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社畜OL、貧乏伯爵家に転生したので美容知識で成り上がります!  作者: あけはる


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第9話 東方の白バラ、本格研究スタート──そして“まつげ革命”!?

翌日の朝日が差し込む頃。

 研究所の前には、もう見慣れてしまった人だかりができていた。


「お嬢様ァ! 今日こそ“左手”もお願いします!」

「順番表に書いてください! ほら、字が読めなくても私が書きましょうね!」

「ミーナ〜! おれ今日三番目~!?」

「わたし昨日、赤みが消えました! 見てください!」


 村全体が異様な勢いで“美容”に目覚めていく。


(こんなに早く、東方に広がるとは……)


 不思議と怖さはなく、

 ただ純粋に胸が熱くなった。




「お嬢様、本日のお客様、こちらです!」


 ミーナが持ってきた予約表には、

 “男:11名 女:16名 初:3名” と書かれている。


「初の人が増えていますね……

 噂がまた広がっているのかな」


「その噂なんですけど……」


 ミーナがこそこそ声を潜めて近づいてきた。


「“東方に白バラの姫がいる”って、村の子どもが言ってたんですよ」


「やめて〜!!」


「でも、ほんとにそう呼ばれてるんですって!

 子どもが“白バラごっこ”してましたし!」


(そんなごっこ遊びまで……!?)


 穴があったら入りたいが、

 正直ちょっと嬉しい。


 



 


 施術の合間、私は机の上で昨日の観察メモを見返す。


 ――小魔蜂(ピクシー・ビー)の蜜の濃度を上げると、色の沈着が強まる

 ――アルトシア・ローズとの相性がいい

 ――使う量が多いと、皮膚が軽く赤みを帯びる人がいる


(……これは、やっぱり“カラーの媒染材”になる)


 前世の記憶と今の世界の素材が、

 ピタリと重なる瞬間―――


(次の一手……まつげカールの前に、

 “髪色の調整”が先かもしれない)


 村には黒髪が多いが、光にかざすと少し茶色がかる。

 色が入りやすい人もいるはずだ。


(これは、“お試し”が必要ね……)


 



 


 そこへ、外から声がした。


「お嬢様ーー! 昨日の商会の人たち、また来てます!」


「また?」


 研究所を出ると、

 昨日と同じ4人組の男たちが立っていた。


「おはようございます、レイフィーネ様。

 昨日の施術を見学させていただけないかと……」


 旅商人とは違う、無駄のない礼儀作法。

 服は上質なのに動きやすい仕立て。

 目つきは、商品を値踏みするときの商人の目だ。


(この人たち……絶対に普通じゃない)


「本日は“見学のみ”なら」


「ありがとうございます!」


 ミーナが私の袖を引く。


「お嬢様……この人たち……なんか、怪しくないですか?」


「うん。絶対どこかの大手商会よ」


「……美容ギルドの関係者だったり……?」


「その可能性もあるわね」


 胸に冷たいものが走る。


(でも……ここで下がったら終わり。

 本物で勝つしかない)


 



 


 昼休憩の頃。

 門番が、急ぎ足で走ってきた。


「お嬢様、荷物が届いてます!」


「荷物?」


「……また、ヴァルティエル公爵家からです!」


「また!?」


 ミーナが頭を抱え、リタは目を丸くする。


 荷車の上には――

 大量の鉢植えと、布で巻かれた箱。


「開けてみても……?」


「はい……どうぞ」


 箱の布をそっとほどく。


 中には、私が人生で見たこともないような

 “高級な美容用のブラシと櫛”が並んでいた。


「これ……王都でしか手に入らない……!」


「こっちは……ハーブの苗!?

 これ、めちゃくちゃ高い品種……!」


 そして、手紙が添えられていた。


『レイへ。

 あなたの施術を再現したくて、侍女たちが王都中の美容器具を集めてきたの。

 東方で育つ薬草も少し送ったわ。

 “あなたの手で、東方の美容がもっと広がりますように”。

 ──エリシアより』


「エリお姉様ぁぁぁ……!」


 私は机に突っ伏した。


「私の…最推しが尊すぎる……!」


 ミーナはにやにやしている。


「レイお嬢様……

 完全に“東方の女神様”扱いされてますね……?」


(ち、違う……ただの元社畜OL……!)



 その晩。

 贈られた器具を広げながら、私は新たな決意を固めていた。


(やっぱり……やろう。

 絶対できる。

 この世界に“まつげパーマ”を作る)


 鉢植えをひとつ手に取る。


 エリシアが送ってくれた東方地方原産で粘り気のある”ヴィスコ・ハーブ”。

 乾燥すると糊状になり、熱を加えると柔軟に形が変わり、食用にも使われ、毒性が無い。


(これ……まつげの固定剤に使える!)


 私は思わず立ち上がった。


「お嬢様……また“思いついた顔”ですね?」


「してない!」


「してます!」


「……ほんの、ちょっとだけ」


 ミーナは笑いながら言った。


「お嬢様。

 この世界、ほんとうに変わっちゃうかもしれませんよ?」


(そう……変えられるかもしれない。

 東方の女性たち、そしてこの国の美容を。

 

 心に灯がともる。


「よし。明日から“まつげ実験”開始よ!」


「わあー!新技術!」

「お嬢様、夜更かしはお控えを・・・」

ミーナは興奮気味、リタは心配そうな顔だが、期待のこもった目だ。

 

そしてその夜。


 私は作業台に向かい、

 成功すれば、もしかしたら、この世界の美容史に残るかもしれない“初めての器具”を作り始めた。




 翌朝。

 東方の寒空がほんのり白む頃。


 村の女性たちがざわざわと噂をしていた。


「聞いた? 白バラ様、今度は“目を大きくする美容”を作るって……!」

「まつげが上がると、美人に見えるって……!」

「なにそれ!? やりたい・・・」


 噂は、もう止まらない。


(……いいわ。完成させてみせる、みんなの期待に応えるのよ)


 私は胸の前で拳を握る。


(東方のみんなを、もっと、美しく)


 ついに、東方美容革命の“第二波”が始まろうとしていた。

できるだけ毎日更新できるように、がんばります。

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