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剣に捧げる願い  作者: 滸 いろは
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第二話 支える者達

コンバンワ

「許さない」


 エイルドール伯爵との会見を終えたリューシディアは、負傷兵に溢れた光景を前に呟いた。


「リューシディア。水の浄化は私がやろう。お前は回復を」

「分かったわ、兄様」


 一足先に負傷兵の回復に当たっていた兄、リュクロームと合流したリューシディアは、早速広域の回復魔法の術式を編み出した。

 本来リューシディアは無詠唱での術の行使が可能だが、今回は数が多い。確実に全員を回復させるためには、丁寧に術式を編む必要があった。

 頭の中で術の行使に必要な要素を一つ一つ確認し、それに合わせるようにリューシディアの足元に魔法陣が構築されていく。それはリューシディアの魔力の解放具合に比例して大きくなっていく。もし砦の外からこの光景を見ている者がいれば、それはさぞかし幻想的な光景であっただろう。砦全体を淡く青色に光る幾何学模様に覆われ、一瞬強く光彩を放つと、上から粒子となって青空に消えて行く。


「なんと……」


 案内役を務めたマドニスは、目の前の光景に目を見張る。


「成功、ね」

「だが予断を許さない者もいるな」

「ええ、兄様。重症者はこれから個別に見て廻るわ。ーーマドニス将軍。軍医はどちらに?」


 マドニスは慌てて、近くで呆然と立ち尽くす軍医を呼び寄せた。


「彼が軍医だ。名前はアルケス」

「アルケスと申します。剣姫様に感謝を」


 アルケスは老齢の医師だった。その顔には酷い疲れが浮いている。


「アルケス殿。あなたも随分疲労が溜まっていらっしゃいますね」

「なんの! 戦場で若い命が散っているのです。老骨なれど戦場に出れずとも戦う気持ちは負けぬよ」


 けらけらと笑うアルケスは、疲れた表情をしつつも、その目は輝いている。


「わしには回復魔法は使えん。だが姫様のおかげでわしにもできることが増えた。後は任せてほいし。これ以上は誰も死なせぬ」


 静かだが強い言葉だった。


「ありがとうございます。貴方がいて下さって心強いです。これで私達はまだ戦えます」


 リューシディアとアルケスは頷き合うと、其々の戦場に向かう決意を新たに手を動かし始めた。その光景をマドニスは感極まる思いで眺め、そして思う。


 ーー勝てる。


 類稀な剣技と魔力、魔術知識を持つ無敗の姫将軍と、それを支える天才軍師、リュクローム。砦の兵士の気持ちは強く、なにより、精神的な柱となりうる名将エイルドール伯爵がいる。さらに経験に裏打ちされた知識と技術を持つ医師。

 これだけの人材が揃って負ける筈がない。


 そして、その予感は間違いなく当たっていた。


 リューシディア率いる援軍が参戦すると、形勢はいっきに逆転の様相を呈した。


「バルバディカに総攻撃と行きましょう」


 リューシディアの兄、旧レフェト王国第二王子リュクローム・シェザー・レフェト。足を傷め、剣を握れぬ代わりに、知恵という剣を握る天才軍師。


「バルバディカは総勢五万。数ではこちらがやや劣りますが、こちらにはエイルドール伯爵にマドニス将軍という歴戦の名将がおり、兵の士気も高い。加えてルゥの魔術。これだけの戦力があれば余計な小細工は必要ないでしょう。真っ向勝負で叩いて差し上げるのが得策です」


 リュクロームの言葉にエイルドール伯爵は苦笑を零す。


「また随分と買い被られたものだ」

「買い被ってなどいません。これほど追い詰められて尚、兵の士気は高いこと自体がその証拠です。これは御二方あってのことでしょう。この勢いを最大限活かすにはエイルドール伯爵とマドニス将軍の存在は必須です。私や妹が口を出すよりも、このままお二人が指揮を取られた方が兵士もやりやすい」

「リューシディア殿下といい、リュクローム殿下といい、本当に人を立てるのが上手いな。そう言われてしまっては我らとて引き受けぬわけにはいかぬの」

「無論です、閣下」


 二人の名将は笑顔を交わした。

 そこには何の懸念もない。

 この時、彼らは確かな勝利を見たのだった。


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