くたびれ吸血鬼のオジサマが、要所要所でイケメンすぎて困る。
吸血鬼の朝は早い――――。
意味が分からないです。
でも、我が家に居候している吸血鬼のオジサマがそう言うんです。
グラスにトマトジュースを入れて、ストローでチューチューと飲みながら。しかも、真っ青なお顔で。
クラヴァットを美しく結び、ウエストコートの上にはフロックコートもしっかりと着込んだ、貴族然としたお姿との対比が凄いです。
「フゥ……やっぱり君の領地のトマトが一番美味しいね」
トマトジュースを飲み終えて、幾分か顔色がマシになったオジサマ。
少し癖のある白銀の髪を搔き上げ、真っ赤な瞳を細めてふわりと微笑みました。
ちょっと格好良いのがモヤッとします。
父が治めるちょっと貧乏寄りのソラルム領ですが、トマトの生産だけは自信があります。その名産品であるトマトを定期的に大量に買い付けるため、王都から来ているオジサマ。
王都で商いをしている伯爵様だと聞いていました。
はるか昔にトマトを使った加工品で財を成し、それを今も続けているのだとか。
幼い頃、ヴァンピーロ伯と取引できるのは、とても光栄なことだぞ! と父がドヤっていたのをよく覚えています。
そんなオジサマがなぜ我が家に居候しているのかというと、理由はちょっと謎です。
収穫が控えている時期は、人手が足りなくなると我が家の使用人たちも総出で領民の畑へ手伝いに出ます。
丁度よくその時にフラッとやってきたオジサマが屋敷の前で待ちぼうけになってしまい、蒸し上がるような暑さの馬車から外に出たところ、直射日光にあたって倒れたそうでした。
収穫から帰ってきたら、我が家の門の前で倒れていた真っ青な顔のオジサマと、それを起こそうとしていた雇われ馭者に遭遇。
慌てて皆で抱えて屋敷の客間に寝かせて看病したまでは良かったものの、そこからなぜが体調が回復するまで逗留という名の居候になりました。
「オジサマ、次からは使用人なり部下の方を連れて来られてくださいね?」
「んー? 気が向いたらね」
いつもその時限りで雇った馭者さんと二人で来ているオジサマ。伯爵様なのだから王都のお屋敷には沢山の使用人がいるはずなのに。
一人旅は危ないと話しても、のらりくらりと躱されてしまいます。
「もぅ。心配してるのに」
「ふふっ。フレスカ嬢は優しいね」
オジサマはニコニコと微笑みながら、私の頭を撫でると朝食を摂り始めました。
父と母の朝は少しゆっくりめですが、私は毎日畑の様子を見に行ったり、屋敷の裏にあるマイ菜園のお世話があるので、朝日が昇って直ぐくらいに厨房で朝食を摂っています。
それに気付いたオジサマが、いつの間にか向かい合って一緒に朝食を食べるようになり、さらにいつの間にか隣に座るようになっていました。
「料理もして、田畑の世話と私の世話も。君はとてもまじめだね。きっといいお嫁さんになるよ」
「……相手がいませんが?」
二十過ぎても婚約者がいません。友人は皆結婚してしまいました。
一応領主の娘なこともあり、王都の夜会などで良き旦那さまを捕まえ――――なんて両親や既に結婚している兄に言われますが、旦那さま探しよりも田畑の方が心配です。
「真っ赤に熟れたトマトのように美味しそうな髪と唇だ。フレスカ嬢が夜会に参加したら沢山の飢えた男たちが集まって来そうだがね?」
「それ、褒めてます?」
「ん? 褒めてるよ?」
「ありがとう、ございます?」
オジサマとの会話は楽しいですが、よく語尾が疑問形になりがちです。
「では、畑の様子を見てきます」
「うん。いってらっしゃい。いつも美味しい朝食をありがとう、フレスカ嬢」
「いえ――」
屋敷を出て、畑に向かいながら食後のオジサマの顔色を思い出していました。
一日のほとんどを青白い顔で過ごされていますが、食後は少し血色が良くなります。
生まれながらの体質で、ここ最近は調子がとても悪かったのだとか。
オジサマがおいくつなのかは知りませんが、白銀の髪や少しくたびれた様子も相まって、父と同じか少し上の四十代後半かなと思っています。
一度お聞きしたのですが、「うん? 何歳だったかなぁ。たぶん七百年くらいはいると思うよ」なんて適当に躱されてしまいました。
自分は吸血鬼だと言ったりと、ちょっと変な人ではありますが、都会の洗練された紳士の仕草やこんな田舎娘を淑女として扱ってくださる姿勢に時々胸をときめかせてしまっている自分がいます。
「…………ハァ」
「お嬢? 最近、溜め息が多いすけど、悩みごとですかい? トマトの出来はいいのに」
「え、あっ。ごめんね。っていうか、私の悩みごとがトマトだけみたいに言わないでくれる!?」
「「わははは」」
私をお嬢と呼んだのは幼馴染のジョン。
一緒に作業していたジョンの家族たちに大笑いされてしまいました。
「ぱーぱ!」
幼い女の子の声が畑に響きました。
声のした畑の端に視線を向けると、子どもを抱いたジョンの奥さんが笑顔でこちらに手を振っていました。
