第十二話 思惑は踊り出す2
今回は短めです。
因みに作者は能天気な単細胞なので
ほんっっっと!
複雑な伏線とかできません……
謎解きは期待しないで下さい。
「ふーむ……。やはり小物は小物じゃなぁ。まぁ餌としては充分かのぉ」
表情筋が死滅していると陰で囁かれる程、無表情が板に付いた男は、噂を裏切るかのように含みのある笑顔を浮かべて、面白がるような視線を部下……否、協力者たるもう一人の男に向けた。そこに噂のような鉄面皮はいない。
「こんな回りくどい手段でなくとも良かったのではありませんか」
「回りくどい手段だが、最終的にはこれが一番の近道の筈なのだがね?」
「……差し出がましいことを申しました」
「構わんよ。それゆえの、其方の立場だ」
「寛大過ぎるのも考えものですね」
「ぬかせ。そのおかげで其方がここにいるのだろうが」
「分かっております。ただの愚痴です」
その部屋には老年に差し掛かった気配を見せる、上品な紳士と、見目整った少年とも見紛う程の青年がいた。言葉の端々に主従を匂わせながらも、二人が醸し出す空気は気安いものだった。
「まぁ良い。それで本題だが」
「ええ」
「接触してきたぞ」
「流石の聡明さですね」
「姫であるのは、我が国にとって幸いであろうな」
「随分とお気に入りのようですね」
「娘に欲しいと思う程度には気に入っているな」
「……ご子息らの嫁に欲しいと?」
「いや。わしの娘じゃ」
「…………」
真っ黒な笑顔を交わし合う父娘の姿を想像した青年は、狸と狐の化かし合いを思い浮かべて若干青褪めた。
「何と言うか……気の毒ですね」
思わず突いて出た言葉はどこに向けられたものだろうか。それは呟いた青年でさえもわからない。ただ言えるのは、敵に回すには怖すぎる人間同士が手を組もうとしているということだけ。
「それも一興であろうよ。で? ジェネストよ。動きは?」
ジェネストーーその青年の呟きをさらりと無視し、老年の紳士はくつくつと喉を震わせて、ジェネストに視線を向ける。
視線を向けられ、ジェネストは先程からずっと抱えていた書類の束を、老紳士の前の机に差し出した。
「皇帝は動いていません。皇太子の方は手駒を隠密裏に動かして調べているようですか、我々まで辿りつくにはもう少し掛かるでしょうね。軍部は……比べる価値もありません」
「そうか。やはり軍部は随分と侵食されているか」
「将軍や側近はまだ有能ですが、手駒が不足し過ぎですね。憐れにさえ思えますよ」
「部下の育成を怠った報いじゃ。自業自得じゃな」
かかかっ、と老紳士は小気味好い笑い声をあげた。
「さて、大方の動きはわかったが、問題はアレじゃ」
「いまだ、動く様子はありませんね」
それまで、何処か和やかだった空気が一転、突き刺さるような鋭い物に変わり、二人の目線も一層鋭くなる。
「命を狙われて尚、動かぬか」
「自分が狙われたとは考えていないのでは?」
「アレはそこまで呑気ではないよ。なにせその身一つで国一つ滅ぼせる能力だ。あの聡い者が己の価値に気づかぬ筈もなかろう」
口調こそ重たいが、老紳士の表情は面白いものを見つけた少年のように朗らかだ。
「ジェネスト。すまんがもうひと仕事、引き受けてもらえんかの?」
「内容と報酬次第ですね」
「儂がそなたの力量を把握できておらぬと申したいのか?」
「いえ。過大評価は困るもので」
ジェネストは自分の力量を正確に把握していると自負しているし、無理をしてまで目の前の老紳士に尽くす義理も恩義もない。
「有能だが、面白味のない奴じゃな」
「お褒め頂き、光栄ですね」
「褒めとらん。年の割に醒め過ぎてつまらん奴だ」
「私のような者には最高の褒め言葉ですよ」
「あぁ言えばこう言う、とは正に其方のことじゃなぁ」
「その言葉、そっくり返しましょう。血は争えないと言うことですよ」
ジェネストは溜息と共に言葉を吐き出すと、老紳士から差し出された小さな紙切れを受け取った。
「老い先短い老人を追い詰めるのは良くないぞ?」
「貴方なら平均寿命の倍は生きそうですから、問題ありませんね」
言いながら庭に面した大きな窓を開き、窓枠に脚をかけた。
「せいぜい長生きして下さいよ、イェンリートの妖怪爺」
「ぬかせ、小童」
愉快極まりないというような笑い声交じりの言葉を背に受けながら、ジェネストは窓枠からひらりと庭へ飛び降りた。
ーーーーー
部屋に一人残った老紳士ーーウィルスバート・ヴァルスウェイル・イェンリートは、笑いが治らぬまま、執務机に寄り掛かかる。
「さてもさても、楽しみなものじゃ。せいぜいこの老体を楽しませて欲しいものじゃ」
ジェネストが飛び降りた窓の外から、飛び降りたジェネストに驚いたらしき侍女達の声を聞きながら、ウィルスバートは言葉とは裏腹に、柔らかな優しい笑みを浮かべて、青空に視線を向けていた。
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