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社畜OL、貧乏伯爵家に転生したので美容知識で成り上がります!  作者: あけはる


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第5話 “美の芽”が広がる日──東方の朝と、小さな研究所の大騒ぎ


 翌日の朝。


 レイフィーネが研究所に向かうと


「……え?」


 昨日オイルを試した3人の女性たちが、もうすでに扉の前で待っていた。


「お、おはようございます、お嬢様!」

「早く来すぎたでしょうか……?」

「手、見てほしくってねえ!」


 声が揃って、研究所の空気がぱっとにぎやかになる。


(こんなに早く……!)


 昨日“変化があったら教えてほしい”と言ったけれど、

 まさか朝いちばんで待っているとは。


「皆さん、おはようございます。

 順番に見せてくださいね」


 私は作業台に布を敷き、

 ひとりずつ手を取って状態を確認していった。


 


―――――

 


「……おぉ。昨日より、赤みが減っていますね」


「ほんとだよ。あたしゃ、朝起きたときにびっくりしたねぇ」

 ケイト婆さんが、誇らしげに右手を掲げてみせる。


 昨日は深く割れていたひびが、いくつか浅く閉じていた。


(これは……思っていた以上に、効果が出てる)


 もちろん、冬の東方は乾燥がひどいし、水はほぼ氷のように冷たい。

 刺激に弱い肌なら悪化してもおかしくない――

 

 この変化は、明らかに“良い兆し”だ。


「痒みや痛みはありませんか?」


「昨日よりずっと楽だよ。なんなら、左手がかわいそうになっちまうくらいね」

「わたし、昨日の夜、洗濯物しぼるのが楽でした!」

「子どもの服を何回こすり洗いしても、しみなかったです!」


 三人の口から次々に飛び出す報告。


 その明るさに、胸の奥がじーんと温まる。


(よかった……本当によかった)


 前世、朝から晩までPCに向かい上司に怒られそれでも作業し続け・・・

 深夜のベッドで、

「今日私、誰のために仕事をしてたんだろう」と、どこか空虚さを感じていた頃とは違う。


 今は、自分の手が、目の前の誰かの生活を変えている。


 それを実感として味わえる。


「それじゃあ、みなさん。

 今日は“右手だけ”昨日と同じように塗ってください」


「左手には塗らんほうがいいんだね?」


「はい。比較のためです」


 ケイト婆さんがうなずく。


「ふふふ、レイフィーネお嬢様は、学者先生みたいなこと言いなさる、賢いんだねえ」


「そ、そんな……」


 褒められるのは嬉しいけれど、なんだかくすぐったい。


(本当は、ただの社畜OLなんだけど……)


 思わず内心苦笑した。


―――――


 三人を見送って研究所の片付けをしていると、

 隣でミーナが声をあげた。


「お嬢様、これ……昨日より明らかに減ってます」


 棚に並んだ薬草やローズの実。

 調合用に取り分けていた油の瓶。


 確かに“素材の減り”が早い。


「……そうね。施術する人数が増えたから、当然なんだけど・・・」


「でも、これもう“足りなくなる未来”が見えるというか……」


「素材は、できる範囲で集めてもらえば助かるのだけれど……」


 ここで、少し現実的な問題が頭に浮かぶ。


(素材の加工には時間がかかるし……

 大規模生産なんて、すぐには無理)


 それに――


 アルトシア領の貧しさを思い出し、

 胸がぎゅっとなった。


 油も、瓶も、道具も、無限ではない。


 買い足すにはお金がいる。


(食費のやりくりさえぎりぎりなのに……ここの在庫がなくなったら、

 研究所の材料費、どう捻出しよう)


 前世では“会社の経費”を当てにしていたが、この世界にそんなものはない。


「……大丈夫ですか、お嬢様?」

 ミーナがのぞき込んでくる。


「心配かけちゃった?」


「はい。ちょっと難しい顔されてました」


「うーん……」


 正直に言うべきか迷ったが、ミーナは心強い味方だ。


「研究には、材料が必要でしょう?

 でも今の我が家の状況では、たくさん買える余裕はないの」


 ミーナはうんうんとうなずいた。


「アルトシアは貧しいですからね、うちも家計はいつもぎりぎりです……

 みんな似たようなものです」


「ええ。だからこそ、やりたいのだけど」


 美容が当たり前の王都とは違う。

 東方の女性たちは、自分を磨く技術も知識も、持つ余裕がない。


 だから、このオイルは、本当に“大きな意味”を持つはずだ。


 ミーナは、悩む私を励ますように笑った。


「大丈夫です!

 お嬢様のオイル、すごく評判よかったですよ!

 素材だって、アルトシア領にはまだまだあるはずです!」


「そうね……。うちは小魔蜂の巣の質もいいし……

 アルトシア・ローズも、工夫すればもっと使えるようになるはず」


 そう言いながら棚を見上げると――


(あ、そうだ。

 アルトシア・ローズ、“実”以外にも、使える部分があるんじゃ……?)


 茎、葉、花びらの乾燥方法。

 前世知識を応用すれば、何かひとつくらい新しい発見があるかもしれない。


「ミーナ、少し手伝ってくれる?」


「もちろんです、お嬢様!」



―――――

 


 素材の再分類をしていると、

 研究所の扉がノックされた。


「失礼いたします、レイフィーネお嬢様。少しよろしいでしょうか」

 ひょいっと門番が顔をのぞかせる。


「どうしたの?」


「村の女性たちが…… “昼過ぎにもう一度来る”とのことです」


「え……そんなに早く……?」


「ええ。昨日施術を受けた三名以外にも、

 “試してみたい”と申し出た方が増えているそうでして。井戸端で大騒ぎになっているようです」


 門番は困ったように眉をひそめる。

「ケイト婆さん曰く、このままでは、研究所に入りきらないと……」


 井戸端会議の情報拡散力、恐るべし。


 王都では普通でも、

 東方では“贅沢”といわれる願い。


 でも、誰だって少しは綺麗になりたい。

 少しでいいから楽になりたい。


 アルトシアの女性たちに芽生えた、新しい思いに、応えるんだ。


「わかりました。

 でも、施術できる人数には限界があります。

 順番と安全だけはきちんと守らせていただきます、とお伝えください」


「承知しました」


 門番が頭を下げて出ていく。


 ミーナがそわそわした様子で言った。

「お嬢様、これ……本当にすごいことになってきてません?」


「……そうね」


 昨日まではただの“研究”だったけれど。


 今日からは、もう違う。


(研究所は、領地の人たちの希望になり始めている)


 その責任が、少しだけ背中に重くのしかかった。


 



少しづつ話を動かし始めます。

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