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異世界トリップⅧ

「……ゲーム?」


僕は彼女の不可解な言動に眉をひそめた。


「そんな怖い顔しないで。ルールは簡単よ、今あなたの腕は私の魔法で動かない。どんな手を使ってもいいから、私の魔法を解いてみせなさい。どう、出来るかしら?」


 ネコミミは不敵な微笑を浮かべた。


 どんな手を使ってもいい?


「何だ、割といたずら好きなんだな。可愛い顔して」


「少し、ちょっかいを掛けてるだけよ。そのくらいいいじゃない?」


 ネコミミは嘲笑しながら軽く言うと、僕の頬に手を伸ばした。


 さて、どうやって攻略しようか?

 そもそも、魔法を解くなんてどうやるんだ?

 例えば、術者の感情を揺さぶるとか……?


 やってみよう。


「ねえ、君? 今から僕と付き合ってくれないか?」


 僕は少し考え込むようにうつむくと、少しだけ間を取ってから声のトーンを落として尋ねた。


「これが本当なら別に付き合ってあげてもいいのだけれど、私の心を揺さぶっても無駄よ?」


 ネコミミは満面の笑みで僕の要求を拒否する。


 くそ、人生初めての告白が犠牲に!

 一体、どうやったら攻略できるんだ?

 もしも、僕の腕が動かせていれば、この状況はトランス・テスラを使って魔法無効アイテムで打開できるんだがな。

 今、この……手どころか指すらまともに動かせない状況、この絶望的な状況の中で、トランス・テスラを使えていれば今頃僕は……。


 ……?


 そんな時だった。

 僕がそんなふうに絶望に頭を抱えている時だった。


 すると、僕の視界にはトランス・テスラを操作していないのにも関わらず、ゲーム画面が表示されるのだった。


 そして、僕は勝利を確信する。


「どう、攻略出来そうかしら? もし、無理なら私があなたの体をもらうわよ?」


 ネコミミは僕の頬をさすりながら、妙に熱を帯びた声でささやく。


 僕は視界に表示されたコマンド画面を脳でワイヤレス操作し、見事2分間魔法を無効化するアイテムである《マジック・ブレイク》の使用に成功する。


 すると、さっきまで謎の疲労感でダルかった僕の身体が急に軽くなるのを感じた。


「そいつは無理な相談だよ。何故なら、僕にその程度の魔法は通用しない」


 僕は不敵な笑みを浮かべた。


 ネコミミは僕の身体を操れないことに気づいたのか、驚いたように大きく目を見開いた。


 それにしても、自分の脳でコマンド操作が出来るとは面白いな。


 トランス・テスラで、わざわざ手を使ってコマンド画面をタッチしてデータを入力する時とは違い、データ入力速度がかなり速くなっているのが自分でもはっきりと確認できる。


 自分の脳でコマンド画面を操作しているわけだから当然といえば当然なのかもしれないが、手で操作する時よりも入力速度は少なくとも4倍は速くなっている。

 これはこれで周囲のプレイヤーよりもアイテムの取り出しや装備の変更が早くなるわけだから、便利なスキルだ。


 とにかく、そんなことよりまずは自分の戦闘ステータスを確認しないとな。


 さっそく僕は、コマンド画面に表示されたステータスを選び、自身の戦闘ステー

タスを確認する。


 その瞬間、僕の心に驚嘆きょうたんと歓喜に満ちた感情の嵐が巻き起こる。




 スキル

 戦闘ダメージ無効

 テレパシー操作によるコマンド入力

 ゲームのデータのまま他のゲームへの移動(人数は4人まで)

 半径5メートル以内にいるプレイヤーを他の世界に強制送還

 所持アイテムを無限保有 




 まさか、あれから4つもスキルが増えているとはな。

 一体、いつの間にスキルが増えたんだ?

 僕はあれから、何か強敵を倒しでもしたのか?


 僕は何かを考え込むように、真剣な表情を浮かべた。

 すると、あるワンシーンが脳裏をよぎる。


 それは、ダーク・ペテルギウス・ワイバーンとの戦闘のときだ。


 僕は頑張って奴を倒した(?)わけだが、おそらく、そのお陰で僕はスキルを獲得できたのだろう。


 まさか、こっちの世界でもゲームデータを成長させることが出来たなんて思ってもみなかったな。


 さて、ネコミミ。

 覚悟したほうがいいぞ。

 さっきの手の込んだ悪戯いたずらをありがとう。そのおかえしとして、僕も相当に手の込んだ悪戯をさしあげてやろうじゃないか。


「さて、もう僕は君のゲームの攻略を終えた。それじゃ、次は僕がゲームを出題する番だ」


「ふうん、次はあなたがゲームを出題するのね。いいわ、どんな内容であっても引き受けましょう。それで、どんな内容にするの?」


 ネコミミは怪しく微笑みながら尋ねる。


「別にそこまで複雑にする気はない。ただ、僕と君がバトルするだけだ。最初に会った時から、一戦交えてみたいとは思っていたからね」


「……ずいぶんと自信があるみたいね」


「そうだな。どっちが勝つかなんて正直分からないが、ただ僕がお前と戦うことで僕の実力がこの世界でどの程度通用するのかということはある程度判断できるわけだ。だから、僕にとってこの勝負は勝ち負け関係なくプラスになるわけだ」


