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Mission:1



 昨日と同じ帰り道、昨日と同じ時間、昨日と同じ天気。

 今日も新緑は目に鮮やかで、空気は心地よい暖かさで、公園に人は誰もいない。まるで昨日をそのままコピーしてきたみたいだった。ここで昨日のあのピンク色の生き物が出てきたら、あとはヒーローを待つだけだ。

 そんなことを思いながら、無人の公園に目を向けた。


「……いるし」


 昨日と同じ、ピンク色の生き物が、公園の中をふわふわと漂っていた。

 その漂う様子は形どおりクラゲにそっくりで、実はここは海なのではと一瞬勘違いしてしまいそうになる。周りを見渡しても、ヒーローはおろか自分以外に人っ子一人いなくて、こんなに天気も気温もお散歩日和なのに、みんな家に閉じこもっているようだった。

 ピンクの生物に興味がわいて、私は公園に足を踏み入れた。

 私が近寄ってもピンクのそれは逃げることもせず、優雅にのんびりと空中を漂っている。昨日のこれが、持つとむにゅっとしたのか……そう思うと、触るのは少し躊躇われる。だけど、見ている分にはとても楽しい。本物のクラゲと一緒で、ふわふわと何を考えているかわからないけれど、確実に癒し系のタイプだ。

 ピンクの生き物は長い触手……最長で半球状の体の三倍くらいだろうか、水色の長い触手が二本、それに短い水色の触手を幾本も揺らめかせ、空気中を泳いでいる。

 うん、こういう生き物、悪くない。ご飯に何を食べるかとか、首輪がつけられるのかとか、そういう問題をクリアーしたら、きっとクラゲを飼うより断然楽なペットだろう。

 私の存在に気づいたのか、ふわりと方向転換をして、顔の周りをゆっくり、くるくるまわる。昨日みたいなすごいスピードではなく、あくまでのんびりしているようだ。確かに今は誰にも追いかけられていないし、お散歩をしているような雰囲気だ。

 私の顔の周りを回って三周目だろうか、水色の触手が伸びてきて、私の右頬にそっと触れた。そうっと、おそるおそるという感じで触手を伸ばしてきたので、その様子がなんだかかわいくて、私は抵抗せずにされるがままになっていた。ずっと見ていたら愛着もわいてきた。先が楕円形になった触手は少しひやりとして、揮発性の液でもついているのか、触れられた部分が空気に触れて、すぅっとした。


「ん?」


 不意に、地面の感触がなくなった。足が確かに踏んでいたはずの地面が、足下から瞬間でなくなる感覚。けれど、私はちゃんと立っている。そう思うと同時に、視界が少し上昇する。何が起こったのかさっぱりわからなくて、とりあえず足元を見てみた。

 私が、地面から、浮いていた。


「……えぇっ!? ちょっ、なにこれ!!」


 私の影と私の足の間には確かに空間があって、驚くことに私は風船のように空中に浮かんでいた。そのままどんどん上昇……とまではいかないけれど、地面から目測で二十センチほど浮いたところで上昇は止まり、私はその場で立ち往生ならぬ、浮き往生してしまった。

 肩にかけていた鞄を抱きしめて、風船と一緒で重くしたら落ちるかと思ったけれど、体は浮いたままだった。ピンク色の生き物はふわふわと楽しそうに、私の周りを回っている。

 浮く前と浮いた後、違いはただひとつ。この水色の触手に、触れられたことだ。


「もーっ、なんのつもりなのこれは!」


 目も口もない、クラゲみたいなこの生き物に文句を言ってもどうしようもないのだが、言わずにはいられない。だって、確実にこの生き物のせいだもん。目も口もなくったって、知恵はあるようだから、ちゃんと私の声も届いていると勝手にそう思うことにした。

 けれど、その生き物に怒っても、事態は解決しないわけで。

 さっき触られた部分をタオルハンカチで拭いてみても、何も変わらない。私は相変わらず浮いたままだった。

 とりあえずしばらく浮いていてわかったのは、自分の行きたい方向になんとか移動はできるということだった。本当にそれだけで、何の役にも立たないんだけれど。これじゃ、家にも帰れない……というより、家への道の途中で、人目に耐えられない。私の神経はそこまで太くも鈍くもない。ただ、この公園に人がほとんど寄り付かないのが、唯一の幸いだった。

 ピンク色の生き物は、私からつかず離れず、その長い触手を漂わせて、ふわふわと周りを回っている。浮く仲間ができて嬉しいのかな?


「……どうしよう、これ……」


 本格的にやることがなくなって、私は宙に浮いたまま途方にくれていた。携帯電話で友達や親を呼び出しても、この状況を解決してくれるとは到底思えない。警察や消防に電話しても、この不可解で奇異な状態をどう話していいやらわからない。

 完全に、八方ふさがり。なんだか頭まで痛くなってきた気がして、頭に手を伸ばしたとき。


「大丈夫ですかっ?」


 ……あれ、この声、聞いたこと、ある?

