表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
社畜OL、貧乏伯爵家に転生したので美容知識で成り上がります!  作者: あけはる


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

14/21

第7話 東方の白バラは傷心の公爵令嬢を癒したい!

 エリシア様を迎え入れたのは、

 あわてて整えた、客間。


 東方の冬は冷える。

 リタが急いで火を入れてくれた暖炉。ぱちりと弾ける暖かい炎に、

 薄水色の外套を脱いだエリシア様が、目を細める。


「レイフィーネ様……ありがとうございます……

 ……本当に……温かく迎えていただけるなんて……」


 その声は、さらに弱々しく、震えていた。


 リタが温かいハーブティーを差し出すと、

 エリシア様は両手で包むようにしてカップを持ち――

 そのまま、視線を落とした。


「……わたくし、醜くなってしまったのです……

 ジェラルド殿下は、こんなにも醜くなってしまったわたくしに愛想を―――」


 その呟きは、小さくて、

 けれど、胸を締め付けるほど切実だった。



「エリシア様。お顔、しっかりと見せていただいても?」


 そっと声をかけると、

 エリシア様はほんの一瞬ためらい――

 小さく頷いた。


 フードを外し、外套を付き添っている侍女に渡した姿を見て、

 私は改めて息をのむ。


 やはり、髪は艶を失い、毛先が乾いて広がっている。

 肌は乾燥で粉を吹き、唇はかさつき、目元は泣き腫らした跡が赤く残っている。


(最高級の絹布のような肌だったのに……)


 婚約破棄の“破壊力”と、その後の孤独が、

 ここまで人を追い詰めるのかと思うと胸が苦しい。


「エリシア様。

 ……東方の白バラの名ににかけて、必ずエリシア様を綺麗にしてみせます」


「白、バラ……?

 ……もしかして……村の方々が呼んでいるというあの噂の……?」


「あっ……あーその……忘れてください」


 恥ずかしさに顔が赤くなる私を見て、

 エリシア様はかすかに微笑んだ。


「……素敵な呼び名ですわ。

 東方の白バラ……レイフィーネ様らしい」


 かすれた声だったが、その一言に胸が熱くなる。


「さあ、まずは……手を見せてください」


 エリシア様は、おそるおそるレースの手袋を外した。


 白魚のように美しかった指先も、荒れが目立つ。

 涙を拭ったせいか、目元の皮膚も刺激でさらに赤くなっていた。


レイフィーネはリタに研究所まで取りに行ってもらったオイルの瓶を手にとった。


ちなみに本日は急遽、ミーナとリタがレイフィーネの代わりに領民たちへ施術を行っている。


「エリシア様……この美容オイルを使います。

 痛みはほぼありませんから、ご安心ください」


「オイル……? 

 “アルトシアには、手が綺麗になる不思議な美容オイルがある”のだと……」



 


 私はエリシア様の手に、

 ごく少量の“アルトシア・ローズと小魔蜂(ピクシー・ビー)の蜜を使ったオイルを塗りひろげていく。


「あ……」


 触れた瞬間、エリシア様の身体がびくりと震え、

 ここまで付き従ってきたヴァルティエル公爵家の侍女が心配そうに寄ってくる。


「痛みましたか?」


「い、いえ……

 ただ……こんなふうに、誰かに触れられるのが久しぶりで……」


 その言葉に、胸が締め付けられた。


(王都では……きっと誰も、

 エリシア様の“心”に触れようとしなかったのね)


 私はゆっくり、ゆっくりと指先にオイルを揉みこむ。


 ローズの柔らかい香りが広がり、

 小魔蜂(ピクシー・ビー)蜜の保湿効果で、乾いた肌が少しずつ柔らかさを取り戻していく。


「……こんな……優しい香り……」


「当家の領地でとれる、アルトシア・ローズです。

 日持ちが悪く、王都まで届かないので、ほとんど知られていませんが……

 とても良い素材なんです」


「……東方に、こんな宝が……」


 エリシア様の声が、わずかに強さを取り戻したように感じた。


 



 


 手の施術を終えると、私は少し迷ってから言った。


「エリシア様。

 ……もし差し支えなければ、髪も整えさせていただけませんか?」


「髪……?」


「ええ。今は少し、負担がかかっているように見えます。

 馬車の旅もお疲れになったでしょうし……

 我がアルトシアで開発した新しい美容を、ぜひ体験していただきたいのです」


 エリシア様は一瞬だけ迷い――

 すぐに、小さく頷いた。


「……おまかせいたします。

 ……わたくし、もう……

 自分ではどうしていいか、わからなくて……」


 その声は痛ましかったが、

 同時に、“信頼してくれた”証だと感じ、背筋が伸びた。


「では、こちらにお掛けください」


 私は椅子を用意し、リタがそっと布を肩にかける。


 エリシア様の髪は、乾燥で絡まり、

 輝きの欠片もない。


(でも……もともとの素材は完璧。

 丁寧に扱えば、絶対に蘇る)


 私は指先にオイルを取り、

 髪の毛先からゆっくりと揉みこむ。


 金の糸のような髪が、

 少しずつ、少しずつ滑らかさを取り戻していく。


「……なんて、優しい……」


「エリシア様の髪質、前からずーっと素敵でしたのよ。

 たった半年で、失われるはずがないのです。」


「そんな……。

 婚約者であった第三王子でさえ……

 “もう魅力を感じない”と……」


「王子の見る目がないだけです」


 レイフィーネがはっきりとそう言い切ると、

 エリシア様に付き添っていた侍女たちがそれはもう、首がもげそうなほど深くうなずいていた。


 エリシア様は――

 信じられないというように目を瞬かせたあと、

 ぽつりと呟いた。


「……そんなふうに言ってくださった方は、

 レイフィーネ様が……初めてです……」


「“東方一番の才女”が、この程度で魅力を失うわけないでしょう?」


 言うと、エリシア様の喉が震え、

 目に涙が滲んだ。


「……レイフィーネ様……

 わたくし……東方に帰ってきて良かったです……」


(泣かないで……でも泣いてもいい……)


