第十九話 仕掛けの仕上げの裏には愛情
ローペース過ぎてすみません。
でも!
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空は重い曇天に覆われた夜だった。
「……来たか」
リュクロームは横になっていた寝台から身を起こし、静かに窓辺に近寄ると、音を立てないようにゆっくりと窓を開けた。
暫くして、その窓枠にひょこりと手が掛けられた。その手を目で追うと、その先に見慣れた美青年の苦笑があった。
「夜分にすまんな、リュクローム殿」
「……随分と無茶をされましたね」
「小言は後で聞く。とにかく、入れてくれ。この体勢は流石にしんどい」
窓枠に掴まったままのレオルリヒトは、窓枠にぶら下がったまま苦笑を更に深めた。
ーーーーーー
「時間を取って貰って感謝する」
窓から侵入したレオルリヒトは、向かいに座るリュクロームに詫びた。
レオルリヒトとリュクロームの接点は、少ないようでいて多い。それは二人が軍属の立場であることに起因している。ただ、リュクロームはリューシディアに付いていることが多い為目立たないだけであった。
「しかし、態々城を抜けてここまでくるなんて、君、ヒマなのかい?」
流石に侍従に頼む訳にもいかず、手ずからお茶を用意したリュクロームは自身の入れたお茶の味に満足して微笑みながら、レオルリヒトには刺すような鋭い視線を向ける。
「暇じゃないさ。でも貴方しかいないからな」
レオルリヒトは、茶の入ったカップをソーサーに戻しながら、にやりと笑った。
「リューシディアはどこだ? 何をしようとしている?」
遠回しな言い方をせず、真っ直ぐに切り込んできたレオルリヒトに、リュクロームは表情には出さずに苦笑した。
予定通りではあるが、レオルリヒトの真っ直ぐさは危ういと思う。市井であれば、その気質は尊ばれるかもしれない。だが彼が身を置くのは権謀術数に長けた妖怪が闊歩するーーとまでは言い過ぎかもしれないがーーその真っ直ぐさが仇になる世界だ。
これは一種の賭けだな、とリュクロームは思案する。
妹のリューシディアはレオルリヒトを買っているが、リュクロームは別視点からレオルリヒトを見ていることもあり、リューシディア程には信用していない。
確かに、頭の回転は早い。
だが、素直過ぎる。
思案した末、リュクロームは言葉を選びながら口を開いた。
「リューシディアの居場所を知って、どうするのかな?」
レオルリヒトから見てリュクロームのその態度は、レオルリヒトの予想を裏付けるものだった。
「あいつが、勝手をするなら必ずそこには意味がある。そして、あいつは周囲の誰かに、必ず手掛かりとなるものを残す。だが今回はそれがない。ならば残された手掛かりは、貴方しかいない」
「買い被りだねぇ? ルゥはさ、こう、と決めたら誰の意見も聞かない子だよ?」
「貴方以外はな」
「私の意見だって同じだよーー私はあの子の気持ちを最優先するだけだよ」
「っーーそれがっ!!」
リュクロームが僅かに声を荒げ掛けたとき、リュクロームはふっと顔を窓に向けた。それはレオルリヒトが侵入した窓と同じ窓だ。
リュクロームは、レオルリヒトの悪運の強さを感じて嘆息した。
「レオルリヒト皇太子。貴方は本当に運が良いよ」
そう言い置いて、リュクロームは窓辺に近寄ると、躊躇いなく窓を開いた。人一人がやっと通り抜けられるくらいの隙間から、するりと音を立てずに忍び込むその姿は、レオルリヒトには見覚えのない人物だった。
「こんな夜更けにすまないね。二人は元気かい?」
迎え入れたリュクロームは、親しげにその人物に声を掛けた。レオルリヒトからは逆光で顔はわからないが、背格好から男であることは確かに思えた。
事実、リュクロームに対して片膝を付いて頭を下げる人物から紡がれた、声も言葉も、男のものだった。
「リューシディア様、イアリナ様とも、お元気でいらせられます。若干一名、予定外の足手纏いがおりますが、お二人とも気にされるどころか、程の良い暇潰しとされて、戯れておられます」
その言葉に、レオルリヒトの腰が浮いた……が、目線だけでリュクロームに制されて、無言でソファに腰を戻した。
「それなら良かった。リューシディアとイアリナ殿が万全なら問題はないよ。わざわざすまなかったね。ティルト」
「……リューシディア様の為ですから」
「うんうん。そういう君だから、僕も安心出来る。これからも頼むね。あの子は……あの子は自分を蔑ろにするから」
「……必ず、守ります」
事情のわからないレオルリヒトを置いて、二人の会話はあっさり終了した。
忍び込んで来た青年は、来た時同様、僅かな窓の隙間からするりと姿を消した。
「……リュクローム殿。しっかり説明してもらいたい」
レオルリヒトは、自分が完全に遅れを取っていること、蚊帳の外であることを自覚する余り、座り切った目でリュクロームを睨み付けた。
仲間外れが嫌いな、寂しんぼな王子様。