 誰かと思って振り向くと、眩しいくらいの青色が目に入った。見たことのある、ヘルメット。鮮やかな青。走るテンポにあわせて宙を舞う白いストール。

 昨日もここで会った、ブルーのヒーローだった。


「あ、その……その子に触られたら、浮いてしまって……」


 ヒーローが来ても変わらず、私の周りを回り続けるピンクの生き物を指差すと、私とピンクの生き物を見比べたヒーローは、深く納得したようだった。そして私は、ヒーローがこの生き物を躍起になって捕まえていた理由が、わかった気がした。


「ちょっと待ってくださいね、先に捕まえますから」


 ヒーローは昨日と同じように青灰色の袋を取り出し、逃げようとしないピンクの生き物に、そっと袋をかぶせる。目立った抵抗もなく袋に入ったそれは、長い触手も丁寧に袋に入れられると、すごくおとなしくなった。ヒーローは手早く袋の口を結ぶと、とりあえずという風に袋を地面に置いた。

 再び腰についたポーチを探り始めたヒーローは、小さなスプレーを取り出した。


「ティッシュありますか?」

「あ、はい」


 抱きしめたままになっていた鞄からポケットティッシュを取り出して、ヒーローに渡す。宙に浮いている私は、ちょうどヒーローと同じ目線の高さになっていて、昨日より顔が近い。おかげで、ヘルメットの飾りをじっくり見ることができる。

 ヒーローはスプレーを一吹きティッシュにかけると、私に差し出してくる。


「どこ触られました?」

「えと、ほっぺ……」


 右頬を指差すと、そのままティッシュで拭こうとしてきた。それはさすがに申し訳ないしなんだか恥ずかしいので、


「いやそのっ、自分で拭くから大丈夫ですっ」


 と、全力で止めようとしたけれど、


「また日和田さんに液がつくと、大変なので」


 と、あっさり一蹴されてしまった。ので、おとなしくされるがままになることにした。まな板の上の鯉の気分だ。もう、どうにでもなれ。

 ヒーローはそっと、丁寧に右頬を拭いていく。お花の匂いがする液をつけた面で拭いて、折り畳んで再びスプレーをして、もう一度拭き直す。入念にヒーローが拭いてくれるけれど、私の体は相変わらず浮いたままだ。これで本当に浮かなくなるのだろうか?

 一通り拭き終わったようで、ヒーローはスプレーをポーチにしまうと、両腕を私に向けて差し出した。まるで、抱きついてくださいと言わんばかりの格好。


「捕まってください」

「え?」

「時間差でおち……」


 その言葉を最後まで聞かないうちに、がくんっ、と世界が崩れる。視界が傾く。

 落ちる……!

 反射的に、ぎゅっ、と目を閉じる。地面に衝突した時の痛みに備えて。

 だけど、いつまでたっても、痛みも衝撃も、来なくて。そっと目を開けたら、ヒーローの腕の中……というより、ヒーローが身を呈して、私を抱いた状態で尻もちをついていた。私はヒーローを半分ばかり下敷きにした状態で、抱き締められていた。


「……大丈夫、ですか?」


 顔を押しつけさせられた、胸板。私の身動きを封じる、腕。耳のすぐ上から聞こえる、低すぎず高すぎない、声。


「だ、だいじょぶ……です」


 噛み噛みな私の言葉を聞いて、本当に大丈夫なのか私の体を見て確認している。そうしてからようやく大丈夫だと確信を得たようで、腕から解放してくれた。

 あああっ、ほっぺと耳がすごく熱くなっている……絶対、今、顔が真っ赤になってる。

 恥ずかしさと申し訳なさのあまり消えてしまいたいと思いながら、とりあえずヒーローの上からどいて立ち上がる。砂がついてところどころ白くなっているスカートを気にする余裕はなく、私の下敷きになったヒーローが大丈夫かどうかということに意識をとられていた。怪我させていたらどうしよう。せっかく助けてくれたのに。というか、相手はヒーローなのに。

 立ちあがったヒーローは特にどうという異変もないようで、尻もちをついた時に付着した砂を手早く払い落していた。といっても、スーツは表面がつるりとして撥水性のようで、私の制服みたいに砂がしっかり付いているわけではない。ヒーローがさっさと払えば簡単に、砂は素直に地面の仲間のところへ戻って行った。