 だが、勝ちたいことは言うまでもない。


「なるほどねぇ、確かにそういう考えは悪くないわ。でも、私がこの世界でどれほど強いのかあなたは分からないのだから、そんなことしたところで無駄じゃないかしら?」


「それじゃ、僕は尋ねるがお前はこの世界でどれほどの実力を持っている?」


「うーん、そうねぇ……中の下ってところかしら」


 ネコミミは深く考え込むように顎に手を当てると、それからしばらくして答えた。


「なるほど、それだと神を目指す僕は君を瞬殺出来なければならないわけだ」


 僕は自信のこもった表情で言った。


「そんなこと出来るのかしら?」


 ネコミミは挑発気味に尋ねる。


「いや、神様候補に僕を選んだのはアンタだからね。ていうか、僕の実力がこの世界でまるで使い物にならないほど弱小だったらそれはそれでネコミミの責任にもなるんだぞ?」


「ごめんなさい、やっぱり私の実力は上の上でした」


 ネコミミはペロっと可愛く舌出しして言った。


「ハードル下げるんかい!」


「まあ、実際にやってみたら分かることじゃない。それに私もちょうどあなたの実力がどれほどのものか試しておきたいところなのよ。早くバトルを開始しましょ?」


「わかった。それじゃバトルフィールドに移動する」


 言うと、僕とネコミミはテレポートによってどこか別の世界に移動させられるのだった。


 早速、新しいスキルを二つも使用したな。

 他のゲームへの移動スキルと他プレイヤーの異世界送還スキル。

 

 * * *

 

 僕はずらりと高層ビルが並ぶ大都市の一角で、何となくリラックスした様子で立ち止まっていた。


 ここは現在流行中のVRMMOFPSの『ウォーズ・オブ・ダークネス』の中だ。


 周囲にある大きな広告写真に色取られた高層ビルが立ち並ぶニューヨークの町をベースとしたステージである《ヒュエル》。


「いたぞ、包囲しろ!」

「何だあいつは! 武器一つ持たず戦場に赴くとは何と愚かな!」


 おや、気づかれたようだ。


 防弾ジョッキに迷彩柄の服を着込み機関銃を携えた5人組のグループが僕の姿を捕らえた。


 そして、彼らは躊躇もなく僕に銃弾をぶちかます。


 彼らの機関銃から放たれた鋭い銃弾が僕の身体を捕らえた。

 音速を超えた機関銃の弾は非常に速く、避けきれないまま僕の身体に命中するのだった。


「何だ!? どうなっているんだ、こいつは!?」


 しかし、真っ先に悲鳴を上げたのは僕ではない。


 彼らの方だった。


「ダメージを全くくらってないぞ!」


 確かに周囲は機関銃の発砲音で騒がしかったが、彼らの声はそれを上回るほどに空間内に響き渡っていた。


「当然だ、戦闘ダメージ無効なんだからな」


 僕ははき捨てるように小さく呟くと、ゲーム内では異常と思われるほどの超スピードで彼ら5人を素手で倒す。


 彼らを倒すのに要した時間はわずか3秒あまりだ。


 さて、この町に隠れたネコミミを探すとしようか。


 僕はHPが0になった死体を無慈悲に踏みつけながら先を急いだ。


 やはり、何度来てもこのステージは最高だ。


 大都市観光とゲームが楽しめるからな。


 そんな時だった。

 僕は不可思議な現象に眉をひそめた。


 何故なら、もうHPが0になって動けないはずの敵兵が僕の足をつかんだからだ。

 このゲームではリアルさ追及のため一度ゲームで死んでしまうと、別のスタート地点でゲームを再開するわけではなくその時点でゲームオーバーになってしまうのだ。


 僕はゲームで強かったから、だいたい最後まで生き残って敵との激戦を演じていたわけだが。


 なぜ、死んだはずの兵士がまだ動けるんだ?

 一度やられたはずの兵士達が次々と立ち上がり、僕に弾丸の雨を浴びせた。


 ……これは一体?



 * * *


「さて、これからレンはこの不死身の士達を相手にどうするのかしら? なかなか楽しみね」


 暗く閉ざされた密室の中で、ネコミミはモニター越しに映るレンの姿を不気味な笑みを浮かべながら静かに観察していた。


 辺りには、ネコミミによってやられた敵兵たちの死体が気味の悪い臭気を放ちながら、ゴロゴロと転がっていた。


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