〜戦時下の甘味物語〜そのホットケーキは機械油で焼かれていました。
なろうラジオ大賞参加作品です。
ほかほか ふんわり。
その上には 甘〜いシロップがとろ〜り。
ホットケーキはなんて美味しそうなんでしょう。
でもね。
私が思い出すのは、ちょっと違うホットケーキなんです。
昔、世界中が大きな戦争をしていた時がありました。
その時は、兵隊さんに食べ物を沢山送っていたので、残っている人達の食べ物はすごく少なかったんです。少なすぎてお金があっても買えなくて、切符で食べ物を受け取ってたんですよ。
信じられないでしょう?
みんないつもおなかペコペコ。お米の代わりにサツマイモや麦が配られ、甘いお菓子なんて夢でしか食べられませんでした。
私のお母さんは、軍需(戦争で必要なもの)工場で服を作っていました。毎日毎日、一日中ミシンで服を作るのです。そのミシン達に機械油をさすのも、お母さんの仕事でした。
ある日、お母さんはミシンにさす機械油を持っていた布きれに浸し、家に持って帰ってきたんです。
なぜかって?
その油をフライパンにひくためなんです。
……え?
「そんなの大丈夫なの?」ですって?
そうですよね。今なら絶対お腹こわします。
でもね。あの時は石油がなくて、代わりに菜種油とか松の根っこから採ったりしてたんです。お母さんが工場で使ってた油も、菜種油だったんです。
それに気づいたお母さんは、こそーっと持って帰ってきたってわけです。
で、それで作ってくれたのが「ホットケーキ」。
もちろん、今のものとは全然違います。牛乳もホットケーキミックスもないですし、砂糖もシロップもないんですから。
でも、お母さんはすごく工夫をしてくれたんです。
シロップは配給のサツマイモを切って煮出した甘い水。煮詰めて少しだけとろりとしてました。
ホットケーキは、小麦粉と卵とさっき煮たサツマイモをつぶして混ぜて。
それから……
「でも、これじゃふくらまないわよね…そうだ!」
お母さんは水に重曹を入れ、お庭で育っていた夏みかんを絞りました。
しゅわ しゅわ …
出来上がったのは炭酸水。少しでもふくらませようとしてくれたんです。そうやってお母さんが作ってくれたのが、私の記憶に残るホットケーキです。
あの時のホットケーキはキラキラ輝いて見えて、本当においしかった。みんなで夢中で食べました。
そりゃあ今のホットケーキに味は敵いません。でも、Γあの時のキラキラしたみんなの目は忘れられない」ってお母さんがよく言っていたように、あれほどワクワクした食べ物はなかったと、今でも思うのです。
お読みいただきありがとうございました。
このお話しは、
NHK「あちこちのすずさん」より
「機械油でホットケーキ」
https://www2.nhk.or.jp/archives/articles/?id=C0060948
より着想を得ています。