「あのっ、ありがとうございましたっ」


 挨拶とお礼だけはちゃんと出来る子にならないといけないよ、というお祖母ちゃんの教えですっかり身についたクセもあり、しっかりと頭を下げてお礼を言った。


「いえ。怪我はありませんか?」

「大丈夫です、本当に」

「なら、よかった。では」


 にこっと笑ったあと、ピンクの生き物が入ったままになっていた袋を掴もうと、ヒーローは上半身を屈めた。

 その途端、ばらばらっと、ヒーローから何かが落ちた。さっき見たスプレーや、その他諸々。何事かと思って見ると、腰のポーチの蓋が開いたままだったようで、屈んだ拍子に蓋が開き、中身が飛び出したらしい。


「大丈夫ですか?」


 咄嗟にしゃがみ込み、私も拾うのを手伝った。散らばった様々なもの――様々な形をした用途が謎なものたち――を拾い集め、ヒーローに手渡す。そうしたところで、少し先に転がっていった細長いものを目の端に捉え、近づいて手に取る。その細長いものはキャップ式のペンのようで、海みたいなきれいな青をしている。金属製のそれは太めで重く、キャップの部分に白い羽をかたどったものがついていて……。


「え……これ」


 拾った状態で固まってしまった私の横から手袋に包まれた手が伸びて、韋駄天もびっくりの素早さでペンが奪い取られる。残像として視界に残った青の軌跡を追いかけると、私の視線がぶつかったのは、ヒーローの青くなった顔で。


「………………見た?」


 青くなった顔のまま、ヒーローが、恐る恐る、尋ねてくる。


「………………はい」


 絶対、見てはいけないものを、見てしまった気分で、頷いた。

 そのまま、何を言っていいのかわからなくなる。ヒーローも同じ心境のようで、互いに見あったまま、口を動かすことが出来ない。

 もそり、ピンクの生き物が入った青灰色の袋が、足下でむなしく動く。


「…………えっと、その……ヒーローさんは…………藤くん、なんです、か?」


 このまま睨み合って……もとい、固まっていても、埒が明かない。疑問と確信とが頭の中でごちゃ混ぜになったまま、口を開いた。だって、あのペンは、藤くんのものに違いないから。奪い方まで、そっくりだったから。


「………………うん」


 長い沈黙と躊躇いの後、ようやく一言、ヒーローは肯定の言葉を口にした。

 ヒーロー……改め藤くんは、大きくため息をひとつ吐いた後、体勢を立て直した。片手で口元を覆い、困ったように何かを思案している。私はその様子を見ながら、困惑しつつも観察してしまった。

 だって、ヒーローって。クラスメイトで隣の席の人が、正体不明で、新聞に載ったこともある、この街の平和を守るヒーローって。上下繋がってる真っ青なボディースーツみたいなの着て、ヘルメットで顔を隠して、得体のしれない生き物を捕獲しているヒーローって。


「……カリヤスさんですか? 俺、正体ばれちゃったんですけど…………」


 ため息交じりに耳に手を当てると、藤くんは小声で誰かとコンタクトをとりはじめた。ヘルメットを経由して、目に見えない電波の向こうに、藤くんや藤くんと色違いのヒーローたち――前に新聞を騒がせたことがあるのは、ブルーの他に、レッドとピンクだと思う――や、仲間がいるのだろうか? だとすると、この『ヒーロー』って、実は結構大きな団体だったりするのだろうか。たとえば、秘密結社みたいなかんじで。


「……はい、…………説教はそっちでくらいます。はい、じゃ、帰還します」


 どうやら話はまとまったようで、藤くんは再び深いため息を吐きながら、手を下した。ポーチの中にペンをしまい、ピンクの生き物が入った青灰色の袋を持って、そこでようやく私に声をかけた。


「日和田さん、時間ある?」


 あ、この声。聞いたことがあると思った私の直感は、間違っていなかった。藤くんの声だ。低すぎず、高すぎず。公園に設置されている時計を見て、まだ時間があることを確認する。それと同時に、自分があの場所でかなりの間、浮き往生していたことを知った。


「一応……でも、どうして?」

「……うちの上司が、日和田さんに会いたいから連れて来いって」

「え、私?」

「ん。イーバ……宇宙生物に好かれる人間に、ドクターが興味津津だって言ってた」


 じょうし、に、うちゅうせいぶつ、に、どくたー。ヒーローが所属しているのは、宇宙からの侵略者と戦う組織だったらしい。それって、映画で見た地球侵略とか、そういうかんじなのかな? ということは、藤くんって、普通の男子高校生じゃなかったんだ。すごい。クラスメイトにこんなすごい人がいたなんて、ちっとも知らなかった。


「じゃ、こっち。ちょっと歩くけど大丈夫?」

「あ、うん」


 歩き出した藤くんを追いかけ、藤くんの隣に並ぶ。ヒーローと並んで歩くというのはすごく不思議な気分で、むしろ隣にいると迷惑なんじゃないだろうかと悩んでしまう。藤くんは隣に並んでみると、結構背が高い。私の背は平均くらいだから、藤くんの背が平均よりも高いのかな。横目で斜め上にある藤くんの顔を見ると、そんなに気にした様子はなく、黙々と歩いている。彼の持つ雰囲気はヒーローの服を着ていてもあまり変わらず、教室にいる時と同様にやる気がなさそうというか、とりあえず面倒くさそうだった。これが藤くんのスタンダードなのかな。

