お別れ
大変遅くなりました。ごめんなさい。
目覚まし時計が鳴る。
僕は周りを見渡し、いつもの自分の部屋だったことを確認した。
「よかった…夢か…。長い悪夢だったな…」
母が死んで、友達が敵になったなんてひどい夢だったよ…。
今日は悪夢のせいでいつもより目が冴えた感じがする。
起きて、顔を洗いリビングに向かった。
「おはようー、母さん」
「おはよう。もう少しで朝ごはんできるから座ってなさい」
「うん」
椅子に座る、目の前のテーブルにコップに入った牛乳を置かれてから、サラダや食パン、目玉焼きと並べていかれた。
「はい、準備出来たわよー」
「うん、ありがとう。いただきます」
目玉焼きを食パンに乗せ、食べながら夢の話を母さんにした。
「そういえば、酷い夢を見たんだよ」
「どんな夢だったの?」
「よくわからない人に突然、家を壊されて…その…母さんが殺されたんだ。
そのあと、母さんを殺した奴に復讐しようとしたら奏士に裏切られて戦わないといけない夢かな…」
「そう…」
「まぁ、夢だったから良かったよ」
「響…それはね」
ん?何か違和感…。
それよりもどうしたんだろ、
母さんがすごい暗い顔をしてこっちを見てくる。
こんな顔今までされたことないのにな。
「あのね、響…なんでもないわ。今日は学校休みでしょ?」
なんか、凄い違和感がある…。
でも、あんまり気にならないような。
「うん、休みだよ。創立記念日」
「何か予定とかあるの?」
「うーん、特にないかな…多分、涼介たちといつものように遊ぶと思うよ」
「そう、私はこの後買い物に行くから出掛けるときは戸締まりお願いね」
「ん、了解…」
あれ、いや、おかしい。何かがおかしい。あれが夢?違う…。
こっちが夢だとはでも思えない…。
僕は洗面所まで早歩きで歩く。
そんなはずはないと思うでも、もしと思うと確かめるしかなかった。
「響??どうしたの?」
応える余裕が無い。
洗面所まで着く。
鏡を見ると、写っているのは女の子。
あの後の、本当の姿らしい。女の子の僕だ。
そうか…これが夢か…そうだよな…。
そのまま、リビングに戻ると心配そうな顔でこちらを見ている母さんに
「ごめん、なんでもないよ。でも…」
認めたくはない。あんな悪夢みたいなのが現実でこっちが夢だなんて…。
「母さん、これが夢なんだね」
母さんは驚いた顔をした後に悲しそうな顔になる。
「そう…、このままここに居ても良かったのよ…?
それとね、響…ごめんなさい」
「なんで、謝るの…?」
「響を悲しませたからよ。
それに、あんなことになってるのにそばに居てあげられなくて」
母さんが泣きそうになりながら言った。
「違うよ…母さん…。確かに母さんが死んだのは辛かったし悲しかった。
でも、謝らないで…むしろ、ありがとう…今まで守ってくれて…」
そう伝えるのが精一杯だった。喋っているうちに涙が溢れてくる。
「響…、ありがとう…貴女が生まれて、こうやって生きていてくれて…」
母さんは目に涙を溜めながら、しっかりとこっちを見て言う。
「うん…」
「響、母さんはもう何もできない。でも、貴女が私のために復讐しようと、
どれだけ、血で汚れても、辛くても、死なないで。死んだら何もなくなるから。
どんなに悲しいことがあっても生きて…。生きていれさえすればそこから何かはできるから…」
そう言いながら僕の頭を撫でる。
「わか…った…」
「いい子ね、さすが私達の子」
励ますような元気な声で母さんが言う。
「響、貴女は独りじゃない」
「そうだね…、頑張るよ…母さん。復讐とかそういうのはまだわからないけど」
「貴女の好きにしなさい。貴女自身の人生だもの。だからこそ、しっかり生きて」
「ありがとう母さん。最後に会えて話せてよかったよ。これが夢だとしても」
「そうね、お父さんに我がまま言って正解だったわ」
「え?」
父さん???
「じゃぁ、もうそろそろ起きると思うわ」
「えぇ!?」
「いってらっしゃい」
「…いってきます。ありがとう、母さん」
本当に、今までありがとう。