第十七話 仕掛けの仕上げ2
世間は連休モード一色ですね!!
……ブラック企業の社畜には無縁ですが(真顔)
「うーん…予定調和だけど、ちょっと不便だなぁ……」
「姫様。ちょっと不便どころかだいぶ不便です」
「そぉ?」
「君達に危機感はないのか⁈」
「命の危機じゃあるまいし、無いわね」
「予定調和を崩した元凶はどうぞお黙り下さい」
「元凶……⁈」
薄暗い石造りの室内ーーつまり、牢屋であるーーの中でリューシディアとイアリナ、更になぜかフラン・マドリュースの三人が、冷たい石の床に座り込んでいた。
「全く、運の無い奴」
「う……」
リューシディアから憐れんだような視線を向けられ、フランはがっくりと肩を落とした。
そもそもの起こりは昨夜、それも深夜と言っても良い時間帯のこと。
フランは偶然夜勤で城内な巡回に当たっていた。その最中、不審な人影を目撃した。
それは一瞬のことで、見間違えといわれたら納得してしまえるような、ほんの一瞬の出来事。だが生来の生真面目で融通の利かないフランは、その人影を追い掛けた。その結果ーー
「近衛騎士が背後から襲撃されて気絶なんて……情けないにも程があります」
イアリナのひと言がフランに留めを刺した。
「イアリナー。留めはともかく、首は刈り取らないようにねー?」
「心得ております」
「なら良いわ」
女主従の会話に普段のフランであれは『良くない!』と全力で否定していたはずだろう。しかし、失態を犯したばかりという自覚のあるフランは強く出られなかった。
「そもそも、マドリュース殿がいた場所は、近衛の巡回経路には入っていない場所の筈です。いくら不審な者を見かけたとはいえ、許可もなく後宮に入ること自体、越権行為ですわ」
イアリナの追求は続く。
「本来であれば、後宮警備を担う騎士隊……近衛の女性部隊に『不審者を追い掛けて来た』くらいの断りを入れ、女性騎士を伴うべきではないのですか?」
「そんな悠長な事を言っている場合ではないだろう! 後宮には皇后陛下に第一皇女殿下をはじめ、陛下の御子が住まわれているのだぞ! 何かあったらどうする⁉︎」
「そうならないように、我が主人が後宮から居を移さないのだと、いい加減にお気付きなさいませ」
「貴様ら如きに任せられるわけないだろう! 皇族の方々を御守りすることこそ、我ら近衛の本分だぞ⁉︎ どこの馬の骨ともわからぬ輩など、信用できん! だいたいお前の主人とその兄とやらが、真実レフェトの王族だと言う証拠がどこに……っ!」
激昂したフランの言葉は、鈍い打撃音によって止められた。
「それ以上は不敬罪と取るぞ」
「くっ……口より手が出るとは、育ちが知れると……ぅぐっ」
またしても、鈍い打撃音が響く。
フランと言葉を遮るように、二度に渡り腹部に拳を叩き込んだイアリナは、もはや殺気を隠すこともなく、床に蹲るフランを見下ろした。
「育ちが知れるのはどちらだ。思い込みで他者を貶め、己の歪んだ正義にすら気付かぬ愚か者。たとえ真実がどこにあろうが、レフェト王国譜代の家臣が主人の子と謳い、この国の最高権力者が、それを認めている以上は、それが真実で事実だ。貴様の言葉は、己が剣を捧げた主君を貶めるものだとさえ気付けぬとは、近衛とはかくも愚か者共の集まりであるか。グァルディオラ皇帝が近衛を戦地に出さぬのも道理。貴様らなど、国の恥にしかならん」
「このっ……平民出の侍女風情が愚弄するか!」
容赦無く紡がれるイアリナの言葉に、フランは漸く立ち上がると、その拳を振り翳したーーが。背後から向けられた、先ほどイアリナから感じたものより遥かに鋭い、研ぎ澄まされた抜き身の剣を突き立てられたかのような殺気に、言葉通り凍り付いた。
「それくらいにしておけ、フラン・マドリュース。マドリュース家の名が泣くぞ?」
掛けられた声は酷く愉快そうだったが、フランの背に突き刺さる殺気がその言葉を裏切っていた。
「イアリナもだよ。あまり言ってやるな。こいつらは自分達こそが最上の騎士だと奢っている人種だ。何を言っても響かないと思うぞー? そんなことより、時間だ」
リューシディアは、フランに向けていた視線を牢の外に向けた。そして、其処に一人の青年が牢の柵を挟んで立っていた。
「ーー遅くなってすみません。リューシディア殿下、イアリナ様」
そこに立つ青年は、華やかな美貌に申し訳なさそうな表情を浮かべたのち、静かに跪いた。
「大して待っていないよ。それより漸く会えたな、ティルト。元気そうで何よりだ。よく顔を見せて」
リューシディアが心の底から愛おしむような視線と声を向けた青年ーーティルト・エクレスは、顔を上げる。
「ご命令は全て恙無く完了しております。ここからはイアリナ様と共に、私めもお供させてただきます。どうぞ御心のままに。我が至高の主君」
ーーティルトは、華やかな美貌に相応しい、屈託のない明るい笑顔を浮かべた。
皆さんお気付きかと思いますが、ティルト君は一回登場しています。
そして、ティルト君のリューシディアへ向けた尊称「我が至高の主君」は、完全な造語です。
マイ・ロードでも、マイ・マスターでも、マイ・レディでも、なんかしっくり来なくて、作っちゃいましたw