 話題がなくて、というよりも、何を話していいのかわからない。この状況で、何を話せば場が和むのだろう。とりあえず、気になっていたことを聞いてみることにした。


「……藤くん」

「ん?」

「その生き物、宇宙からきたの?」

「あー……うん。なんか知らないけど、地球外から来てんだよね」


 なんか知らないけど来てるって……ずいぶんと大雑把だなぁ。そもそもこれを捕まえるのが使命なんじゃ……。


「そんなに沢山きてるの?」

「いや、どうだろ……でも、毎日捕まえてる」

「毎日? じゃあ、毎日ヒーローになってるの?」

「…………まぁ、うん。バイトだし」

「ばっ、バイト!?」

「ちょっ、しーっ!」


 驚きのあまり声が大きくなってしまったら、藤くんに手で口を塞がれた。藤くんの手は大きくて、私の鼻まで簡単にすっぽりと覆ってしまった。


「……裏事情、市民に知られたら困るからさ。わかる?」


 きょろきょろと周囲を見回し、誰にも聞かれていないことを確認すると、小声で私を注意する。心なしか、藤くんの声が低くなっていて、怖い。私は口を塞がれたまま、首を縦に何度も振った。そっと口から手を外すと、藤くんは目を伏せた。私の口を塞いでいた手を握ったり開いたりして、何か考えているようだった。唯一見える口元を見ても、何を考えているのか、どんな表情をしているのか、わからない。口元だけ見えるそのヘルメットは、藤くんの表情を絶妙に隠し、藤くんという一個性を消し去って、ヒーローという虚像を作り出す覆面なんだ。


「…………行こっか」

「……うん」


 何ともいえず居心地の悪い雰囲気のまま、私と藤くんは歩き出した。無言のまま、結構歩いたと思う。沈黙が辛いから長く感じたのか、それとも本当に公園から遠かったのかは、よくわからなかったけれど。


「ここ」

「え、ここ?」


 藤くんが足を止めて指差したのは、マンションだった。それも、高台にあるかなり高級住宅地で、その中でも最高に見晴らしがよくて、お金持ちしか住んでないともっぱらの噂の、高級マンション。入口にはガードマンが常駐する場所があって、その上でセキュリティもばっちりという、厳重な警備のマンション。

 藤くんは気にする様子もなく、敷地の端から奥へ伸びる小道を進み、マンションの裏手に回っていく。小道はガードマンや住民に会わないように設計されていて、手入れのされた木々の間を進んでいく形になっている。マンションの裏手、丁度入口と反対側に来ると、藤くんは手慣れた様子でレンガ調の壁のある部分をスライドさせる。すると小さな画面が出てきて、そこで暗証番号を入力し、ヘルメットのスモークグラスをずらして虹彩の認証を手早く済ませると、壁にしか見えなかった場所が横に動き出し、ぽっかりと真っ暗な入口が出来た。


「…………」


 あまりに非現実的すぎて、開いた口が塞がらなかった。こんな経験、生まれて初めてだった。


「……日和田さん? 入ろう」


 藤くんが先頭に立って中に入る。私も急いでその後に続いた。私が入るとほぼ同時に背後の壁が動いて、真っ暗な中に閉じ込められた。そのままエレベーターに乗って下降する感覚と、機械音。真っ暗闇の中、不安に駆られながらもその場で待っていると、下降はすぐに終わった。扉の開く音がして、その隙間から我先にと、真っ白な光が飛び込んでくる。目がその明るさの急激な変化についていけなくて、暗闇に慣れた目の奥に、光が突き刺さる。目を細め、光に目を慣らしながら見えた空間は、近未来的な白を基調とした無機質な通路だった。映画や漫画で思い描く、過去から今までの人間すべての空想をそのまま実現したような、本当に研究所らしい空間。壁も床も真っ白で、銀色でアクセントが付けられている。壁のライトは足下と壁端に埋め込まれていて、直接見ることはできない。


「わぁ……すごい。映画みたい」

「俺も初めて入った時、そう思った。こっち」


 そう言って、藤くんは少し笑った。そうして行き先を指さして教えてくれる藤くんは、その身につける青い衣装のせいで、真っ白な空間の中で目に痛いほど眩しくて、この空間から一人浮き出しているように鮮やかだった。ああ、この光景も、映画やドラマみたいだ。こういう空間に、ヒーローが立ってて、ちょっと笑顔で。ヒーローの所属してる組織って、すごくお金持ちなんだなと思った。

