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剣に捧げる願い  作者: 滸 いろは
17/23

第十六話 仕掛けの仕上げ1

お待たせしました!


自分で作った構想に、文章力が追いつかないことが悔しい。

 その日は朝から清々しい空気に覆われた、よく晴れた日だった。

 だが、早朝に皇帝から呼び出された面々にとっては、暗雲立ち込める日々の始まりでもあった。


「リューシディアが居なくなったとは、どういうことですか!」


 主だった貴族の集まる会議場で、レオルリヒトは荒々しく両手を机に叩き付けて、一段高い場所に居る相手ーー皇帝を睨みつけた。

 例え皇帝の嫡子であろうと、公の場でのレオルリヒトは皇帝の臣として扱われる。本人もそれをよく知っており、普段は臣下としての礼を欠かさないが、今回ばかりは勝手が違った。


「どうもこうも、言葉通り消えたということだ」

「どうやって……」


 リューシディアの身は常に監視下にある。周囲に誰も居ないように見えても、影がしっかり監視していることをレオルリヒトは知っている。しかもリューシディアを抑え込めるだけの力量を持った手練れ達がその任務に当たっているのだ。

 あの包囲網を潜り、誰にも見つからぬように姿を隠すなど、不可能に近い。


 激昂したレオルリヒトとは対照的に、皇帝は面倒と言わんばかりの態度で答えた。


「レオルリヒト。あの小娘を気にするよりお前にはするべきことがあるだろう。くだらぬ暗殺計画一つ、暴けぬそうではないか。次期皇帝として恥ずかしいと思え。このまま失態を繰り返すようであれば、皇太子としての立場も見直さねばならぬな」

「……陛下。私未だ失態を犯した覚えはありません。確かに進捗が思わしく無いことは事実ですが、我が部下を愚弄されるのは、いくら陛下と言えど許容できませぬ」


 剣闘競技会を騒がせた事件について、レオルリヒトとて主犯の目算はある。だが断罪に足るだけの証拠がない。それを父である、至高の皇帝に揶揄され、レオルリヒトは言葉を失いかけた。言葉を無くさなかったのは、ひとえに皇太子としての矜持だった。


「目星は付いております。ただ、動かぬ物的証拠の確保に手間取っているに過ぎません」

「それが既に失態だと言っておる。御託はいらぬ。さっさと我が前に犯人跪かせろ」

「……承知、しております」

「ならば、もう良いーーさて、諸君。愚かにも姿を消した姫君ついてだが……」


 皇帝はそれ以後、レオルリヒトを見る事さえしなかった。眼前で進められていく、穿った推測ばかり並べ立てる貴族達に怒りを覚えながらも、皇帝から視線さえ向けられないレオルリヒトに発言権は与えられなかった。

 何を議論しようかを議論する貴族達に背を向け、レオルリヒトは静かに怒りを背中に滲ませつつも、ひっそりと会議場を後にする。ーーその後ろ姿に、皇帝が面白がるような視線を向けたことに気付かずに。

 会議場を抜け出したレオルリヒトは、すぐさま自分の執務室に篭った。


「アトルウィンを呼べ!」


 レオルリヒトに命じられた侍従は、慌ただしく執務室を出ていくが、幾ばくもせずに戻ってきた。


「殿下!」

「なんだ? 忘れ物か?」

「いえ、そうではなくて……」

「そろそろ声が掛かるかな、と思いまして」


 侍従の言葉を遮るように姿を現したアトルウィンに、レオルリヒトは目を見開いた。


「アトルウィン! その頭は……‼︎」


 アトルウィンの頭部には白い包帯がまかれ、長袖のシャツから覗く手首にも包帯が見えた。


「申し訳ありませんが、殿下。少々込み入った話をしても?」


 レオルリヒトの質問には答えず、アトルウィンは意味有りげに侍従や武官に視線を向けた。その視線の意味を正しく理解できないレオルリヒトではない。


「皆下がってくれ。私が呼ぶまで誰もこの部屋に近付くな」


 そう命じれば、誰もが静かに一礼して、手に残した仕事を抱えて退室して行く。


「なんか、俺。ほんと戦力扱いされてないよなぁ……」


 警戒すらせずに、あっさり世嗣ぎの皇子と二人きりにされるというのも情けない評価だな、とアトルウィンは自嘲した。もっとも、警戒しない侍従達にも問題はあるのだが、今はそんな場合でもない。