 私はそっと、彼女の頭に手を添えた。


「大丈夫。

 立ち直りましょう。

 だって、エリシア様は、あの日――

 勇敢に私を守ってくれた、憧れのお姉様ですもの!」


「……っ……!」


 エリシア様の大粒の涙が、ぽとり、きらめいた。


 




 顔の保湿も念入りに行って、鏡の前に座ってもらう。


 乾燥で広がっていた髪は艶を取り戻しつつあった。

 顔色は少し血色が戻り、

 目元の赤みも落ち着いている。


「……これが……本当に……わたくし……?」


 震える声。

 鏡に映る自分を、信じられないというように見つめている。


「はい。まだまだ本来の輝きではありませんが、

 エリシア様です」


「……レイフィーネ様……」


 エリシア様は座ったまま、再び、涙をこぼした。


「どうして……

 わたくしなんかに、ここまで……」


「“なんか”なんて言わないでください。

 あなたは私の恩人です。

 そして、尊敬するお姉様です」


 その瞬間。


 エリシア様は両手で顔を覆い――

 声を押し殺して泣いた。


「……うう…………っ……

 ……ありがとうございます……っ……

 ……本当に……ありがとうございます……」


 ヴァルティエル公爵家の侍女たちも静かに涙を拭っている。


(大丈夫。

 エリシア様は絶対に立ち直れる。

 この日が、その第一歩になる)




 

 エリシア様は姿勢を正し、目に小さな光を宿して言った。


「レイフィーネ様……

 本日していただいた施術のお代……

 わたくしの持ち合わせでは到底足りません」


「い、いえ、お金は必要ありません。

 先に助けていただいたのは私のほうなのです。そして東方の仲間を助けるのは当然です」


「ですが……!」


「それならば――

 “第三王子を見返してきてください”」


 エリシア様とヴァルティエル公爵家の侍女たちは同時に息をのんだ。


「……そんな……

 ……わたくしが……もう一度……?」


「ええ。

 そして思い知らせてください。

 “東方の才女を捨てた後悔”を」


 エリシア様は唇を震わせ、

 やがて小さく、力強く頷いた。


「……っ……必ず……!」


 その瞬間。

 エリシア様の瞳に、初めて“自信”の輝きが戻った。


 その後、結局エリシアは、アルトシア伯爵家に1週間滞在した。

 毎日施術をうけ、日に日に本来の美貌を取り戻していくエリシアを見て、レイフィーネの緊張も解け、お互いに”レイ”、”エリお姉様”と呼ぶようになっていった。冗談を言い合えるほど次第に親しくなって――――


「だいだい、ありえないのです!私が最も尊敬するエリお姉様が、醜いなんてこと、万に一つもありえないのです!」やら、

「第三王子殿下の目は節穴なのですか! ええ、不敬でもなんでも、構いませんとも・・・!」やら、

「それになんですか、エリお姉様にはなーんにも落ち度なんかないのに、それに、そっちから婚約を求めてきたくせに? ちょーーっとだけお姉様が王子妃教育でご苦労されてちょーーっと美貌が崩れたからって?一方的に?婚約破棄? 無礼にもほどがあります!!仮にも婚約者であれば、お姉様を支えるべきだったのでは?!」やら、

「婚約者という役割もきちんとこなせないくらいですから、あんなダメ王子、才色兼備な我々のエリお姉様には役不足なのです!!こちらからお役御免してもいいくらいです!!お姉様は優しすぎるのです!」などなど、不敬にも程がある悪口を、ふんすふんすと言い連ねていたレイフィーネであった。

 

 レイフィーネの発言に、ヴァルティエル公爵家の侍女たちはこれまた首が折れそうなほど深くうなずきまくり、当のエリシアも、「あらあら」と微笑みながら、決して止めようとはしなかった。

 

―――――


 自信を取り戻し始めたエリシアが、アルトシア家を去りヴァルティエル公爵家への帰路に就いた、

 ちょうど7日後。



 サファイア・ブルーに二頭の白馬、ヴァルティエル公爵家の紋章をつけた一人の使者が、アルトシア家にやってきた――――贈り物をこれでもかと積みあげた馬車を5台も引き連れて。



 高級布地、菜種やナッツ油、オリーブ油にはじまる植物由来の上質な油、

 上質な紙束、研究器具、ヴァルティエル公爵家原産の珍しいハーブの数々。

 そして――

 アルトシア領では到底買えないような食材の詰め合わせ。


 まさかの公爵本人からのお礼状も添えられていた。


『娘が笑顔を取り戻した。

 アルトシア伯爵家に最大の敬意を』


エリシアからは、

『レイの美容研究に役立ちそうな器具や素材を送ります。

 あなたには感謝してもしきれないわ!ユリウスや伯爵夫人にもよろしくね』

と、優美な字体でつづられていた。 


荷ほどきを手伝っていたユリウスが、驚きのあまり叫び声をあげる。


「すごい……! こんな量、初めて見た……!」


 レイフィーネ本人はというと――

 贈り物の山を前に、呆然と立ち尽くしていた。


(せっかく恩返しができたと思ったのに……!こんなの、一生返せないじゃない……お姉様ったら!)


 だが、一方で――

 温かい幸福感が、静かに広がっていた。


(よかった……

 エリシア様の回復、最初の一歩のお手伝い、うまくできたのね……)


 

タイトル決めるのが、ほんとうに難しいです・・・!(助けて・・・)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