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異世界トリップⅦ

 室内は学校の教室4個分の広さがあった。


 とある城の王室で、作曲家の美しいピアノの伴奏に合わせながら、優雅に仲良く踊っている美男美女の姿がそこにはあった。


 男性は高級そうなタキシードに身を包み、女性はこれまた高級そうなドレスに身を包み、二人は見るからに幸福そうなほほ笑みを浮かべながら裕福な時を過ごしているところだ。


 すると、彼らが仲良く踊っていると、部屋の戸をノックする音を耳にする。

 ノックの回数は2回ほどだ。


 それを聞いた男性は、ピアノ伴奏者に見るからに高慢な態度で伴奏の停止を指示すると、踊るのを止め、戸の向こう側へ不機嫌そうな鋭い視線を向けた。


 どうやらダンスを止められたことに対し、かなりの憤りを感じているようだ。


「入れ」


 男性がいら立たしい様子で指示すると、室内に入ってきたのはいかにも見覚えのある顔だった。


「すみません、リヒト様。標的を見逃してしまいました」


「だが、心配はございませんよ。リヒト様。奴らは生きていたとしても、今頃は猛獣の餌食となっているはずでしょうから」


 今、王室でリヒトという男性の前で、膝をつきながらひざまずいているのは他でもない。


 昼間、レンとネコミミを襲った無表情な女性の天使と顔中に髭を生やした天使だった。


「そうか、逃がしたのか。それはいただけないな。だが、今頃は猛獣の餌食になっているとはどういうことだ?」


 リヒトは彼らの一言に眉をひそめた。


 リヒト・ルシファーは180センチを超える長身にして、細身の体格の非常に顔立ちの整った金髪青眼の美男子だった。

 外見は20代前半から半ばに見える。


「それは、奴らが彷徨さまよいの林獄に入ったからですよ」


 髭を生やしたイカツイ感じの天使がしわがれ声で言った。


 それを聞いたリヒトは顔をしかめ、そして、彼にこう告げるのだった。


「なるほど、確かに彷徨いの林獄に入ったものは二度と生きて帰ってこれないという伝説は今も残っているし、古い書物にもそう記されているのは事実だ。だが、だからと言って何故奴らが生きていないと言い切れる? これは所詮、はるか昔のことであって過去のことだ。致命的なことに現在のことは未だ何も分かっていないのだぞ。我々はあれからさらに高度な文明を築き上げ成長してきた。今と昔ではまるで状況が違う。だから生きていても不思議ではないとそう思考させるべきだったのだ。考えが甘いぞ、ハイドラ」


 顔中に髭を生やした天使であるハイドラは悔しそうに歯を食いしばりながら顔を伏せた。


 何も言い訳してきそうにないハイドラ・ガブリエルの姿を確認すると、リヒトはやれやれとでも言うようにため息をついてこう指示するのだった。


「とは言ってみたものの、無事で何よりだ。明日の朝でいい。神旗しんきの使用許可を言い渡すから、彷徨いの林獄に入ってあの女を捕まえて来い。神旗さえあれば、あのレベルのダンジョンはお前らなら余裕だ、分かったな?」


 リヒトは親しみのある微笑みを浮かべた。


 彼らはリヒトの問いに快く返事をすると、丁寧に礼をして王室から退室するのだった。




 * * * 




「おはよう、レン。まだ夜だけど」


 ろうそくに照らされた室内は暗く、ネコミミの顔を認識できるまで多少の時間を要したところだ。


 気づけば僕は、浴槽で倒れた後布団で寝かされていたようだ。


 すでに着替えも済んでいるようだし、なかなか関心している。


 だが……、


「おい、ネコミミ? さっきのは少し悪ふざけが過ぎると思うんだが」


 僕は気ダルそうな表情で彼女に抗議する。


 何しろ血を抜かれたせいか、体が重い。

 気ダルそうなというよりは、本当に体がダルいからな。


「ごめんなさいね、つい悪戯いたずらしたくなっちゃったのよ。好奇心で」


 ネコミミは満面の笑みを浮かべ、ペロっと少しだけ舌を出す。


 これ絶対反省していないと思うんだけど気のせいだろうか?


「まあ、いいや。ところで、夜は何も食べてなくてお腹すくんだが、ご飯はないのか?」


「ああ、あなたのご飯ならそこのテーブルの上にあるわよ。ご飯の時にあらかじめあなたの分も取り皿に取っておいたのよ」


 ネコミミはそう言うと、ちゃぶ台の方を指差しする。


 ちゃぶ台の上には豪華な刺身料理が用意されていた。

 分量は一人分にしてはやけに多い気はするが、そこは気にしないでおこう。


「それは助かった。それじゃ今すぐにでもいただくとしようか」


 僕はそう言うと、上体を起こしてその場から立ち上がろうとする。


 だが、体が重くて動かない?


「駄目よ、まだ寝てないと。体があまり回復していないようだから」


 僕のどこか気がかりな表情を察知したのか、ネコミミはなだめるように言った。


「いや、これをした張本人はあなたなんですけどね!」


 僕は苦笑いを浮かべた。


「さて、そろそろ何か食べようかしらね。私もあなたと一緒で夜に何も食べてないのよ」


「そうだったのか」


「あなたが起きるのをずっとここで待ってたのよ。二人きり密室で一緒に食べる方がご飯が美味しいもの」


 何かさっきのネコミミの発言に妙な寒気を覚えたが、きっと何かの間違いだ。


「それじゃ私はそこにご飯を持ってくるから、少しだけ待っててくれるかしら」


 ネコミミは穏やかな笑みを浮かべると、料理を乗せたまま器用にちゃぶ台を僕の布団の側に運ぶのだった。


「台をこちらに移動してくれるのは助かるが、どうにも体が動かないらしく座ることすらままならないんだよ」


「何言ってるのよ、レン。そんなことあるわけないじゃない。試しに体を起こしてみたら?」


 言われた僕は、仕方なしに指示通り体を起こしてみることにした。


 ……!?


 すると、さきほどの体の重みは全くなく、するっと体を起き上がらせることが出来たのだった。


「ほら、私の言ったとおり体が動かないなんてことはないでしょ? 良かったじゃない、レン。これで、ご飯が食べれるわね」


 ネコミミは満面の笑みを浮かべて言った。


「ああ、それもそうだな……!?」


 突然、僕の体に予想だにしにない異変が生じた。


 今度は体ではなく、腕が動かないのだ。

 指間接一つ動かすことすらままならない。


 僕は驚いたように目を丸くして、無言のまま自分の腕を見つめていた。


 すると、ネコミミは僕の異変に気づいたのか、くすくすと不気味な笑い声を発した。


「レン、ひょっとして体の次は腕が動かせないのじゃない?」


 ネコミミは不気味な笑みを浮かべながら、怪しく目を細めて尋ねた。

 この様子、僕の体の異変について何か知ってそうだ。


「体の次……、何故それを?」


 僕は深刻そうな表情で彼女の顔を凝視する。


「実は私、血を吸った相手の身体を自由に操ることができるのよ。少しゲームを始めましょ?」


 ネコミミは怪しげな笑みを浮かべた。


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