 歩き出した藤くんを追いかける。真っすぐ行って、角を右に曲がって、また何度か出てきた四つ角を真っすぐ進む。壁には案内板らしきものはなく、すいすいと歩いていく藤くんは本当にここに慣れているんだと思った。進めども進めども似たような通路で、さっぱりわからない。ここは迷路みたいになっていて、もし一人で放り出されたら、脱出できないのではないかと思った。

 藤くんの青い背中を頼りに歩いて行くと、大きな扉の前に着いた。その扉も装飾の銀色の部分以外すべて真っ白な、重そうな金属の扉だった。藤くんはヘルメットを外し、頭を一、二度振って、ぺったんこになった髪の毛に空気を含ませる。そうしてから扉の横のボタンを押すと、電車のようにぷしゅ、という音をたてて、扉はスライドして開いた。


「うわぁ……」


 まず目に入ったのは、大きなモニターだった。正面の壁一面に設置された、とても大きなモニター。その前にある機器は、きっとモニターを管理したり、通信する時に使用したりするんだろう。この組織の、中枢なんだろうな。その他の部分は意外にすっきりしていて、あまりものがなく、無機質で冷たい印象だった。


「ようこそ、日和田綾くん。お疲れさま、藤くん」

「ドクター」


 にこにこと笑顔で迎えてくれたのは、白衣を身に纏った、線の細いすらりとした長身の男性だった。胸に『Dr.AONI』と書かれた名札をつけ、白衣のポケットに両手を突っ込んで、少し長めの黒髪を後ろでちょんと結んでいる。金属フレームの奥の目は、私の方を見て楽しそうに細められていた。


「アオニ、と言います。青に、仁丹じんたんの丹です。旧国名の丹後の丹、のがわかりやすいかもしれませんね。ここではドクター……研究者として働いています。どうぞよろしくお願いします」

「日和田綾です。藤くんのクラスメイトで……えと、藤くんの隣の席です。よろしくお願いします」


 すっと白衣から差し出された指の長い右手は、私の前で差し出した格好のまま止まり、握手を待っているようだった。頭を下げようと思ったけれど、相手の意思を無視してはいけないので、私も急いで手を伸ばして握手した。青丹さんは柔和な顔立ちから生みだしたやさしい笑顔を崩すことなく、握手して上下に軽く動かす。そして、そのまま放してくれなかった。


「……あ、あの……」

「はい?」

「ドクター、日和田さんのこと被検体にしようとしたら、カリヤスさんに言いつけますよ」


 にこにことした笑顔のまま手を放さない青丹さんと、手を放してもらえなくて困った私を見かねて、横から藤くんが助け船を出してくれた。でも、被検体って、どういうこと……。


「まさか、被検体にはしませんよ。……まぁ、色々と調べてみたいとは思いますけどね。探究心がくすぐられますから、貴女には」


 ふふふ、と、静かに笑いながら、青丹さんはやっと手を放してくれた。強く握られていたわけではないから、手は全然痛くなかったけれど、なんだか掴みどころのない不思議な人だと思った。


「藤、何アホなことしてくれてんの」


 ごんっ、と横から音がして、見ると藤くんが脳天に拳骨をくらっていた。音からして、相当に痛そうだった。藤くんの顔も痛みに歪み、殴られた個所を痛そうに押さえながら、背後から殴った人物に目をやった。


「カリヤスさん……痛いです」

「当り前でしょ。罰なんだから、痛くしなくちゃ意味ないじゃない」


 さらりとおそろしいことを言ったのは、女性だった。こちらも女性にしては長身で、とてもスタイルのいい女性だった。髪はシュシュで簡単に一つにまとめられているけれど、大きくウエーブがかかっている。藤くんのペンについていたのと同じ、JHというマークの入ったジャケットを羽織り、タイトなミニスカートを穿いている。


「はじめまして、日和田さん。藤の上司のカリヤス、と言います。草刈りの刈りに、安いで刈安。よろしくね」

「あっ、はい、こちらこそよろしくお願いします」


 青丹さんと同じように差し出された手と握手を交わし、刈安さんと目を合わせる。大人の女性というにふさわしい、素敵な笑顔で微笑んでくれた。


「さて、簡単に話しましょうか。ただし、ここで聞いた話は全て他言無用。大丈夫かしら?」

「はい、大丈夫です」


 手を放した刈安さんは、口元に笑顔を残したまま手近なキャスター付きの椅子に腰をかけた。藤くんはとりあえずといった感じで、青丹さんに今日捕まえてきた宇宙生物入りの袋を手渡している。


「ここはね、地球というより、この街を守護対象として、地球にやってくる地球外生命体――宇宙人でもエイリアンでも異星人でも、呼び名は何でもいいんだけど、私達はExtra-terrestrial Biological Entities、略してEBEイーバって呼んでるわ――を、一般市民に被害が出ないうちに捕獲することを第一級使命として、秘密裏に働いているJHという組織です。他にも、イーバの研究をはじめとして、イーバの起こした事件を解決することとかもしているわね」


