第十三話 仕掛けは念入りに1
遅くにすみません。
そして!ブックマークしていくださる方々増えてびっくりしました!
嬉しいです!!!!
本当に、ほんっっとーーーにっ!!
ありがとうごさいます。
多くの人間は自由に生きたいと思っている。
それにも関わらず、自由に思うがまま生きている人間を指して「変人」「異端」と扱うことは良くあることだ。それらはすべて「自由」という言葉に囚われた人間達の僻みなのかもしれない。
「不自由だからこそ、自由であることが楽しいと思えるんだけどね。人であれなんであれ、世界と関わった時点で、完全な自由なんて無い。」
「殿下が仰ると説得力があり過ぎますね」
「そうかい? 僕としてはリューシディアに会えない以外は概ね満足しているんだけどね」
「私は、納得していません」
「相変わらずサフィージオは頭が堅いねぇ」
庭に面した大きな窓の前に設えられた、白いソファに向き合って座る二人の男性。明るい陽射しが差し込む中、その美しい銀髪を陽射しで更に輝かせながら、年若い青年は優雅に紅茶を口に運ぶ。声は笑いを含んでいるのに、サフィージオに向ける深紫の瞳は笑っていない。
「殿下は甘すぎます! 第一、讃えられるべきは自ら人質を買って出た殿下ではあるはずです! リューシディア姫はただ剣を振るうしか出来ぬ、いわば皇帝の傀儡てはありませんか!」
「サフィージオ。口を慎め。君は僕とリューシディアを殺したいの?」
「……失礼いたしました、リュクローム殿下」
「全く。遮音していた僕に感謝して欲しいな」
「口が過ぎました」
鋭く光る深紫の瞳の一瞥に、サフィージオは頭を下げた。
サフィージオは旧レフェト王国滅亡の際、国軍副将軍に就任したばかりだった。
本来、幼い兄妹を国王夫妻から託されたのは当時の将軍だったが、亡命の道すがら追手を食い止める為、サフィージオに後を託して一人、深淵の森に残った。
その死の間際の姿を知ったのは、グァルディオラ領内へ入ってからだった。
剣聖とまで呼ばれ周辺諸国に武勇を轟かせていた、その将軍の最期は、騎士であれば誰もが褒め称える立派なものだったという。
数多の傷を負いながらも決して倒れず、最期は立ったまま意識を消失していたという。
サフィージオにとって、かの将軍は理想たる騎士そのものだった。願わくば、己の死に際もそうでありたい。
だからこそ、レフェト王国次期国王たるリュクロームの立場も、それを受け入れるリュクロームにも納得ならないし、本来リュクロームが在るべき場所を我が物顔で占拠している妹姫こそ、サフィージオには疎ましくてならない。
「あのね、僕はこの足では戦地に立てない。策を講じることはできても実行力はないんだよ」
「わかっているつもりです」
「つもり、ねぇ…? それじゃ駄目なんだっていい加減に理解して欲しいね」
その言葉に、サフィージオは言葉に詰まる。
本音を言えば何もかもが気に入らないのだ。
黙り込んだサフィージオに対して、リュクロームは先を促すかのように微笑んでいた。その柔らかな微笑みに釣られ、サフィージオの口から本音が漏れた。
「殿下は、悔しくはないのですか。私は悔しいです」
リュクロームには才能があるーーあったのだ。一流と呼べるだけの剣技を身につけられるだけの才を、サフィージオは幼少時から見せつけられていた。
しかし結果はーーいくら妹とはいえ、妾腹の姫を守って再起不能になるなど、統治者としては失格ではないか!!
確かに、今のリューシディアは押しも押されぬ姫将軍として英雄扱いだ。だが、リュクロームが再起不能な怪我さえ負わなければ、その勇名はリュクロームのものになっていたはずだと思うと、サフィージオは悔しくてならない。
「そうだね。悔しくないと言えば嘘になるかな」
「ならばっ!」
なぜ人質に甘んじるのか!