「お? もう昼か! お嬢は食ってきます?」
「今日は屋敷で摂るわ」
「へい」
ジョンは、結婚する気配がなくて心配過ぎるとか言われていたのに、気付いたら隣町からお嫁さんを貰ってきていた裏切り者。
綺麗な奥さんと可愛い娘がいてとても幸せそう。
「ねぇ、結婚するって幸せ?」
「なんですか、急に。もしやお嬢……やっと?」
「やっと、とか言わないでくれる!?」
またジョンの家族たちに大笑いされてしまいました。
他の畑の領民たちに声を掛けつつ屋敷に向かっていると、途中にある大きな木の根元にぐったりとして座り込む銀髪の男性。
――――え。
「オジサマ!」
慌てて駆け寄ると、真っ青なお顔でこちらを見てふわりと表情を緩めるオジサマ。
こんなところで何をしているのかと聞くと、私を迎えに来たのだとのたまいます。
体調が悪いのに外出などしてと怒ると、なぜか嬉しそうに微笑まれてしまいました。
「うん。ごめんね?」
ちょっとくたびれた様子のオジサマ。
立ち上がれるかと聞きながら手を差し出すと、少し戸惑ったようにしつつも、しっかりと手を握ってくださいました。
グッと引っ張り上げると、「面目ないね」と淋しそうな表情で笑われました。
「いまさらですよ」
「いまさらか」
「それにしても、こんなに暑いのに手が冷たいですね」
真夏を少し過ぎたこの時期なのに、氷のようにひんやりとしたオジサマの手を両手で温めるように包むと、クワッと真っ赤な瞳を見開かれてしまいました。
「フレスカ嬢、こんなふうに不用意に触れては駄目だよ。私も一応、異性だからね?」
オジサマがするりと手を引き抜き、一歩近付いて私の耳元でそう囁くと、フーッと耳に息を吹き掛けて二歩離れて行きました。
「ッ――!」
「今日のお昼はトマトたっぷりの冷製パスタだよ」
何も気にした様子もなく飄々とお昼の話に切り替えるオジサマを、私は口を尖らせて睨みつけることしか出来ませんでした。
顔はきっと真っ赤になっているはずです。それこそ、熟れたトマトのように。
ある日の夕方、幼いころに一緒に農作業をしていたエルマが亡くなったとジョンが両親に報告に来ました。
ここ最近は八十代ということもあり、ひ孫の世話をしながら穏やかに余生を過ごしていると聞いていたのに。
「明日の昼からミサと埋葬するらしいっすけど、お嬢も来ますか?」
「……うん。行くわ」
「っ、お嬢! 危な――」
ショックのあまり、視界も体も揺らいで倒れそうになった瞬間、いつの間にか隣に来ていたオジサマが腰をしっかりと抱きとめてくださいました。
「おっと。大丈夫かい?」
ふわりと鼻腔を擽るムスクの香りが心を落ち着けてくれます。
「ジョンくん、知らせに来てくれてありがとうね?」
「え、あ、はい?」
「ショックが大きかっただったようだから、フレスカ嬢は少し休ませたいんだが、用件は以上で大丈夫かな?」
「えっと……? はい。大丈夫?です」
オジサマとの会話はジョンも疑問形になるのね。なんて、変なところを気にしていたら、「失礼するよ」という声とともに体がふわりと浮き上がっていました。
「キャッ!?」
「暴れると落ちるよ? 首に掴まりなさい」
「っ……はひ」
ムスクの香りがさきほどより濃くなったことで、余計にオジサマとの距離を意識してしまい、顔に熱が集中してしまいました。
いつもはくたびれ感やひ弱感といったものが色濃く出ているのに、軽々と抱え上げて私の部屋に歩いていきます。
ベッドにゆっくりと寝かされ、覆いかぶさるようにして額にキスをされました。
「少し休むようにね? 顔が赤い」
「はい」
誰のせいだと言いたいけれど、オジサマは相変わらず飄々としたままです。
翌日、両親とともにエルマの葬儀に向かおうとしていると、オジサマもついてくると言い出しました。
「昨日、倒れかけたからね。男手はあったほうがいいよ?」
その言葉に両親は感激しつつ両手を挙げて賛成。でも私は昨日のこともあって、ちょっと距離を置きたいなと思っていました。
オジサマから少し離れて歩こうとしているのに、オジサマは私の体調を伺いつつ歩幅を合わせて来ます。
なんでこんなときは紳士然として格好良いんですか。
「フレスカがヴァンピーロ伯に可愛がられていると、王都のご令嬢たちに知られたら『ズルい!』なんて、嫉妬の嵐になりそうですな!」
わはははと空気も読まずに笑う父にモヤッとしていたら、オジサマがクスリと笑い声を漏らしました。
「幼いころから見ていましたからね。娘というか孫というか……そんな気分なんですけどね?」
――――娘、孫。
ドキドキしていた自分がバカらしく感じました。
はっきりとした年齢は分からないものの、確かに親子ほど離れてはいそうです。でも、想いが芽生えていたことに気付いたです。
好きだという想いが、いまだんだんと膨らんでいたのに……。
「そうは言いますが、バンパイアとしてはまだまだ若いでしょうに」
「うーん。そうなんですがね。私は血を飲むのをやめてしまいましたので」
――――え?