 さくっと、本当に簡単に、かなり壮大な話をされた。話の大きさと突拍子のなさに頭がついていけなくなって、思考回路がショートしそうになる。地球外生命体……イーバ、秘密裏の組織……ああ、本当に画面の向こうのようだ。


「日和田さん、大丈夫?」


 まだヒーロースーツを着たままの藤くんが、私の頭上に見えないハテナマークが沢山あるのに気付いたようだった。


「う、うん、一応……」

「そうそう、藤から報告受けたんだけど、日和田さんってどうもイーバに好かれてるっぽいのよね。だから、ヒーローとしてここで働かない?」


 今度こそ、何段も日常生活から飛んだ話に、思考回路がショートした。


「ヒーロー……というよりヒロインね、女の子だし。JHって秘密裏に活動してるせいか、慢性的な人不足でね。特に捕獲隊……いわゆる、ヒーローの格好して実際にイーバを捕まえる若者たちが。だから、ぜひとも日和田さんみたいな存在が入ってくれると助かるなー、って。もちろんバイトとして雇うわけだから、バイト代はちゃんと払うわよ」


 あっけらかんと説明されるが、正直、内容が頭に入らない。

 だって、働かないって、そんなお誘いをあっさりと。そもそもヒーローって、そんな簡単になれるものなの? 運動が出来る人じゃないと困るんじゃないの? だって私、自慢じゃないけれど、体育は五段階評価で万年三の、平平凡凡な人間だ。勉強も人よりできるわけでもないし、容姿も美少女とかそういう範囲に入らない、上中下だったら確実に中に入っちゃうような顔だし。


「刈安さん、そんなぽんぽん言ったら、混乱しますよ」

「いちいちうるさいわね、藤は。じゃあこれ以上、どう簡略に説明しろって言うのよ」

「……無理ですかね」

「でしょ? 日和田さん、働いてくれるわよね?」


 にーっこり、とてもきれいな笑みなんだけど……目が笑っていない。ここで断ったらどうなるのか、正直怖い。なので、首を縦に振らざるを得なかった。


「よーし、じゃあ決まりね。青丹ー、綾ちゃんにトランスペンあげてー」


 とても嬉しそうに刈安さんは青丹さんを呼んだ。その声に応じて、青丹さんはどこからか、緋色のビロード張りの箱を持ってきた。ノートほどの長方形で厚みのないその箱を開けると、中には藤くんの持っていたペンと色違いのペンが幾本か、一本ずつぴったりと合うようにできた溝にはめられて、静かに並んでいた。


「あ、これ……」

「ヒーロースーツに変身する際に使用する、トランスペンというものです。女性用にピンクと黄緑、あと黄色をご用意してますが……ピンクはもう使用されていますので、黄色か黄緑になりますね」


 若葉のように鮮やかな黄緑のペンと、目が覚めるような黄色のペンを示される。


「そうだ、カレーは好きですか?」


 最初と全く変わらない柔和な笑顔で、いきなり質問される。ペンの話からカレーの話に飛んで、その突拍子のなさに頭が混乱しそうだ。


「えっと、ふつう、ですかね……」

「では、黄緑にしましょう。白と黄緑なので、貴女によく合うと思いますよ」


 丁寧な手つきで黄緑のペンを取り出し、差し出してくれる。それを両手で受け取ると、藤くんのペンと同様に、確かな重みを感じた。


「変身するには、羽の部分を押しながら、キャップを外してください。気分を盛り上げるために、『トランスフォーム』や『変身』と言っていただいてもいいですよ。ただ、変身するのに掛け声は全く関係ありませんけれどね。一度、ここで変身してみてください。改良する必要がありましたら、今晩中にしますので」


 ……それは、声を出さなくてもいいということ、だろうか。

 とりあえず、言われた通り、変身とやらをしてみることにした。藤くんみたいな全身スーツの黄緑バージョンになるのだろうか、という不安と、顔が隠れているとはいえ全身スーツは着たくないな、なんで私ヒーローやるって言っちゃったんだろう、という後悔を沢山抱えたまま。

 キャップについている羽の部分を親指で押さえ、反対の手でペンを引き抜く。瞬間、ペンから目を開けていられないほど強烈な黄緑の光が発せられて、私はギュッと強く瞼を閉じた。光は一秒ほどで消えたけれど、瞼の裏に強烈な光の残像が、まだ残っている。


