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社畜OL、貧乏伯爵家に転生したので美容知識で成り上がります!  作者: あけはる


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第3話 その2

「おう、久しぶりだな。レイフィーネのお嬢さん」


「こんにちは、ルードさん。

 寒い中、来てくれてありがとう」


「こっちは仕事で来てるだけさ」

 そう言いながら、ルードはちらりと屋敷のほうを見やった。


「なんでも、“アルトシア家の倉庫が最近賑やかだ”って噂を聞いたもんでな。

 ちょいと様子を見に来たってわけだ」


「……誰からそんな噂が」


「そこにいるミーナちゃんと、井戸端の女衆」


 笑いながら、ミーナを指さしているルード。


「ミーナ……」


 レイフィーネがじとりと視線を向けると、ミーナは「えへへ」と笑っている。


「だって、すごいことなんですもん!

 この手、見てくださいよ!」


 ミーナは、右手と左手を見せびらかした。


「右はレイフィーネお嬢様のオイルを毎日塗ってて、左は何もしてないんです。

 三日目にして、もうぜんぜん違うんですよ!」


 たしかに、右手のほうが

 赤みが和らいで、ひび割れが浅くなっている。


 ルードは目を丸くした。


「おいおい……本当(マジ)かよ。

 こりゃあ、田舎の適当な香油なんかじゃないな・・・」


「田舎は余計よ」


 レイフィーネが思わず口を尖らせると、

 ルードは豪快に笑った。


「悪い悪い。でもよ、レイフィーネのお嬢さん。

 そんなもん作ってるってことは――

 

 “王都の連中に目ぇつけられる”覚悟はできてんのか?」


 急に声のトーンが変わった。


「……王都の連中?」


「商業ギルドの、美容部門よ。

 あいつら、自分たちの知らねぇところで、“美”が流行るのを相当嫌うんだ」


 私は、心臓がどくりと脈打つ音を聞いた気がした。


(やっぱり……そうなんだ)


 リタが不安そうに口を開く。


「ルードさん……王都の美容部門って、そんなに……?」


「王都の、というかこの国の美容ってのは、たった一つの大商会が独占しているのは知ってるか?

 モランボン商会って言ってよ、俺ら旅商人からしたら、中央貴族と並んで”雲の上の大金持ち”だ。

 王都で美容稼業を営むなら、絶対にそいつらの認可をとらなきゃなんねぇの。

 地方でそれらしいことをやろうもんなら、すーぐ聞きつけて、“安全性がどうの”って難癖をつけて潰していく。そうやって美容利権を独占しているわけよ。田舎には美容は必要ないだろってな―――」


 ミーナが眉をひそめた。


「なによそれ・・・!じゃあ……東方の女の人たちは、ずっとこのまま、手荒れとひび割れのまま、

 王都に行ける人だけ綺麗になれってことですか?」


「あいつらの言い分としては、そういうこったな」


 ルードは肩をすくめた。


「そんで代わりに、“安くて効くふりをした怪しい薬”が、ちょいちょい流れてくる。

 モランボン商会と対立して、王都を追い出された連中とか、闇商人とかが扱ってな」


 ルードのその言葉が、

 これからアルトシア伯爵領に降りかかる災厄のように聞こえて、背筋がぞくりとした。



「だからまあ……」


 ルードは真面目な顔で、私を見た。


「お嬢さんが本気で、“美容”で食っていくつもりなら。

 味方だけじゃなく、敵もできるってことは分かっとけ」


 怖い、と思う。


 王都の商業ギルド。

 モランボン商会。

 大きな権力と金を持つ、大人たち。


 一方で私は、田舎の貧乏伯爵家の長女にすぎない。

 魔法もチートもない。


 でも。


「それでも、私は続けるわ」


 気づいたら、口が勝手に動いていた。


 ミーナとリタが驚いた顔をする。


「アルトシア領の女性たちが、

 ずっとひび割れた手のままっていうほうが、よっぽど、“安全じゃない”もの」


 社畜時代。

 「会社の都合だから」と言われて、いろんな“おかしい”を飲み込んできた。


 今度は、それを繰り返したくない。


「私は、この領地の人のために美容をやるの。

 王都の商人たちに忖度する気は全くないわ」


 ルードはしばらく私を見つめてから、

 ふっと口角を上げた。


「……いい目だ」


「え?」


「東方でそんな目ができるお貴族様のご令嬢は、久々だぜ。

 ついでに、オレも協力してやるよ」


「協力?」


「東方中を回ってるとよ、いろんな素材と噂が集まってくる。

 お嬢様が欲しがりそうなもんがあったら、優先的に持ってきてやるよ」


 彼はそう言って、荷車の一角を指さした。


「実はな。

 “アルトシア・ローズを乾燥させた塊”を欲しがってる

 物好きな商人が、遠くの国には何人かいるんだ。

 王都じゃ鼻で笑われたが、あっちの連中はちょっと違っててな」


「遠くの国……?」


 胸が少し高鳴る。


(東方の素材が―――

 世界に通用するかもしれないってこと?)


「まあ、詳しい話はまた今度だ。

 今は……」


 ルードはミーナの手を指さした。


「その“右手”を、大事にな」


 ミーナは、少し照れくさそうに笑った。


「もちろんです!

 これ、お嬢様の“最初の美容”ですから!」


 その言葉に、私は気づく。


(そうか。これは――)


 たったひとりの村娘の手。ひび割れた指先。


 そこに塗った、

 アルトシア・ローズと小魔蜂(ピクシー・ビー)の蜜とオイル。


 私にとって、この世界で初めての、美容施術だ。


(ここから、全部始まるんだ)



 いずれこの小さな研究所が、王国全土を巻き込んだ渦の中心となる―――


 今はまだ、誰も知らない。



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