「ソラルム領のトマトが一番渇きを鎮めてくれるんですよねぇ」
「いやはや光栄なことで」
もしかして、父はオジサマが吸血鬼なんて世迷い言を信じているの!? なんてツッコミを入れたくなる会話が馬車に乗った後もどんどんと続いていました。
吸血鬼は、生娘の首に咬み付き血を飲み干す。なんて迷信はあります。そうすることで悠久の時を得ているのだとか。
寝るときは棺桶の中だとか、十字架を嫌うとか、銀の杭を刺すと灰になるとか、ニンニクやタマネギが苦手だとか、日中に行動できない、日に当たると火傷をするとかとか。妙にリアルな伝承はあります。
昔は手当たり次第に生娘を襲う吸血鬼が多く、国とオジサマが協力して管理するようになったこと。
渇きを抑えるために血にそっくりな見た目のトマトジュースを飲んでいたこと。
太陽の恵みがたっぷり含まれたトマトを摂取することで日の下で歩けるようになるという副次効果があったこと。
それらの他にも、父とオジサマが感慨深そうに話していました。
――――え?
オジサマの部屋には棺桶があり、オジサマはそれで寝ています。
あれは、なりきりプレイのようなものではなく、本当に!? え? 本物!?
ミサは教会で行われますが、十字架は大丈夫なのでしょうか?
オジサマは普通に参加し、聖歌斉唱もしていましたし、涙を流す私にハンカチを差し出すなんて気遣いも……。
その後もオジサマは墓地で埋葬前の牧師様のお言葉を聞き黙祷し、皆で一緒に十字を切り、普通に葬儀に参列していました。
両親は夜通しの会食に参加するそうで、私はオジサマと屋敷に戻ることに。
「あの……オジサマは本当に…………吸血鬼なのですか?」
「ん? あれっ? もしかして信じてなかったのかい!?」
馬車の中で恐る恐る聞いてみると、オジサマが酷く驚いたお顔をされました。
正直、全く信じていなかったと話すと、さらに驚いたお顔に。
「ちょっと、聞くのが怖いんだけど。今まで何だと思っていたんだい?」
「…………な、なりきりプレイの激しい方だと……」
「えっ!? イタいおっさん扱い!?」
ショックを受けるオジサマに本当にすみませんと平謝りしまくりました。
「吸血鬼なのに……十字を切るんですか? それに教会に行ったり、葬儀に参加したり、牧師様のお話を聞いたりは苦痛なのでは? 宗教というか文化というかも違うでしょうし……」
「うん? 死を悼むことに文化も種族も関係ないだろう? 悲しみはともに癒やしたいし?」
「そう、なんですか?」
「私はそうだよ。大切な人とともにいたいと思うよ?」
オジサマのその言葉に、なぜか胸が苦しくなりました。でも、それと同時に温かくも。
――――好き。
オジサマへの恋心を認識してからは、くたびれ感満載のオジサマもキラキラと輝いて見えるようになりました。
「はい、どうぞ」
「ありがとう」
毎朝のトマトジュース作りにも精が出てしまいます。オジサマの体調が良くなるのならと、飲みやすくなるよう少し味付けを工夫してみたり、食事の好みというか吸血鬼としての苦手を探ってみたり。
「ニンニクとかって……」
「焦がしニンニクってほんと美味しいよねぇ」
――――あ、平気なんだ。
「オジサマ! 今日は日差しが強いです――」
「うん? 平気だよ? ありがとうね?」
「でも太陽の下では……」
「数百年前から克服してるよ?」
――――そういえば。
いつも顔色が悪いから、我慢していたのかと勘違いしていました。
「まぁ、暑いのが苦手ではあるけどね」
少し苦笑い気味のオジサマのお顔を見て、外に出ようとしていたオジサマの腕に抱きついて引き留めようとしていたことに気が付いて慌てて離れました。
「太陽より、無防備な首筋の方が私には毒だよ――――」
オジサマが薄く唇を開けながら、私の首筋にゆっくりと顔を近付けて来ます。
チュッというリップ音と、首筋を柔らかく喰まれる感触にビクリと体を震わせてしまいました。
「っ!?」
「冗談だよ」