サフィージオはそう続けようとして、突き刺さるような殺気と向けられた鋭い視線に息を呑んだ。
「勘違いするな、サフィージオ。お前と私では悔しいの意味が違うだろう? 僕はね、幼いあの子に重荷を背負わせてしまったことが悔しい。あの子を守る方法を他に思いつかない事が悔しい。だけど君は、違うだろう?」
サフィージオは元々リュクロームの母ミチェルの実家であったナインセル侯爵家に仕える騎士だった。その後、レフェト王国騎士団に籍を移したのは、ミチェルの実家の命であったとことは、リュクロームも知っている。だが、それ以上にサフィージオはミチェルの幼馴染であり、それ以上の想いを持っていたことをリュクロームは知っている。それ故に母に生き写しと言われたリュクロームに執着していることも。その幸せを願っていくれていることも。
だが、それはリュクロームの心と反するものだった。
「サフィージオ。何度も言うが、あの時リューシディアが矢面に立たねば、僕は今よりもっと暗い世界を見ていただろう。君がどう思うかは自由だけど、リューシディアを妾腹の娘と蔑むことは許さないよ」
「蔑むなど!」
「蔑んでいるよ」
リュクロームは立場上、人の感情や思惑に聡い。故に気付いてしまった。
サフィージオがリューシディアを快く思っていないこと。リューシディアの活躍に苛立っていることに。
リュクロームの母は王の妃の中でも群を抜いて美しいと、その美貌を謳われた女性だったが、そのミチェルをして「誰より美しい」と言わしめた女性がリューシディアの母だ。妃の中でも最も位の低い男爵家の娘であったが、そとにかく聡明で、明るく朗らかな性質も相まって、側妃でありながら誰より王の寵愛を受けていた。正妃、側妃共に政略結婚であった中、リューシディアの母だけは、王自らが請い願って輿入れした妃だったことは周知の事実。
だがサフィージオは、リューシディアの母の所為でミチェルは王の愛情を失い、心を病み、やがて身体を病んでいったと思い込んでいる節があった。
……本当は、母こそがリューシディアの母に救われていたのだが、リュクロームはそれをサフィージオに伝える気持ちにはなれなかった。
「母から父の寵愛を奪ったリューシディアの母が、君は許せないのだろう? 僕の足のことさえ、君はリューシディアの所為だと思っている。違う?」
リュクロームの指摘に、サフィージオはぐっと唇を噛み締めた。
「この足は僕の自業自得。寧ろここまで回復したのは治癒を覚えたリューシディアが人目を忍んで、毎夜通って治癒を施してくれたからだ。両手にも満たない歳の幼子が人目を避けるために闇夜に紛れてここまで来たんだ。それがどれだけ難しいことか、わかるだろう?」
リュクロームの言葉に、サフィージオは目を見開いた。
当時、リュクロームもリューシディアも共に厳しい監視下に置かれていた筈だった。その監視体制は成人している者でも、見つからずにいるのは難しいと思えるほど厳重だった。サフィージオ自身監視対象の一人だったから、その警備体制の厳しさは良く知っていた。
「そんなことができるわけ……」
「できちゃったんだよ、リューシディアは。いいかい、サフィージオ。今後リューシディアを蔑むことも侮ることも僕は許さない」
「殿下……」
「話は終わりだよ。あぁ、面会時間も終わりだね」
少しも笑っていない深紫の瞳が、視線だけで出て行くように促していて、その鋭さと冷たさにサフィージオは何も言えずに踵を返すしかできなかった。
その背を見送ってリュクロームは息を吐いて、庭に面した大きな窓に歩み寄って、その窓を開く。
「サフィージオに釘は刺したけど、これで良かったかな?」
「十分だわ、兄様」
開けた窓の陰からひょっこり顔を覗かせるのは、最愛の異母妹。
「あまり危ないことをしては駄目だよ?」
「わかってます。それでね、兄様」
「なんだい?」
「少し知恵を貸して欲しいの」
罰が悪そうに視線を逸らす仕草さえ、リュクロームには愛おしいと思える異母妹に、リュクロームの頬は自然と緩む。
「いいよ。詳しく事情を話してくれるね?」
「もちろん!」
リュクロームは穏やかな笑顔でリューシディアを仮住まいの自室に招いた。
話が進まなくてすみません。
のんびり不定期ですが、気長にお付き合い頂けると幸いです。
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