へや
「ねえ……最近、いつも同じ夢を見ているんだ。世の中には、この部屋しかない。この部屋がすべてなんだ。」
部屋は四方が白い壁に埋め尽くされている。ドアも出口もない。部屋を明るく照らす白い電灯と、小さな机の上に置かれた紙と鉛筆、そしてベッドがあるだけ。
僕はその部屋にずっといる。何もすることはないし、昼なのか夜なのかもわからない……ただずっと横になっているんだ。眠り方も、夢の見方も、もう忘れてしまった。ここでは僕は疲れないから。
ベッドに寝転んであれこれ考える。たまに紙に書きつけてみる。でもだめなんだ。どんなにいい考えを書いてみても、少し経つと文字は消えてしまう。まるで魔法みたいに蒸発するんだ。どんなに長く覚えようとしても頭が痛くなるばかりで……結局すべての思考はぐにゃぐにゃにほどけてしまう。水にインクを溶かしたみたいに、どんなに頑張って固めても、少し待つと全部溶けてしまう……。
だから僕はベッドに横になっている。それだけをしている。真っ白な天井からの光は、僕にはただ明るいとしか感じられない。
昔……どこで聞いたのかはまったく覚えていないけれど……こんな話を聞いたことがある。もし猿を自販機の前に座らせて無限の時間が流れれば、その猿はやがてシェイクスピアの『ハムレット』全文を書き上げるって。
それなら僕も……いつかこの空間でできることをすべてやり尽くしてしまうんだろうか? 人類の考えうるもの全部を、一つ残らずこの小さな紙に書き記してしまうんだろうか? 不思議だよね……ベッドの上でどんなに素敵な物語を書いても、どんなに論理的な論文を書いても、どんなに面白い冗談を言っても……しばらくすれば消えてしまうんだから……。
ときどきまばたきをしないといけない。そうしないと目を閉じるやり方すら、すっかり忘れてしまうから。痛い、痛い。いっそ逆のほうを忘れられたらいいのに……。
そうやって目を閉じると、そこにはただ薄暗い闇があるだけ。誰かがクレヨンで塗りつぶしたような質感も、こそばゆい波動も、ゆらめく残像もない。でもその中で何度も何度も見ようとするんだ。想像する。
そうするたびに、記憶の中の風景が真っ白い涙を流す。痛い、痛い。
「ちょっと寂しい。」
僕は……いつからここにいるのか思い出せない。たぶん君に出会ったあと……君のいる世界へ入ったあとだろう。だって僕はまだ、はっきりと君を覚えているんだから……こんなにもはっきりと。
そう……僕はきっとこの場所じゃないどこかからやってきたんだ。もっと活気があって……忙しくて……色彩のある場所から……。
だけどさ……今の僕にはもう何もできない。不思議だ……さっきまではちゃんと思い出せていたはずなのに……。
あはは、これが夢ならいいのに。
ねえ……「存在する」って何だろう? 僕が外の世界に絶対触れられない以上、その匂いさえも味わえない以上、本当に「存在」しているのは、僕が今いるこの世界だけなのかな……。
そうだとしたら……
君の世界、君の笑い声、君の香り、君の口癖、君の好きだった食べ物、君の泣き声、君の性格、君の弱点、君……それらは初めから存在しなかったのかな? あまりに長い間ここに閉じこめられていたせいで、僕が作り上げた無数の「場合の数」の一つにすぎないのかな? まるであの猿みたいに、存在しない「君」の話をただ書き続けているのかな……そうしなきゃいけないのかな……。
それとも、初めから存在していなかったのは僕だけなんだろうか……僕だけが忘れ去られたのかな……。
そうだとしたら……そうだとしたら……。
「ねえ……あのさ。僕、最近いつも同じ夢を見てるんだ。ドアのない小さな部屋があって、僕はその中に閉じ込められている。どこを見ても白い壁しかなくて。飾りといえば、きらきら光る電灯と、きちんとした机と、やけにふかふかなベッドだけ……。そして僕はそのベッドにずっとぼんやり横たわってるんだ。君を忘れたまま。果てしなく……。」
「寂しい夢だね。」
あ。
涙が一滴、こぼれ落ちた。あたたかく頬と首を伝ってベッドへ落ちる。僕はしばしその涙を見つめる。
「それじゃあ……君という存在は、結局何でもなくなって……あの真っ白い涙の深淵に沈んで……もう二度と帰ってこれなくなったってことなのかな……。だんだん透明になって……この世界に吸収されて……薄く広がって……溶けるように……僕自身に溶け込んで……。」
あ……そうか……君は……。
やがて、涙が一滴、また一滴と落ち始める。ベッドはしっとりと湿ってくる。わからない。ついにわからなくなった。寂しい。これからどうなってしまうんだろう……。ベッドを覆う涙は床へと流れ落ちていく。その姿は溶けていく笑みのようだ。すると涙は満ちていく。満ちていく。部屋いっぱいに広がる。僕は思い出せないほど長い間横たわっていたベッドからふわりと浮かび上がる。僕の涙とともに。壁の境界さえ感じられない。息が詰まりそう。このまま溺れて死んでしまうんだろうか。僕は目を閉じる。そう……まるで真っ暗な深海で、あるいは宇宙の外で、その深淵で……自由に泳いでいるみたい。夢を見ているように。
僕は目を開ける。
「ずっと……君は僕と一緒にこの部屋にいたんだね。いてくれたんだね。ああ……やっと……ついに……。」
ありがとう。そして、ごめんね。僕のことはどうか、忘れてほしい。
ありがとうございました。