なんで?
走りながら確認をする。
あれは間違いない!あの時の黒スーツの男だ!!!
走った勢いを利用し、そのままこの男の頭を掴んで床に叩きつけようとすると、男がこちらを向き
「待て、こんなところで騒ぎを起こしてどうする」
「っ!!!…そんなことより、どうして貴方がここに居る?あの男も居るの?」
この男に話しかけられたことに驚いたが、冷静に言われたことの内容を理解し平静さを繕いながら聞いた。
「狐塚 昂牙」
「…何?」
「俺の名だ。そして、お前の探している男の名が狐塚 皆斗」
「なんで、そんなことを教える?」
突然、自分の名前とあの男の名前を教えられ、何か目的があるんじゃないかと疑う。
「あの時、見逃してもらった礼だ。そろそろ合流する。話しはここまでだな。あいつに見つかると面倒だぞ」
「それで僕が引き下がるとでも?」
「…。それでも面倒になるぞ」
こちらを説得しようとする雰囲気に、少し戸惑うこの人は敵なのだろうか?と、考えていると左の方からこちらに向かって声がかかる。
「おぉー、なーんか妖力感じたから来てみれば響じゃーんってあれ?灰色にもどってらー。
てか、犯してから殺してー」
「遅かったか…」
母さんを殺した男を目にした瞬間、殺しにかかる。
「お?おぉ!あっぶねー。こんな人前で暴れんな。それと俺はこのあと予定あるから~。とりあえず、お前なんで遅れたの?俺が待ってたんだぜ?殺すぞ」
「…すみません、若。では、予定通り行きましょうか」
「待て、お前だけは殺す」
「はぁ~、俺はこのあとか~な~り~重要な予定あるから。んじゃー、足止めよろしく~。奏士」
「分かった」
狐塚 皆斗の後ろの方から見覚えのある大男がゆっくりとこちらに歩いてくる。
「なんで、奏士がここにいるんだよ!?」
僕の友人の奏士が狐塚 皆斗の命令で目の前に立っている事実を拒み、叫ぶ。
「響!!!」
涼介が走ってきたが、朱里さんが居ない。
「涼介…、朱里さんは?」
「姉貴は人払いの結界と情報操作だ。目撃者が多い…。」
「そう…」
別に襲われたとかそういうのじゃなくて良かった…。
「話しは終わったか?俺は足止めをするように言われてる。
お前らが奴を追うなら俺が相手になろう」
「奏士か…、大体の事情は分かってる…が、どうしようもないのか?」
「涼介…、お前なら分かるだろう?例えお前たちを殺してでも俺は守りたい」
「そうか…」
奏士と涼介はお互いが悲しそうな顔で睨み合う。
「ねぇ…なんで…なんで、奏士が狐塚の…あの男の味方をしているの…?…なんでなんだよ!?」
「それはな…「言わんでいい、涼介。響だろう?随分と見た目が変わったがやはり雰囲気はかわらんな。
それと、俺がここに居るのは俺の一族は大昔に鬼と混じってな」
「だから?だからってなんで?!!狐塚の味方をするだよ!!!」
「俺の一族は鬼故に一番強い奴が長になる。そして、俺の一族は昨日、狐塚に壊滅させられた。俺含め、何十人かは残されこうして捨て駒にされているということだ」
「……」
昨日…、奏士も何かあったのか…。
「そう、だったんだ…。でも、それでなんで…そのまましたがってるんだよ…っ」
「響、お前には関係ない」
「それでも!!!僕に何かできるかもしれないじゃないか!!!!!!!」
何もできないかもしれない。でも、それでも話してくれたらなにかできるかもしれない。だから、僕は叫んだ。
「ありがとう、響……でもな
『呪憑き』は誰かを救うことなんてできない。
できるのは呪う事と殺す事だけだ」
それを聞いてから僕は動くことができなかった。
そのまま奏士に蹴られ、涼介の所まで吹き飛ぶ。
動く気力もなく倒れたまま、体を丸めた。
堪えようとした。でも、堪えられなかった。
体を丸めたまま僕は泣いた。
「奏士っ!!!!!!!!!てめぇ!!!!」
「事実だろう?そういう歴史しかない」
一触即発の雰囲気を破るように奏士の携帯が鳴る。
「はい…、了解しました」
それを聞きながら、涼介は落ち着きを取り戻そうとする。
「おい、奏士。最後の確認だ…お前は狐塚の方へつくんだな?」
「…あぁ、そうだ。じゃあな」
「そうか、分かった…」
「それとな、涼介。響を頼む」
「あぁ…」
涼介はこの2日でいろいろありすぎて、疲れきっていた。
ふと、横目に見ると
遅れてやってきた。朱里が響を抱きしめていた。
(´・ω・`)