苦しそうに微笑みながら、もう二度と人は咬まないから安心してと消えるような声で呟き、体調が悪いからと部屋に戻って行かれました。
夕食の時間になってもオジサマは体調不良だとのことでダイニングに食べに来られませんでした。
父いわく、吸血鬼は定期的に血を飲まなければ、悠久に近い命でも終わりが来るとのことでした。
オジサマは過去に何かがあり、血を一滴も飲まなくなったそう。そのせいか、ここ最近は明らかに見た目の加齢や体調不良が酷いとのこと。
「もうすぐ、寿命を迎えられるのかもしれないな」
「っ! なんで! 飲めばいいのに……」
「フレスカ、伯はそれでも飲みたくないんだよ」
そんなことを言われても。
死ななくて済むのに。自らそれを選ぶなんて。
オジサマがいなくなるなんて、私には納得出来ませんでした。
夕食を終えたあと、少しでも何か食べ物を食べた方がいいだろうと、オジサマのお部屋を訪れました。
扉をノックしても返事がないとき、いつもはそのまま立ち去るのですが、先ほど父が漏らした『寿命』という言葉に不安を覚えました。
「……おじゃまします」
そっと扉を開けると、空のベッド横の床に真っ黒な棺桶がありました。
「オジサマ……」
蓋は絶対に開けるなと言われていたものの、どうしても心配で棺桶の蓋に手を掛けました。
蓋を押し上げると、中には青い顔で横たわるオジサマが。
生きているのか死んでいるのか分からなくて、慌ててキスをしそうな程に顔を近付けると、どうにか浅く息をしているのが分かりました。
「…………ぁま、い」
オジサマが掠れた声でそう呟いた瞬間、首筋にジクリとした痛みが走りました。
「痛っ――」
次いで何か吸い上げられるような感覚と、ゴクリと嚥下する音。
「ッ!? フレスカ嬢!? なっ……」
ガバリと起き上がったオジサマの口の端から、赤い筋が垂れました。
みるみる内にオジサマの顔に血色が戻って行きました。皺やくたびれ感も薄まって、少し若く見える気も。
「良かった――――」
「どういうことだ……私は…………君を襲った……のか?」
慌てるオジサマに、自分が棺桶の蓋を開けて至近距離まで顔を近付けたせいだと話すと、オジサマが見たこともないような憤怒の表情に。
「蓋は絶対に開けてはいけないと言っていただろう!」
「……心配で」
「っ! そんなものは求めていない!」
それは完全な拒否。
「また、生き長らえてしまった…………ここにいるべきではなかった……」
オジサマのその言葉に涙が溢れ、ボロボロ泣いてしまいました。
「ごめ……なさい…………」
「っ!」
「ごめんなさい……いなくならないで。好き、なんです……」
「フレスカ嬢、それは勘――――」
「勘違いじゃありませんっ!」
いつからか分からない。でも、本当に好きだったんです。
思えば、幼いころからオジサマがトマトの買い付けに来てくれるのをいつもドキドキと待っていました。
両親に次はいつ来るんだと確認も。
倒れていたオジサマを見たときは心臓が止まるかと思うくらい怖かったし、心配でした。
我が家にしばらくいることになったときには、心の中でこっそり喜んでしまっていました。
くたびれた姿もなんだかんだで愛おしいし、トマトジュースをチビチビ飲む様子も可愛くて好きでした。
オジサマへの恋心に気付いたのは最近ですが、恋はずっとしていたのです。
「死んじゃ、やだ……」
オジサマが嫌がることをしておきながら、泣いてワガママを言うなんて最低だなと自分でも思うのに、どうしても我慢が出来ませんでした。
「ごべんなざいっ」
床に座り込み、両手で目元を擦りながら涙を拭っていたら、ギュッと力強く包み込まれていました。
ふわりと香るムスクで、オジサマに抱きしめられているのだと理解した瞬間、涙腺が完全に崩壊してしまいました。
まるで幼い子どものように、オジサマに抱きつてワンワンと泣きじゃくる。
こんなんじゃきっと嫌われる――――。
■■■
はるか昔、燃えるような恋をした。
愛しい人の血を吸い、生き続けた。
