第十話 始まりの砲撃
戦いを文章で表現するのは難しいですね。
細かい戦闘描写って、どこまで細かくすれば良いのでしょう。
戦闘描写、勉強します。
剣闘競技会は最終日を迎えた。
予選、本戦を戦い抜いた強者八名が出揃い、観客の声援も一際激しい。
そんな中、リューシディアは面白くない、とその美貌を曇らせていた。
「こんな時だからってのは、まぁ、わかるんだけどねぇ……」
楽しみにしていた決勝トーナメントなのに、リューシディアは競技会場の外にいた。
見世物扱いだった御膳試合の日から、本来であればリュクロームと今日まで一緒に過ごせる筈だったのだ。
その筈だったのに!
ある筋から齎された情報のせいで、仕事だ。
ーーその情報は昨夜遅く齎されたものだ。
リュクローム兄様に甘えたいだけ甘えて、更に明日も一緒に居られると思い、この上なく幸せな気分でいたのに、だ。
グァルディオラの天敵、バルバディカ。
リューシディアにとっては仇であるバルバディカの密偵が入り込んで、競技会の最中を狙って皇帝を暗殺しようとしている、などという情報が入ってきては、のんびりもしていられない。
「許すまじ、バルバディカ」
「どうかなさいましたか?」
「……なんでもないわ」
呟いた言葉を拾ったグァルディオラ軍の兵士を誤魔化し、ため息ひとつでリューシディアは気持ちを切り替えた。
影者からは、今日仕掛けるというところまでしか確認が取れていない。正直なところ「護衛せよ」と言われたところで、どこを中心に護衛すれば良いのやら。
皇帝周辺、ひいては王族席や貴賓席周辺は当然初めから警備は常になく厳重にした筈だった。だが、それで充分かと問われたら、リューシディアは答えられない。
相手の思考を完全に読むことなど不可能だからだ。それにバルバディカのやり口は常に卑怯極まりなく、無関係な人間を巻き込むことも厭わない。
とにかく悪質な手段が得意な奴等なのだ。遅れを取れば致命傷になる。
「競技の進行状況は把握しているな? 」
リューシディアは隣に立つ下士官に尋ねると、その兵士は敬礼とともに頷いた。
「事前指示に従って、兵を配置しております」
「ありがとうーーそうよね。指示通りに配置は出来てる筈なのよ」
後半は完全に独り言なのだが、その呟きは周りの歓声に掻き消されて、誰も拾うことはない。会場の図面や周辺地図に合わせて、敵の動きを予測できる範囲で予想して兵を配置したのだ。けれど、どうにも何かが引っ掛かって、納得出来ない、釈然としないものがあった。
ーー胸騒ぎがする。
何か見落としているのでは無いかという思いが消えない。
「少し会場を見てくる。ここを頼みます」
「了解であります!」
剣闘競技会と銘打っているが、魔法の使用は禁止されていない。それは私とレオルリヒトとの御前試合でも明らかだ。
もし、魔法が暴発したら……?
制御不能には陥り、発生した魔力の塊が王族席に飛び込んだら?
不安は尽きない。
今、あの皇帝に居なくなられるわけにはいかない。もし現皇帝が居なくなればリューシディアの立場は勿論、祖国奪還も危うくなる。
グァルディオラが支援してくれているのは、現皇帝の一存なのだ。次期皇帝たる皇太子レオルリヒトに、グァルディオラ貴族を現皇帝程に抑え切る力量はーー無いだろう。
「競技会進行に問題は?」
会場に入り進行担当に確認すれば、現時点では問題は起きていないとの回答。
「わかった。私は王族席近くに控える。少しでも違和感を感じたら伝令を」
「承知しました」
観戦に沸く客席の人混みを縫って歩きながら、視線は一際高く、ひらけた場所にある王族席から視線は外さないように努める。
「……なんだってこんな日に」
人の多さにある辟易しながらも歩みは留めずにいると、ふと何かが引っ掛かった。
人が多い。
帝国の中心である以上、人の多さは元々だが、このお祭り騒ぎで競技場には、元からの帝都の住人だけでなく、地方からも人が集まっている。つまりそれだけ人混みに紛れ易いということになる。
いや、待て。
それこそが相手の思う壺なのでは?
ーーもし私なら?
答え。
夜間、人のいない時間に侵入して仕掛ける。
「!!」
明確なものではない。けれどリューシディアの感覚ははっきりと警鐘を鳴らした。殆ど無意識にあと少しで辿り着く王族席へ向けて駆け出した。
「護衛班! 王族席と貴賓席の座席下を調べろ!」
耳に装着した通信用魔道具に慌てて声を発したが、それと同じくして、観客席から悲鳴が上がった。視界の片隅で、巨大な火炎弾が構築されているのが見えた。それを構築している人物の表情まではわからないが、雰囲気から焦っているのは見て取れた。
火炎弾が術者たる魔法剣士の制御を離れているだろうことは、容易に想像が付いた。術者もなんとか制御しようとしていたようだが、結局、術者の制御から離れた火炎弾は、吸い寄せられるかのように王族席へ勢い良く飛んで来る。
「間に合えーーーっ!」
結界の構築なんてしてる余裕はなかった。
そもそも遠隔結界なんて高度な技は持っていない。リューシディアが咄嗟に取れた手段は、速度優先の、普段なら絶対に行わない無詠唱魔法で構築した氷壁を幾重にも重ねて築くことのみ。
それでも、当の術者が粘ったお陰で、多少の猶予があったことは救いだった。
多重氷壁が完成したかしないかの瞬間、王族席に突っ込んだ巨大な火炎弾は、競技場の半分を覆い尽くすほどの熱量を昇華させて爆ぜた。
リューシディアにも、爆煙なのか水蒸気なのかわからない。
ただ、感覚的に火炎弾は氷壁に着弾したのだということだけはわかった。もちろん、それが彼等を守れたかどうかは別だ。帰化した熱で火傷を負うことだって充分に考えられる。ただ、リューシディアはその点については心配していなかった。
予定上、今日はそこにいないはずの、あの人がいる。
やがて晴れて行く煙幕の彼方、火炎弾の直撃を受けた筈の王族席に、幾つかの人影が現れる。
「我は大事ない。 皆の者は大事ないか!」
競技場全体に轟く力強い声に、騒然となっていた客席から歓声が湧き上がる。それは皇帝の無事を喜び、讃える声に他ならない。
そんな歓声を他所に、リューシディアは漸く王族席へ辿り着き、王族席に居た全員の無事をその目で確かめることができた。そして、リュクロームの無事な様子に安堵のため息が漏れた。
そのリュクロームは、リューシディアに気付くと、周囲からはわからないように小さく頷いてみせた。
その後。
結論から言えば、剣闘競技会は中止となった。然もありなん。事故か故意かは不明とは言え、王族が命の危険に晒されたのだから、お祭り騒ぎを続けている場合ではない。
今回の騒動に決着が付くまで、決勝トーナメントは無期延期となり、もし再開されなかった場合には、今回の決勝トーナメント進出者は次回大会で予選無しの決勝トーナメント参加という約束をする事で一応の了承を得た。
そう言った事情は表のことであり、リューシディア自身は表のことなど気にする余裕はなく、犯人探しに奔走する羽目となり、副官のアトルウィン共々、犯人へ八つ当たりを含めた怒りを募らせる日々を送っている。
ありがとうございました!
拙いものですが、感想や評価いただけると嬉しいです。
また、よろしくお願いします。




