思ったが、一人、無心になりたかった。
そうしてどれくらいの時間が過ぎたか。
「程々にしないと、明日に響くぞ」
やんわりと掛けられた声に、リューシディアは手にした剣を下ろした。
「せっかくのドレスが台無しだ」
「…あ」
言われて、リューシディアはドレスの裾が泥だらけなことに気付いた。軽く素振りだけのつもりだったが、けっこう激しく動いていたようだ。
「イアリナに怒られるわね……」
「その内側に抱えてるものを吐き出せば、怒らないと思うぞ」
「こんなのは私の我がままでしかないわ」
「ーーやれやれ。どこで育て方を間違えたかな」
「初めからじゃなくて?」
「そうか」
声の主は、ゆっくりと訓練所に降りて来た。リューシディアの二倍はありそうな身長に、鋼の如く鍛えられた各所の筋肉の主張。
ーーグァルディオラ元帝国総騎士団長。職を辞して尚、名実ともにグァルディオラ帝国軍最強と呼ばれる存在、エルバト・マルク・ミオレス。
五歳で剣を持ってから、ずっと師事してきた、リューシディアにとっての師匠。武器の扱いも戦場での振る舞いも悔しさを飲み込み立ち上がる術さえも、全て彼から教わった。
そんな彼は、のっそりと近くに立てかけてあった剣を手に、リューシディアに向かい合う。
「一人ではつまらぬだろう。相手をしてやろう」
「一緒にイアリナに怒られて下さると?」
「ふ……ははは! それも良かろう!」
ニヤリと笑ったエルバトが、予備動作も無しに斬りつけてくる。大仰な動きに見えて、しかしそこに隙はない。おまけにその筋力から繰り出される剣は、速さも重さも超一級。
さすがにまともに受けて吹き飛ばされない自信もないリューシディアは、間一髪背後に大きく一歩飛び去り、その剣を交した。
「避けるでない!」
「避けるに決まってるでしょう!」
「軍人たるもの、いつ如何なる時も剣を受けよ!」
「エルバトじーさんの一撃をマトモに受けたら死ぬわ!」
「その程度で死ぬような鍛え方はしとらん」
「そういう問題じゃないわよっ」
言い合う間も、エルバトの剣はリューシディアを攻撃し、リューシディアは剣で力を受け流すようにして捌き続ける。
神速。
そう評しても許されそうなほど、人の反応速度の限界を極めた二人の攻防はーー互いの悪口雑言を除けばーーまるで剣舞のように華麗だった。
「……まいったね。出番なしだな」
大きな声で言い合いながらも剣を交わす二人を暫し眺め、レオルリヒトはひっそりとその場を去った。
その胸に、本人すら気付かない程、小さな棘が刺さっていた。
どうしてもコメディに走りたがるノーミソをどうにかしたい。




