マッディ・エマ
ゴリゴリ、ゴリゴリ…
すごい勢いで、エマが薬草をすりつぶしている。エマは、くたびれたエプロンを来て、長い赤毛を結んでいた。
「何やってんの?」階段から降りてきた、茶色い髪と瞳をした少年、マッドが聞く。
「何でも…、ないわ………あのアマァァァァァ!!」
「ええー!?ちょっと、泣いてんの。」
エマの緑の目から、涙がぽろぽろ落ちる。
「あーもう、何があったんだよ。」
「ガルーがね、ガルー、昼間は、ちょっとかっこいいでしょ?」
「そう?」マッドは、そう思わなかったらしい。
ガルーとは、この街に住む狼男のこと。月明かりを浴びると、人間から狼男になる。
「で、どっかの女が、ガルーに会いに来てて、二人して私をバカにしてー!!!
にんじんみたいな髪とか、汚いにんじんとか、
不味そうとか、ガルーまで言い出して!!」
「確かに、今日小汚いね。」マッドが、エマをまじまじ見て言った。「風呂、入ってない?」
「…。」
「おれも昨日入ってないけどさ…。」
「ううう…。だからあの女に復讐してやろうと…。」
「へぇ。」マッドがニヤリとした。
「睡眠薬と食欲が増す薬を混ぜたいのよ。」
「じゃあ、これ入れて、このまじないで…」
「完成ね。」透明の液体が入った小瓶をテーブルに乗せて、エマが言う。「問題はどうやって飲ませるか。食べ物に入れて持って行っても、食べてくれないだろうし…。」
「無理矢理、飲ませる。」とマッド。
「どうやってよ?」
「ガルーの家の、食べ物に、片っ端から入れてけば?」
「それ、いい!!」エマが顔を輝かせた。
という事で、ふたりは狼男の家に行った。赤いレンガ造りの立派な古い家で、女とガルーは寝室にいた。
こそっと、忍びこんだエマとマッドは、二人が食べそうなもの、飲みそうなものに、薬を一滴ずつかけていき、こそっと出ていった。
数時間後、エマとマッドが、ガルーの家に入ると、ぐっすり寝込んだ二人を、ソファーの上で見つけた。
「このままでうまくいくかな?」
「いくわよ。飢えてるときに、目の前に人間の女がいたら絶対食べちゃうわ。」
「じゃあ、このままでいっか。」
家に帰ったエマは、マッドに向かって言った。
「あーあ、でもこの作戦だと、ガルーにも、あの女にも
復讐だってわからないなぁ。」
次の日、ガルーはどうして彼女を食べたのか、不思議に思っていた。