「で、アトルウィン。その怪我はどうした」


 全員の退室を確認すると、レオルリヒトは単刀直入に切り出した。


「あー…いや、ホント情けないことですけどね。昨夜リューシディア殿下のところに書類を届けようと思いまして、渡り回廊を抜けようとして、後ろからガツン!ってヤツです」

「……お前、武官だよな?」

「名ばかりの落ちこぼれですからーー」

「まぁ、無事で何よりだが……」


 あっけらかんとしたアトルウィンに、レオルリヒトも呆れたように苦笑した。


「けどまぁ、そろそろ動くってこと知ってましたけど、予定より早いんで驚いてはいるんですけどね」

「お前、まさか……⁈」


 暗殺者の存在を意識しているレオルリヒトは、咄嗟に剣に手を掛けた。


「違いますってー。これでも俺、帝国に忠誠誓った身ですよ?世嗣ぎの皇子を狙うなんてしませんよ。俺が言いたかったのは、リューシディア殿下のことです」

「リューシディア、の…?」

「そうですよ。って、言っても俺も詳しくは知らされてなくて、ただ、自分に何かあったらレオルリヒト皇太子殿下に届けるようにって、預かってた手紙があるんですよ」


 そう言って、アトルウィンは手にしていた書類の中から、一通の封書を抜き取った。


「……中は、読んでないんだな」

 渡された封書を確認したレオルリヒトは、素朴に疑問を口にした。絶対に気になるであろう封書は、綺麗に封蝋が施されたままで、開封の気配はない。


「これでも副官ですから」

「随分心酔してるようだな?」

「心酔なんてしてませんよ!冗談でもやめてください!だいたい亡国の王女なんて悲壮感や儚さもなんて微塵もなくて、ほんっとっーーーーーに!自由人過ぎて、理解に苦しむことはっかりなんですから!」

「…………」


 熱の篭ったアトルウィンの言葉に、心当たりのあるレオルリヒトは何もフォローできないで、深く同意してしまった。

 だがーー。


「それでもね。軍で落ちこぼれて、見下されて馬鹿にされて、蔑まれてた俺を拾ってくれて、軍文官って道をくれたのも、戦場を教えてくれたのも、陰険腹黒な連中と対等にやりあえる力をくれたのも、全部、あの人なんですよねぇ……」


 そう語るアトルウィンの瞳には、紛れもない敬意が篭っていた。


「それは心酔って言うんじゃないのか?」

「言いませんよ。これはアレですよ、恩義を感じるってヤツですよ」

「恩義、か……」


 そんな心持ちで皇帝に仕えている貴族、軍人がどれほどいるのだろうか……。


 レオルリヒトは自身の周辺を省みてーー苦笑した。

 アトルウィンがリューシディアに向けるような眼差しをしている者は誰もいないし、心当たりさえない。


「レオルリヒト皇太子殿下にとって、リューシディア殿下は好敵手のような存在でしょうから、なかなか感じ取ることは難しいかもしれませんが、一度リューシディア殿下の下で戦場に出てみれば、わかると思いますよ。ーーなぜ、軍部がリューシディア殿下に傾倒するのか、ね」

「アトルウィン……っ! それは……」

「あぁ、いけない。つい話過ぎてしまいました。言っておきますが、リューシディア殿下はこの帝国か滅ぶことなんて望んじゃいません。あの人の思考の基準はどこまでいっても、リュクローム殿下と祖国の奪還ですから。ーーそれじゃ、私はこれで」



 言うだけ言って、退室したアトルウィンの背を呆然とレオルリヒトは見送った。


 ーー俺は、酷い思い違いをしていたのではないか。


 兵とはーー敷いては民とは、その才能を見出し、育て上げるべき存在だったのではないだろうか。国の礎は既に築かれている。


 ならば、跡を継ぐ者としての役割はーー……。


「は……はははっ!」


 レオルリヒトは気付いた。

 自分の役割は自ら動くことではない。


 ならば。


「いいだろう。どんな策だろうが乗ってやる」


 レオルリヒトは、渡された封書の封蝋を勢いよく破った

こいつらね、この二人ね、ほんっと!

思い通りに動かないんですよ!!


シリアス目指してるのに、気をぬくとすぐにコメディがモコモコって芽を出そうとするんです……。

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