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父さんの天体望遠鏡

作者: ミヤミヤ
掲載日:2025/08/16

父さんは、いつもちょっと変わっていた。夏休みの朝、僕はまだ寝ぼけまなこでいると、父さんはもう庭のデッキに座り、コーヒーを飲みながら、天体望遠鏡を組み立てていた。


「おい、ミツル。起きろ、起きろ。夜は忙しくなるぞ」


父さんは、にやにや笑いながら僕に言った。僕が小学生になってから、父さんの宇宙熱はどんどんエスカレートしていった。昔は、ただ星を眺めるだけだったのが、今では高価な天体望遠鏡や分厚い天文学の本が、リビングのあちこちに積み上げられている。


「また、望遠鏡かよ。学校の自由研究、もう終わったんだけど」


僕がぼやくと、父さんは「馬鹿者! 宇宙のロマンに終わりはないんだ!」と、まるでSF映画の主人公みたいに大袈裟に言った。僕がそんな父さんを少し冷めた目で見るのが、いつもの夏の風景だった。


その年の夏は、特に暑かった。父さんと僕は、毎日、汗だくになりながら、庭で望遠鏡を覗いた。


火星の赤い砂漠、木星の縞模様、土星の輪。父さんは、一つ一つ、まるで自分の友達を紹介するかのように、熱心に説明してくれた。


「ほら、ミツル。あれが土星だ。この輪っか、何でできてるか知ってるか?」


父さんの興奮が、僕にも少しずつ伝わってきた。僕たちが住んでいる街の光も、父さんが教えてくれる宇宙の不思議の前では、まるでちっぽけなものに思えた。


「氷と岩のつぶて、らしいよ」


僕がそう答えると、父さんは「正解!」と叫び、僕の頭をぐしゃぐしゃと撫でた。


ある夜、父さんは僕に、とっておきの話をしてくれた。それは、僕が生まれる前の話だった。


「お前が生まれる前、父さんはなぁ、宇宙飛行士になりたかったんだ」


父さんは、はにかむように笑った。


高校生の時、図書室で借りてきた宇宙の本を読んでから、宇宙の虜になったらしい。


父さんのロマンは、いつしか僕に伝染していった。


その夜、父さんは僕に言った。


「なあ、ミツル。宇宙って、すごく大きなものだろ? でも、もっと大きなものがあるんだ」


僕は首をかしげた。


「え? もっと大きなものって何?」


父さんは、そっと僕の肩を抱き寄せた。


「それはな、父さんがお前を愛している気持ちだ」


父さんの言葉に、僕は少し照れくさかった。


その夜、僕は父さんと一緒に、天体望遠鏡を覗いた。


満天の星が、まるで宝石のように輝いている。


僕の目には、一つ一つの星が、父さんのロマンのように見えた。


そして、そのロマンは、いつしか僕の心の中で、大切な宝物になっていた。


夏休みが終わり、新学期が始まった。


父さんは、またいつものように、朝から庭でコーヒーを飲んでいた。


僕は、父さんの横に座り、父さんと同じ空を見上げた。


「父さん、僕、大きくなったら、宇宙飛行士になる」


僕の言葉に、父さんは驚いたように目を見開き、そして、嬉しそうに笑った。


「そうか。じゃあ、父さんも、もう一度、宇宙飛行士を目指すかな」


そう言って、父さんは僕の頭をぐしゃぐしゃと撫でた。


その瞬間、僕は、父さんが教えてくれた宇宙のロマンが、僕の心の中で、永遠に輝き続けることを知った。


僕たちのロマンは、父と子の絆のように、これからもずっと、宇宙の果てまで続いていく。

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