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剣に捧げる願い  作者: 滸 いろは
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第十一話 思惑が踊り出す

お待たせしました!


リューシディアとイアリナは以心伝心です!


※百合ではありません。

 ぱさり。

 音を立てて紙の束が机に放り出された。


「……このまま実行するのは危険かと」

「ふん。貴様ごときが知った口を利くか」

「彼等を信奉する人間は軍部に増えております。もし彼等がその信奉を頼りに兵を集めて始めたら、我が国はーー」

「あり得ぬさ、アレにそれ程の力かあるわけがない」


 グァルディオラ帝都の貴族街の一画に建つ、瀟洒な屋敷。

 そこで行われる密談を知る者はなく、話題にされている当人すら、密談が行われていることも知らない。それは只々、己の欲望を満たそうとする者による密談。


「所詮囚われの男雛と鎖に繋がれた女雛だ。いくら兵の信を得ようとも立場は変わらぬ。陛下とて都合良く利用しているだろう? 儂が手ずから手折る日が楽しみだ」


 恐らく名のある工房が作ったと思われる椅子に座るのは、豪奢な装飾の施された絹の衣服に、煌びやかな宝石で飾られた装飾品を身に付けながら、その体躯は肉に埋もれ、醜悪とすら言える容貌の口元を歪めるにする男。


 貴様のような無様な畜生が、あの方々を手折れるものか!


 相対する、男の対極とも言えるほど美しい青年は、これは任務なのだと、その美貌に作り物の華やかな笑顔を纏いながら、男の言葉に内心で毒を吐く。

 青年は真実、グァルディオラ帝国に忠誠を誓っている。グァルディオラ帝国の良き未来の為であれば、どんな泥も被る覚悟があるし、実際に泥を被っている。だが忠誠とは別に、聖域とも呼べるほど敬愛を捧げる女性がいる。

 全て失い、出口の無い暗闇を彷徨って自暴自棄になっていた地獄のような日々から救い出し、希望を与え、誇りを取り戻させてくれた、何より、誰よりも尊敬する女性。

 それをこの男は下品にも手折ると言う。既に網が張られていることにさえ気付かない愚鈍な輩。


 あと少しだ。あと少しでこの汚泥を拭い去り切れる。

 恩人たる彼女に、ひいては彼女が大切にする者達に報いる為にもグァルディオラ帝国の膿は排除する。



 ーーーーーー



「…………」


 渡された報告書の最後の一枚を読み終え、リューシディアは完全に言葉どころか表情さえ無くしていた。


 競技会を狙った皇帝暗殺騒動から半月。

 軍部総動員での調査にも関わらず、証拠となりうるものが一つも出て来ない。リューシディアの不機嫌は、最高潮に達しようとしていた。

 だが。


「一国家の総軍より、侍女一人の情報収集能力のほうが高いってどうなのよ」


 漸く口を開くと、紅茶の用意をしていた侍女が振り向いた。


「ふふ。姫様を驚かせることができて嬉しいですわ」

「自分の目の確かさを賞賛したいわ」


 音一つ立てず、リューシディアの前に淹れたての紅茶を出すイアリナに、リューシディアはにっこり笑った。


「悪いお顔になってますよ」

「生まれつきよ」

「言い方を変えましょう。目が笑ってません」

「ん?」

「気持ち悪い微笑みはおやめ下さい」

「……酷い」


 リューシディアが浮かべたあざとい笑顔を、イアリナは一刀の下に切り捨てた。軽くショックを受けて俯くリューシディアに構わず、イアリナは声を掛けた。


「それで、お役に立ちそうですか?」

「あぁ、うん。軍部からくるやつ(ほうこくしょ)よりもずっと信頼できるわ」

「ならば良かったです。ーーが、何が気に入らないんです?」


 にっこりと隙の無い笑顔のイアリナとは対照的に、リューシディアは憮然とした表情だった。


「……るから」

「はい?」

「だから、イアリナが優秀すぎるから!」

「意味がわかりません。優秀であるに越したことはないと思いますが」

「だって、ここまで調べて来いなんて言ってないわよ⁉︎」

「言われずとも動くのが仕事です」

「だからって、なにもこんな大物引っ掛けてくるんじやないわよっ!」


 イアリナが提示した調査結果に記された名前は、この帝国の皇帝さえも頭が上がらないといわれる、言わばグァルディオラ帝国一の重鎮であり、御意見番。

 大公爵ウィルスバート・ヴァルスウェイル・イェンリート。

 先の皇帝の異母兄であり、皇帝にとって伯父に当たる人物である。

 第一皇子であったが、母は子爵家出身の側室。しかし本人は幼い頃より文武に才能を発揮し、神童とまで呼ばれた天才。先の皇帝である弟皇子が生まれるまでは、誰もが彼を皇太子として暗黙のうちに認めていた。

 しかし先の皇帝は正妃の生んだ子であり、その皇子が兄皇子には及ばすとも聡明であったため、ウィルスバートの扱いは非常に難しいものとなった。

 ーーのだが。ウィルスバート八歳。四歳下の異母弟が聡明とわかると、誰に相談することもなく、あっさり当時の皇帝と臣下の誓いを交わし、家臣として生母の実家であるイェンリート子爵家に、母を引き連れて引っ込んでしまった。

 結果、帝国に予想された皇位継承争いは起きず、さりとて皇子を子爵とするわけにもいかず、イェンリート子爵家は伯爵家に陞爵。その後、ウィルスバートは先の皇帝の懐刀として表裏関係なく尽力し、現在は大公爵として畏れと共に敬われている。


「あの大公爵が仕組んでるなら、必ずグァルディオラに関わる重大事があるはずだわ」

「単純に欲に駆られたということは?」

「イアリナ。愚問よ」

「分かっておりますが、可能性の一つとして申し上げたまでです」

「可能性、ねぇ……?」

「はい。可能性です」


 二人はひっそりと微笑み合う。


「想像でしかないけど……嫌な役回りを押し付けられたみたいね」

「味方としてはこれ以上ない御方様かと」

「腹括るしかないかー。イアリナ」


 リューシディアの表情が引き締まる。整った顔はまだ幼さが残るものの、その瞳は大の大人さえ黙らせる程の強さがある。


「繋ぎなさい」

「良いのですか?」

「原因は想像付くけど、狙いがわからない。それなら懐に飛び込んでしまったほうが動きやすい」

「仰せのままに」


 たったひとこと。誰に、とも指示はない。

 それはリューシディアの保身とも言える。けれどイアリナはそれに嫌悪を微塵も表さない。イアリナにとって守るべきはリューシディアただ一人。

 リューシディアの保身を考えない言動を咎めはすれど、保身を考えた言動を咎めることはない。


「吉報をお持ちします」

「ええ。待ってるわ。だけど、必ず戻りなさい」


 リューシディアの言葉に微笑みを返し、イアリナは茶器の乗った盆を手に退室する。


「…無茶だけはしないでーー」


 扉を閉めたイアリナに、リューシディアの声は届いていない。

王宮的な場所を舞台にすると、権謀術数って必須科目な気がします。

戦記的な話はまだ先になりそう。


RPG的には、リューシディアは仲間集めを頑張ってます!


応援してあげて下さい!

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