愛しい人には私の血を分け、眷属にした。
でも、心までは吸血鬼になれなかった。
眷属も人間の血を飲まないと渇き餓え、死に至る。
私たち吸血鬼は人に生かされていると言っても過言ではないだろう。
愛しい人は、人間の血を飲むことができなかった。
そして衰弱して死んだ。
私には『生きろ』なんて、呪いのような願いを残して。
それ以来、私は何のために生きているのか分からなくなった。
ただ事業を拡大し、時折気に入った人間たちの側で暮らしてみる。
今回もそうだった。
たまたま知ったのだが、ソラルム卿は愛しい人の親族の子孫だった。
幼いころから成長を見ていた少女がだんだんと大人になってきていることがとても感慨深かった。そして、そのフレスカ嬢がなんとなく愛しい人に似てきているのも。
もう五百年近く血を飲んでいなかったので、体調も最悪。愛しい人に似たフレスカ嬢が幸せになる姿を見てから逝きたい。
そんな私の我儘のせいで、フレスカ嬢を苦しめることになるとは思いもよらなかった。
「フレスカ嬢、済まなかった」
抱きしめそう告げると、フレスカ嬢がビクリと体を震わせた。
首筋には真新しい咬み跡。
流れる血からは甘く芳醇な香り。
――――咬みたい。
頭の中にそればかりが渦巻く。五百年耐えただろう、我慢しろ。
自分にそう言い聞かせ、フレスカ嬢の咬み跡を舐めた。吸血鬼の唾液には少しの治癒効果があるから。
「ぁん……っ」
「………………」
フレスカ嬢の鼻にかかるような甘い声と真っ赤に熟れた顔に、理性が吹き飛ぶかと思った。
「……すまない」
落ち着け。
気持ち悪いおっさんになるな。
これ以上は拙い。
本当に気持ち悪いぞ、私。
脳内で必死に己を叱咤しながらフレスカ嬢を解放した。なのに、フレスカ嬢ときたら、淋しそうな顔で見上げ、私の袖をキュッと掴んでくる。
何だこのいじらしくて可愛い生き物は!
このままでは、本当に気持ち悪いおっさんになってしまう――――。
◇◇◇
私が落ち着くのを待ってから、オジサマが過去にあったことを話してくださいました。
はるか昔に愛した人のこと、その方の親戚の子孫であること、『気持ち悪いおっさん』というものになりたくないこと。
「両思いなら、いいですよね?」
「うん? いや、だから、君のその気持ちはたぶんなんか、勘違いとかで――」
「好きです! 大好きです!」
オジサマの言葉を遮ってそう伝えると、オジサマのお顔が真っ赤に。
あれ、待って。オジサマって結構初心なのかも?
あと明らかにお顔が若返ってる……。
オジサマいわく、先ほど血を飲んでしまったのでちょっと若返っているんだろうということ。
ただ、少量だったので数ヵ月で効果は切れるそう。
「え、数ヵ月も保つんですか?」
「そうじゃなきゃ、人間がいなくなっちゃうよ?」
「確かに?」
やっぱりオジサマとの会話は疑問形。
それが何だか面白くてクスリと笑っていたら、オジサマが怪訝な顔になっていました。
「ま、いいか。さて、ソラルム卿に殴られてこようかな」
「え? なぜ……」
「ん? 君を貰うからね」
オジサマがニコリと笑って首筋にねっとりとしたキスを落としました。
そして、離れていく際に耳元で「唇は結婚式まで取っておこうね? 愛してるよ」と。
――――イケメンが過ぎるっ!
ちょっと若返ったオジサマから、腰砕けレベルのキスとセリフと破顔のコンボを食らって、私のキャパがオーバーしてしまい熱を出してしまいました。
オジサマはちゃんと父に殴られたのだとか。
ちゃんとの意味が分かりませんでしたが、ほんの少し頬を腫らして誇らしそうにしていたのは、ちょっと可愛かったです。
―― fin ――
最後までお付き合いありがとうございます!
おい、もうちょいエロれ。←
吸血鬼ネタいいな!
長編化の際はイケメンエピ増やせよ?
そんな感じでいいので(いいの?)ブクマや評価などしていただけますと、作者のやる気スイッチが押されます。たぶん!←




