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祭りの後

 たった二時間のお祭りが終われば、いつもどおりの日常が待っていた。ただ、修二の周りは少しだけ賑やかになっていたが。

 学食で最も高いAランチを注文し、修二はテーブルに付く。隣に座る竜は最も安いうどんを啜っていた。


「やっぱり得だよな、学食百円券は」


 Aランチの大盛り唐揚げを竜が羨ましげに見てくるのを無視して、修二はご飯をかきこんだ。

 赤鉛筆と青鉛筆。それは学校側が用意してくれた特別賞らしい。

 生徒会にも所属していた金山修一がかつて、伝統行事をなくしてはならないという旨を熱く学校側に説き、学食百円券を出させたというのだから、我が兄ながら恐ろしいと修二は思う。

 最後の決戦の時に選抜メンバーのうち青赤鉛筆を持つ一人を捕まえられた寮の参加者には、学食百円券がプレゼントされるというわけだ。

 誰が持っているかは、捕まえてみなければ分からない。

 蒼天寮の鬼たちは、白峰が持っているのだろうと予測を立てた。だから、彼だけに狙いを絞って追ったのだ。実際は修二が託されていたわけだが。

 後で聞いたことだが、蒼天寮の青鉛筆を竜が持っているということを、我らが参謀・久地尚人は知っていたらしい。情報の入手ルートは教えてもらえなかったが、彼も彼とて恐ろしい人である。


「お、金山弟じゃん」


 そして、修二はこんな風に声をかけられる機会がやたらと増えた。


「金山修二です」


 聞き覚えのある声の主を座ったまま見上げ、修二はフルネームを教えてやる。


「Aランチいーなー。いっそ俺も寮生になりてーわ」


 放送部の山井はその大きな声でおかまいなしに話を進めてくる。隣の尚人がぺしっとその頭をはたいた。


「寮に入るなら蒼天にしなよ。うちにお前が入ると勝てるような気がしない」


 穏やかな口調でなかなか酷いことを言う尚人の手にもまた、Aランチの唐揚げがこんもりと載っていた。


「ひでー。どう思うよ、金山修二。こいつなんかが先輩で可哀想だなお前も」


 修二がなんと返せばいいのかと困っていると、もう一人が救いの手を差し伸べてくれた。


「中庭の大木の件は分かった?」


 佐々春樹だ。話を変えてくれたのだと分かり、修二はほっと笑みを見せて問いに答えた。


「ええ、分かりました。あれ、兄貴はロープ括りつけて準備をしてたらしいんですけど、結局使う機会がなくてやらなかったんです。だから俺に使ってほしかったんだって笑ってました。まったく、とんでもない兄貴ですよ」


 万が一落ちて怪我でもしたらどうするつもりだったのだ。そう言ってみたら、「修二なら上手くやると思った」と返されて、もう何も言えなくなってしまった。

 妙なところで信頼されたものだ。


「なるほど、金山先輩らしいな」


 春樹は納得した様子で頷く。


「あの、先輩たちは知ってたんですか? 俺が赤鉛筆持ってたこと」


 ちょうどいい機会だ。聞いてみたかったことを修二は口にする。

 しかし、一体どこから聞いていたのか。タイミングよく割りこんできたのは最早、名前を書くまでもない、そう、この人。


「おいおい修二くん、信じてくれてないわけ? あれは俺たち二人だけの秘密だって言っただろー? 敵を欺くにはまず味方からってな」 


 白峰がいつもの軽い調子で気持ち悪いことを言いながら隣の席にAランチを置いたので、修二はあからさまにげんなりとした顔になる。


「先輩、あんまりしつこくすると嫌われますよー」


 山井がくすっと笑って余計な一言を落とし、逃げるように去って行く。尚人と春樹もそれに続き、味方は消えた。


「じゃ、俺も先行くわ!」


 うどんをさっさと食べ終わった竜までが、修二を置いて席を立つ。


「ちょっと待て竜!」


「あっはっは、逃げられてやーんの」


(いやあんたのせいだろ)


 呑気に笑う白峰を睨み返してから、仕方無く残しておいた唐揚げを食べようとして――無い。

 横を見れば白峰が大きな唐揚げを丸ごと口に入れるところで。


「ちょっと何してんですかあんた! 人の唐揚げを! 自分のがあるでしょうが」


「んまんまほしふえ…」


 口いっぱいの唐揚げのせいで何を言っているのかさっぱり分からないが、きっとロクでもない言い訳なので無視することにする。


「かたいこと言うなって。お互い助けあった仲じゃん?」


「あれは俺の人生最大のミスでした」


「ひっでー。そこまで言うかー?」


 白峰が一人追いかけられているとき、自分の託された赤鉛筆が「切り札」なのだと知った修二は、自分が囮になる方法を選んだ。

 白峰を助けるため、と言えばそのとおりだが、


「寮の勝利のためです」


 あそこで白峰が捕まれば、赤鉛筆は守れたとしても赤壁寮の勝利はなかった。


「そうだよなー。ありがとう」


 急に素直に礼を言うものだから、修二は拍子抜けしてしまう。なんだかバツが悪くなったのを、味噌汁を啜って誤魔化した。


「そういうお前だからさ、頼みたいことがあるんだけど」


 改まった調子で切り出す白峰は、彼らしくもなく続きを言い淀む。


「なんか気持ち悪いんで早く言ってください」


「あ、そう? じゃ言っちゃうけど、来年からの鬼ごっこの盛り上げ役は、お前に任せるから」


「えっ!?」


「大丈夫、お前なら。なんてったって金山修一の――」


「いやそうじゃなくて。それだけですか? 頼みたいことって。そんなことなんですか?」


 てっきりもっと無茶なことを言われるのだと思っていた修二は、本気で拍子抜けした。

 だって、その頼み事はもう、


「鬼ごっこを盛り上げるのは当たり前じゃないですか。今さら頼まれなくてもやりますよ。――金山修一の、弟ですから」


 白峰が言おうとした台詞を奪って、修二はニヤリと不敵に笑う。

 急にテーブルの上に突っ伏す形で項垂れた白峰は、どうしようもなくこみ上げてくる喜びに肩を震わせて、 


「やっぱりすげーわ、金山兄弟」


 その言葉通り、残り二年間の高校生活の中で金山修二は数々の伝説を作り上げることになるのだが、それはまた、別の話。





年末年始6日間、なんとか完結間に合いました。

この荒削りな話を読んでくださっていた方がいるのかどうか分かりませんが、無事に終われて良かったです。

とにかく終わることを目指して書いてきたので、きちんと見れる形にぼちぼち校正していこうと思います。


ありがとうございました。


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