「ああ、上出来ですね。よくお似合いですよ」


 先程の光にも全く動じた気配のない青丹さんの声がして、私は恐る恐る目を開ける。

 最初に目に入ったのは、白い手袋をしてペンを持つ、両手だった。続いて、ふわりと傘の形に広がる、白いスカート。両手を辿っていくと、二の腕まである長い手袋、胸下ほどの長さのポンチョは白を基調に、ミントグリーンに近い黄緑色のリボンとフリルが縁を飾り、ちょうど鎖骨あたりに大きなパステル系の黄緑色のリボンがきれいに結ばれている。その下は少々ハイウエストのワンピースで、これも白が基調とされている。ウエストのあたりで一度きゅっと絞られ、そこからふわりとスカートが広がる。縁には丹念にフリルが何十にも縫い付けられていて、足の感覚からいって、スカートの中は何重にもペチコートがあるようだ。履き口にレースと細いリボンのついたオーバーニーのホワイトソックスを辿っていくと、白いショートブーツを履いている自分の足が見える。ウエストの後ろ側、丁度腰辺りには大きなリポンが付いているようで、上半身を捻って見ようとすると、垂れたリボンが視界に入る。

 ……なんというか、この格好って。ものっすごく。


「……なんで……こんなに、魔法少女のコスプレちっくなんですか……?」


 ものすごく……ぴらぴらして、ふわふわして、コスプレのような……ああそうだ、アニメやマンガで戦う少女たちのコスチュームに似ているんだ。可愛くて、スカートの丈が短めで、フリルとリボンがやったらめったら使われてて。

 なんだか投げやりな気分になって顔に手をやると、ヘッドホンの耳部分から、藤くんのヘルメットと同じスモークグラスが顔上部を覆う形になっている。視界が暗くなるのかと思いきや、外から見るとプリズムに光って中が見えないようになっているだけで、中から見ると意外に色が損なわれていない。ヘッドホンの耳にあたる部分は丁度羽の形になっていて、きっと外から見たら、耳から羽が生えているように見えるんだろうなと思った。髪の毛は元がボブだからか、触った感じだと毛先がくるんと内側に巻かれているだけだった。色は見えなかったから、後から鏡で確認しようと一人思う。こんなに服が変わったら、髪色まで変わっていたって全然驚かない。

 青丹さんは服装を確認して絶句する私を、上から下までそれこそ一分の隙もないくらいに目で舐めあげながら、一周回った。


「いいようですね、サイズ直しもないようですし。動けますか?」


 動けますか、とは、どういうことだろう?

 首を傾げたままの私に、変身を一部始終見ていた藤くんが、そっと教えてくれた。


「ドクターが、この服で運動できそうかって」

「あ、そういう……そっか、これでイーバ、捕まえるんだよね?」

「そういうこと」


 その場で腕をまわしてみたり、簡単に歩きまわってみたけれど、この服は私のサイズを全て測って作ったかのようにぴったりで、どんな動きにも対応する。スカートは中が見えないように隙間なくペチコートがあるけれど、万が一があるかもしれないから気をつけようと決める。


「腰についているポーチに、イーバ捕獲用の袋があります。あと、トランスペンなどをしまったりもできますからね。では」


 私のヒーロースーツの出来に大変満足したようにそう言い残し、青丹さんは他のトランスペンの入った箱とイーバ入りの袋を持って、どこかへ行ってしまった。残ったのは私と藤くんと刈安さんだけれど、刈安さんはモニター前の機械でなにかをしている。

 腰のポーチとやらに持ったままだったトランスペンをしまい、そうしてから顔をあげたら藤くんと目があった。


「ど、どうでしょうか……」

「んー……」

「あっ、ちーちゃんっ!」


 私の質問に藤くんが迷った様子で口を開いた瞬間、かわいらしい声が藤くんの言葉に覆いかぶさった。

 声の聞こえた入口の方を見ると、そこに立っていたのは、私の色違いでピンク色を基調としたヒーロースーツを身に纏った女の子だった。その子は背が小さくて、髪が長いからか高い位置でこげ茶の髪をツインテールにしている。くるんと巻かれた毛先が、彼女がこちらへ走り寄ってくるテンポに合わせて、ぴょんぴょんと跳ねる。


「ちーちゃんっ、ただいまっ!」

「うぐっ」


 走ってきた勢いを殺すことなくそのまま、藤くんに抱きつく彼女。藤くんは不意の突撃に体をよろめかせながらも、なんとか踏ん張って立っていた。


「あれっ、新しいメンバー? わぁっ、白と黄緑だ! かわいいっ!」


 藤くんにぎゅーっと抱きついた後、私に顔を向ける彼女。スモークグラス越しだけれど、彼女の瞳が喜びできらきらと輝いていることは、見えなくてもわかった。初対面の私にも臆することなく抱きついてきた彼女は、ぎゅうっとして気がすんだのか、ヘッドホンを外して私にぴったりとくっついたまま顔を見せてくれた。

