第二十一話 密やかな足音2
珍しく、連続投稿!
でも、やっぱり遅々として進まない⁈
バルバティカの興りは、草原を旅する遊牧民族だ。
遊牧民族と言うと、穏やかな争いを好まぬ気質に思えるが、実際は真逆である。旅をすると言うことは、常に危険に晒されていると言って過言ではない。
他部族から、草原を闊歩する魔物から。
遊牧民達は外敵から、己を、家族を。愛おしいものを守る為の戦いを余儀なくされる。バルバティカとて、元はそういう成り行きを受け入れていた草原を旅する小さな部族だった。
それがバルバティカという一国を築くまでに成長したのは、初代国王ーー草原統一成した草原の覇王と呼ばれているーー草原の遊牧民でも小さな部族であったヲランドという青年の、強い想いからだった。
ヲランド・ダクシェ。
バルバティカを最も愛し、草原の民の平均寿命を遥かに超えて永く生き、最後はその未来を憂いて逝った、強く優しき覇王。
現在のバルバティカの王は、その彼の子孫であり、バルバティカ建国から数えて六代目の王である。何故草原の数多ある部族を統一し、建国を宣言したヲランドが、草原の民の未来を憂いたか。
それはヲランド自身にも責任があったが、何よりも「建国」の過程で得た戦果に、草原の民の多くが酷い思い違いをしたことに始まる。
永く無法地帯であった草原の地、そしてそこ生きる草原の民。当時、既に王を戴く文明国家を自負する周辺国家からしてみれば、蛮族同然であり、それ故に交流は疎か関心すら持たれず放置されていた。
だが、統一後の国家樹立宣言により、事態が一変する。
日常的に小競り合いを繰り返すような民であるからこそ、放置されていたに過ぎないのだと、建国から僅か数年でヲランドは悟った。
国としての整備も民の教養も到底周辺諸国には及ぼす、物々交換が主だった草原の民と違い、金銭という概念を持ち、それが流通の基本である周辺諸国。その結果、草原の民達は物事のイロハを知らぬ、と嘲笑われ、文明国家に属する商人達に暴利を貪られた。
その差をどうやって埋めれば良いのか。
ヲランドの苦悩に応えられる者などいなかった。そしてヲランド自身、己に草原の民を率いるだけの能力がなかったのだと突き付けられるだけだった。
その結果。
ヲランドとて望んだわけではないが、一番手っ取り早く周辺諸国にバルバティカを認めさせる方法として 軍事力を選んだことは、仕方のない事だったのかもしれない。
理不尽な要求には武力を持って抵抗する。
確かにそれは、成功した。
ーー戦争狂の汚名と共に……
もちろん、草原の民が文明国家に対抗できるよう、ヲランドは教育制度などを他国を真似て整備しようとはした。
だが、制度の本質、その仕組みを正確に理解できていないまま実施された施策は、どれもが中途半端だった。
その結果、バルバティカの民達は更に武力制圧という方向に進んで行ったのだった。
彼が残した手記は、国宝としてバルバティカ王に受け継がれていた。
ヲランドは国王位を得て以降、己の過ちやこれからの国の未来、懸念をを毎日欠かす事なく記していたが、その手記は後々国の在り方を変えることにはならなかった。むしろ周辺諸国から蔑まれ、喰いものにされていたという事実は、ヲランドの跡を継いだ長男と主だった重臣の手によって隠蔽された。後々バルバティカ国王はヲランドの華々しい経歴のみを教えられて育ち、力こそが正義だと誘導されるように育てられた。
「……ふん。初代とは随分女々しい男だ」
バルバティカ国王に代々受け継がれる、初代国王ヲランドの手記を読み、当代バルバティカ王ーーエイグス・ダクシェーーは、鼻で笑った。
「こんな物が初代? なんの冗談だ」
エイグスか初代国王の手記を読んだのは、十歳になってからだった。初代国王の手記は古代草原で使われていた地方言語で、その言語を習得して初めて読むことを許される。
それは次代の王として認められたということを意味する。
