女装がバレて婚約破棄されそうです
ナーロッパが舞台です。公爵家の主人公のフランソワは女装して王子を騙した事を理由に王子から婚約破棄を言い渡されるが・・・。スナック感覚ですぐ読める物を目指しました。pixivにも公開しています。
「フランソワーズ、君との婚約を破棄する」
王族や貴族が通う学校の広間で突然王子に婚約破棄を言い渡された。
「フランソワーズ、君は女と偽りこの私を騙した。」
王子は何を言っている・・・?
白銀の髪に端正な容姿ではあるが、いつも眠そうな顔をしてぼーっとしている王子様が、鋭い目でこちらを見ている。
その場に居合わせた複数の生徒達は、何が起こったのか事態を把握出来ないようである。
そう俺は男だ。
王子様の本当の婚約者だった俺の姉は別の相手と駆け落ちをした。
まぁ…恋をすると思考力が下がるっていうしな・・・。
王族との政略結婚が御破算になれば、我が公爵家の立場も悪くなる。失脚を恐れた両親は、俺を女と偽り姉の替え玉とした。時間を稼ぐ為のその場しのぎだったが・・・。
ロングの金髪に化粧をした姿は自分で言うのも何だが様になっている。
外見だけなら、どこからどう見ても深窓の公爵令嬢だろう。
しかし王子は何を言っている?
俺が男であることは既に知っていただろう。
そう、俺が男だということは、学校に入学して、王子と再会した際にあっさりバレたのだ。
「君は姉のフランソワーズではなく弟のフランソワだよね?」
白を基調とした学校の庭園で唐突に、制服に身を包んだ王子に言われたのだ。
「で・・・殿下⁉何をお戯れを?」
ぼーっとしているようで、結構鋭いようだ。王子以外にはバレていないと思う。
「僕にはわかるよ。だって子供の頃からずっと君を見てきたのだから。」
「まぁどっちでもいいけどねー」
王子は飄々と笑っている。
ずっと見てきた!?王子は「人間観察が趣味」とか、そう言うタイプなのか?
ある時学校で、女生徒が授業で使う教材を重そうに運んでいた。
「手伝いますわよ」
俺の中身は男なわけで、力だってある。こういう場面では積極的に人助けしていく。
「フランソワーズ様・・・!い、いえ公爵令嬢様に持って頂くなんて罰が当たります。」
「あら、身分なんて関係ないですわよ。この学校では平等ですわ。」
「あ・・・ありがとうございます!フランソワーズ様は他の身分の高い方とは違いお優しいのですね」
委縮していた女生徒から、笑みがこぼれた。
なるべく人に親切に。
いくら公爵子息とはいえ、女装がバレて最悪廃嫡された時の事を考えて、色んな人と仲良くなって損はない。うん、妃教育なんかも受けているわけだし、紳士淑女向けのマナー講師の道もありだよなぁ。俺は仮に無職になった時の為にも貪欲に学園の色んな授業を受けた。
「君のそういう打算的な所も含めて好きだよー」
廊下で談笑しながら、女生徒と二人で教材を運んでいると、後ろから王子がひょっこり現れた。
「で・・殿下!いつからいらしたのですか!?」
そんな風に言っていたから、てっきり王子は俺が女装していることを容認してくれていると思っていたのに。
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話は婚約破棄された所に戻る。
「フランソワーズ、君は男でない事をどうやって証明する?」
ここは潔く白状するか・・・。
学園の中央の広間、おまけに今俺に「婚約破棄」を突き付けている王子の隣には、ロマンス小説のヒロインみたいな可憐な女生徒までいる。王子は好きな女性が出来て婚約者である俺が邪魔になったか・・・。
いや、彼女も女装男子という可能性も否定出来ないが・・・。
なんだかわからないが、もやもや、怒りが沸いてきたが、冷静に、適当な事を言ってここは時間を稼ごう。
「殿下、男女で明確に違う体の箇所があります。今ここで証明致しましょう。」