 テディベアみたいに丸くて黒目の大きい瞳。小さな鼻と口。細くて小さくて華奢で、触ったら壊れてしまいそうだった。


「ピンク担当の東雲百花しののめももかって言います! モモって呼んでねっ。あなたはっ?」

「ひ、日和田綾、です」

「じゃあ、あーちゃんねっ! もーっ、あーちゃんってば、すっごくかわいいっ! やっぱり女の子の衣装はかわいい方がいいもんねっ」


 きゃっきゃと、高くてかわいい声ではしゃぐモモちゃん。小動物のようでたいへん可愛い。というか、美少女。このふわふわしてひらひらした衣装も、着られている私と違って、ばっちり着こなしている。


「モモ、日和田さん困ってるから」


 がしっとモモちゃんの頭を掴み、藤くんが私からモモちゃんをひきはがした。離されてモモちゃんは不服だったようで、ぶーっっと片頬を膨らませている。その様子も小さい子のようでかわいらしい。


「今日の仕事はもう終わりだから、さっさと着替えて帰ろう。モモもな」

「はぁーい」


 モモちゃんは膨れっ面のままだけど、素直にトランスペンを取り出した。桜貝のようなピンク色のトランスペンをポーチから取り出し、躊躇いもなくキャップを外す。

 ピンク色の光が瞬きの間モモちゃんを包み、光が消えるとモモちゃんは制服姿になっていた。その制服は私の高校とは違う、けれど有名な私立の女子高の制服だった。背の高さや行動から中学生かと思っていたので、高校生……もしかしたら自分よりも先輩なのかもしれないと思って、少し驚いた。


「あーちゃんも戻んないの?」

「あ、戻りたい。変身と同じようにすればいいかな?」

「そうだよー」


 さっきしまったばかりのトランスペンを取り出し、変身した時と同じように羽を押しながらキャップを外す。ペンから黄緑色の光が出て、瞬きのうちに制服姿に戻っていた。藤くんも同様に戻ったようで、制服姿になっている。


「……ハイテクだね、このペン」


 あの一秒ほどの間で、瞬時に服が変わっている。光のせいでどのように服が変わっているのかは分からないけれど、この小さな中にヒーロースーツがしまわれているかと思うと、単純にすごいと思う。一秒の間で服を出して、着替えさせて、しまっている。そもそもこの大きさの中にどうやって服が入るスペースがあるのか。とにかくハイテクすぎて、手品のようだ。


「でしょー? このペンねー、あおたんが開発したんだよっ」

「あおたん?」


 私の体に軽く抱きついてきながら、まるで自分のことのように胸を張って教えてくれる。その様子が幼くて、年の離れた妹がいたらこんな感じなのかな、と考えてしまった。計算されてない、無邪気なかわいさがある。もちろん顔もかわいいんだけど、行動や発言がかわいい。


「ドクターのこと。モモは何にでも変なあだ名つけるから」

「そうなんだ……。じゃあ、さっきの服も青丹さんが?」

「らしいよー。あおたんが夜なべして、手縫いしてるとかしてないとかって噂っ。モモがちーちゃんみたいなスーツ着せられそうになって、かわいいのがいいって言ったらね、女の子の分だけかわいくしてくれたんだよっ」


 青丹さんが、夜なべ。さっきのふわふわぴらぴらを、手縫いして。さっき会った青丹さんがそんな風に一着一着スーツを縫っている。その光景を想像すると、ものすごい勢いで笑いがこみあげてきた。

 噴き出しそうになった口に咄嗟に手を当てて、我慢する。笑いをこらえるのはものすごく大変で、ぷるぷると体が震えてきた。


「あおたんってすごいよねっ。ペンも作れるし、服も縫えちゃうし!」

「だ、だね……っ」


 だめだ、声まで震えている。モモちゃんがふふふと笑いながら、また私の体をぎゅーっと抱き締めてくる。どうやら躊躇いもなくスキンシップをしてくる子のようだ。かわいいからされても全然不快じゃないからいいんだけど。


「ねぇちーちゃん、あーちゃん、帰ろっ。日が暮れちゃうよ」

「もうそんな時間か。じゃ、帰ろうか、日和田さん」


 また抱きつかれて動けなくなっている私から、べりっとモモちゃんを引き剥がし、藤くんは学校用の鞄を持つ。


「うん。このペン、どうすれば……」

「もらっちゃっていいよ。それ、日和田さんのになったんだし。刈安さーん、俺ら帰りますから」

「あーそうね、ご苦労さま。明日、綾ちゃんには詳しい説明してあげるからね。またね」


 作業を中断して、キャスター付きの椅子をくるりと回転させてこちらを振り向いた刈安さんが、笑顔で見送ってくれた。その笑顔を背に、JHを出る。

 どうやら私は成り行きで、この街の平和を守る「ヒーロー」――いや、女だから「ヒロイン」なのかな――になってしまった、……らしい。



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