だが、ヲランドの手記を読んだのエイグスには、ヲランドの何が偉大な王なのか、さっぱりわからなかった。草原の民を統一したことは、確かに偉業だろうが、その後がお粗末過ぎるとおもった。確かに文化や文明では諸外国に肩を並べるのは難しい。ならば奪えばよい。奪い、それをこのバルバティカの為に使わせれば良いだけのこと。
その頃からエイグスの中に、一つの目標が芽生えた。
初代が成し得なかった、他国との交易……ならば奪って、跪かせてやろう。
バルバティカは戦闘を得意とする民。長年戦など経験していない諸外国に、その武力を示し、恭順させれば、全て片付く。
もし、客観的に物事を見極める人物がエイグスの側にいて、エイグスに周辺諸国の力関係を詳しく説く者がいれば、エイグスも別の道を進んだかもしれなかった。
だが現実には、多くの人臣がエイグスの方針に賛同したのだった。
そして、バルバティカの侵略が始まった。
『奪え! 欲しいものがあるなら力を示せ! 力無き者に栄光無し! 』
圧倒的な武力で隣接する小国を飲み込んだバルバティカに、グァルディオラを始めとする大国首脳陣が頭を悩ませ始めた頃、彼らに齎された最悪の報告。
『バルバティカによる、レフェト王国侵略』
レフェト王国は、国土こそ小規模ながら豊かな資源を持ち、才能豊かな商人を多数輩出する、貿易大国であり、争いを何より厭う国だった。
グァルディオラ側が、バルバティカのレフェト王国侵略に気付いた時は既に遅し。元々武力皆無に等しいレフェトはあっけなくバルバティカに蹂躙された。
グァルディオラに出来たことは、逃げ延びた王子と王女の保護のみだった。しかも二人の王子王女は自力でグァルディオラまで辿り着き助けを求めたのだから、グァルディオラの本音としては面子丸潰れであった。尤も、レフェト王国の生き残りである二人のにとっては、必要最低限の交流しか持っていないはずの大国に助けを求めた訳で、そのあたりの面子や矜持等は預かり知らないところであり、故に、グァルディオラ皇帝のぞんざいな扱いさえも当然と受け入れたに過ぎない。
ーーそして、子供は成長する。
「ふん。大人しく囲われておれば良いものを。態々刈り取られにくるか」
成人男性の中でも特に背が高く、かつては筋骨隆々とした体躯を誇ったバルバティカ国王エイグスは鼻先で笑う。
レフェト王国をその手に納め、バルバティカはレフェトから上がる交易の収益の悉くを租税として強奪し尽くし、贅の限りを尽くすことを覚えた。
「かの姫は、中々に見目麗しき乙女となられたようでごさいますよ、陛下」
毎夜催される、バルバティカ国王の宴の席で、酌に来た男の人がエイグスに囁く。エイグスは御歳四十五。かつて精悍だった青年は、当時の面影を残しつつ、でっぷりと肥え太った腹を震わせて笑った、
「確かに、幼いながらも将来の美貌を約束されたような姫だったな」
にやり、とエイグスの顔がいやらしく、醜く歪んだ。
レフェトから上がる収益の大半に非人道的なまでの税を掛け、戦で枯渇していた財政を立て直したエイグスは、贅に溺れた。もちろん、そこに元々のレフェト王国に住まう人々への配慮など一つのもない。
奪われる方が悪い。弱いから奪われる。
奪われたくなければ奪えば良いだけのことだろう。
力のないものは、淘汰されるのが自然の流れというとのであろう。
侵略に侵略を重ね、その全てに勝ち戦としてきたエイグスは、奢っていた。
「して、あの娘、幾つになる」
「……確か、十四かと」
「ふむ。まだ幼いか……まぁ、育てるのも一興か」
「陛下?」
「連れてこい。儂自ら、紐解いてやろう」
その表情に浮かぶのは、戦姫と名高い美姫を蹂躙する愉悦からの下卑た笑み。
「……御命令とあらば」
酒を注いだ男は静かに頭を下げ、酒壺を近くに侍る妓女に渡すと、静かにその場を辞した。
その顔は、屈辱を耐える苦痛に歪んでいた。
バルバティカのお家事情です。
描いていて、エイグスの頭の悪さにイライラしました。