「え?」
王子が素っ頓狂な声を出した。変な想像でもしたか?周りの生徒達もどよめいている。
「それは、くびれの有無です。」
「骨盤の大きさを確かめればよいのです。」
「女性は出産の為、男性より骨盤が大きく出来ておりますの。それ故にくびれができやすいのです。」
「これは人間が二足歩行であるが故の性差でして、他の動物では見られませんの。」
まぁこれは性別不明の白骨死体なんかを調べる時の方法だけど・・・
「今ここにいる方々に、私のくびれを確かめて頂ければ明白ですわ。」
堂々とし、話を自分のペースに持っていく。
「・・・しかし一国の王子とはいえ、私が男だなんて、あまりの烏滸の沙汰。付き合っていられません。」
「正直もうどうでも良いです。私は男で構いません。」
「婚約破棄、ありがたくお受けいたします。」
「なっ!?」
「フランソワ・・・!?」
王子が狼狽えている今だ。
この勢いでこの場を退散しようとした矢先、広場に第三者の声が響いた。
「一国の王子とはいえ、公衆の面前でご令嬢に恥をかかせるなど・・・」
「まさに烏滸の沙汰」
一人の男子生徒が会話に割って入ってきたのだ。
「兄上!」
王子から「兄上」と呼ばれた男は、王子とは対照的な漆黒の髪と瞳、王子の朗らかな美形に対し、どこか憂いのある美形だ。
この国の第一王子である。
「それに私は、あなたが女だろうが男だろうが、そんな事は些細なことです。」
そう言って第一王子は俺の手の甲に軽く口付けする。
「弟が婚約破棄をしたなら、私がプロポーズを申し込んでも宜しいのでしょう?」
第一王子様は弟の愚行に呆れ、俺に助け舟を出してくれているのだろうが、こんな端正な顔に見つめられると、勘違いして惚れてしまいそうである。
「ま・・・まってくれ!!」
「僕は・・・」
王子は顔を真っ青にしたかと思うと、今度は顔を真っ赤にし、躊躇いつつも意を決したように叫んだ。
「僕は本当はフランソワーズ、君を愛しているんだ!!」
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結局全ては有耶無耶になった。俺は相変わらず女装したまま、王子との婚約も続けている。
居合わせた生徒達には、演劇の練習だったという事にしたようだ。
澄み切った青空の元、湖畔で王子と二人でボートに乗っている。
岸辺に従者はいるが、会話は聞き取れない距離だ。
ここは王家のプライベートな場所だ。だから今日は俺も、女装はしていない。
日差しを反射して、キラキラとした水面を眺めながら、王子はいつものおっとりとした調子で呟いた。
「辺境の地で、誰にも邪魔されず、君と二人きりの世界で生きる」
「そんなことを夢見てしまった、愚かな男さ」
つまり、わざと騒ぎを起こしたと・・・。
「さすがに王位継承権を剥奪されても、爵位くらいはくれると思ったんだよね」
懲りずに王子は続ける。
王子の傍にいた可憐な女性は、俺に嫉妬して欲しくて当て馬役をお願いしたと・・・。
「アホか・・・」
思わず口に出てしまった。
「殿下の思い通りに上手くいくわけないでしょうが・・・」
頭お花畑か。
「ね、僕なんて尚更、一国の王の器には相応しくないだろう?」
王子が俺の陽に照らされた金色の髪にそっと触れる。
「それに妾腹であるとはいえ、玉座につくべきは聡明な兄上だと思うんだ。」
出自の問題から、王位継承は第一王子よりも第二王子が有力とされている。
恋をすると正常な判断が出来なくなる。ヒトが有性生殖をする生物故の呪縛ともいえる。
王子にこんなアホなことをされて、満更でもないのは、俺の判断力もだだ下がりってことだよな。
俺はやれやれと思っていると、
「だってフランソワ」
「こうでもしないと、君は僕の気持ちを本気と思ってくれないだろう?」
そう言って王子は俺の唇に唇を重ねた。
おわり。