第93話 ダンジョン配信(最下層まで) スライムの声
「よっしゃ、オレのバイクテクを見せてやるよ!!」
沼田君の声がした。
ダンジョンの中をバイクで走り抜けていく。
バイクには配信用のカメラが取り付けられ、ダンジョンを走っている姿がリアルタイムで視聴者に配信されていた。
書き込みが増えていく。
〈うおっ、バイクmブンブンじゃん!〉
〈ダンジョンで、ブンブン配信キターーーー!!〉
〈ダンジョンもいいけど、沼ちゃんはバイクがサイコーですーーーーー!!!〉
「わかってるじゃん。バイクでダンジョンの最下層まで行ってやんよ!!」
エンジン音が響き渡る。
ダンジョンを照らすライト。さらにバイクが唸りを上げていく。
少年はバイクの後ろに乗っていた。
エンジンの音を聞き、少年に宿るあやかしの魂が高揚し始めていた。
しかし、モンスターたちが襲い掛かってくる。
その時、少年の体が動き出してた。あやかしの魂が少年の体を乗っ取ったらしい。
次々と、モンスターたちを倒していった。
その映像が配信されていた。
〈うわー、モンスターってうじゃうじゃいるw〉
〈キモすぎる…〉
〈何で、人間を襲ってくるんだろ?〉
〈縄張りだろ…〉
〈ダンジョンだってさ、世界中にできたんだよな。モンスターの住処だったのかな…〉
〈どうだろー、まあ、たのっしいからいいんじゃね!!〉
その時、沼田君が叫んだ。
「うわーーー、矢が飛んできた~~~~!!」
暗闇の中から無数の矢がバイクに向けて飛んできていた。
スクイ少年がはじき返した。
すべての矢が消滅していった。
「ゲゲッ!?」
モンスターが驚きの声がした。
その隙をつき、バイクはダンジョンを駆け抜けていく。
ずっと、エンジン音が響き渡っていた。
斜面に差し掛かると、バイクの速度はさらに加速していった。
最深部にはまだ道のりがあるようである。
バイクを走らせていると、突然、天井から大量のスライムが落ちてくるのに気づいた。
大きな塊のスライムがバイクを飲み込んでいった。
「うわぁあぁぁぁ!?」
また、沼田君が叫び声を上げた。
スライムにつかまった。
粘液のようなものがバイクを覆いつくしていた。
「ぐび、ぐぶぶぶぶぶぶっ!!(ぐ、ぐるしい…)」
沼田君の声はスライムによってゆがめられていた。
何を言っているのかわからない。
ただ、沼田君の苦しそうな声が聞こえてきた。
〈うわーー、スライムの中!?〉
〈すげー景色だわ…〉
〈水族館のトンネルの中を歩いてるみたい!〉
〈完全に、ところてんw〉
〈ドロドロしてるんじゃねーかw〉
〈ダメだ、ヌルヌルはやだーーーーー!!!〉
バイクはスライムの中に入り込んでいた。
突然、誰かの声が聞こえてきた。それはスライムの声のようだった。
——主様…。逃げてください…
スライムの声が聞こえてきた。
それを聞くと、ふと、少年の頭に青鬼の言葉を思い出していた。以前、青鬼はモンスターはあやかしの変わり果てた姿であると告げていた。ただ、少年はそれを信じたくはなかった。しかし、青鬼の言葉は彼の心にずっと刻まれているようであった。
再び、スライムの声が聞こえてくる。
——主様、どうですか? 私たちはお望みのスライムになれましたでしょうか?
その言葉を聞くと、少年は涙が出そうになっていた。
返事をすることはできなかった。
——主様、逃げてください…
また、その声が聞こえてきた。
スライムはバイクの周りを覆っていた。ただ、スライムは攻撃することがなかった。
スライムの中は安全地帯のようだった。
スライムに包まれた映像が配信される。
ただ、視聴者にはスライムの声は聞こえていないようであった。
困惑した書き込みが増えいく。
〈なんかへばりついてる〜〉
〈全然、抜け出せないじゃん…〉
〈息してますかーーー?〉
〈スライムもバイクの装備だったりしてwなんちゃってwwwww〉
〈え?〉
〈はい?〉
〈全然、つまらないわ。それ…〉
〈あー、ワロエナイw〉
ただ、バイクが走っていた。
「ぐぼぼ、ぐぼぼぼ、ぐびぼぼぼぼ…(ダメだ、捕まってる。逃げられねーー)」
沼田君はスライムに覆われていた。
もがき苦しむ声を上げたが、その声はスライムによってかき消されていた。
しかし、驚くべきことに、スライムに覆われている間はモンスターたちの攻撃も止んでいた。
周囲からはモンスターたちの声が絶えず聞こえてきていた。
「ギィア!?(あいつら何処にいる!?)」
「ギ?(どこだ?)」
「グルグル!?(こっちだったよな!?)」
「ゲェ?(あれ?)」
「ギガガガガガ!!(どこにもいないじゃないか!!)」
モンスターたちは少年の姿を探していた。
映像にモンスターが映し出された。
〈あれ、攻撃なくなったんじゃね!〉
〈モンスターたち、こっちに気が付いてないみたいだな…〉
〈スライムって安全地帯なの?〉
〈いやいや……。そんなことあるんか……〉
〈不思議なこともあるんだな…〉
モンスターたちの攻撃が収まったまま、沼田君はダンジョンをバイクで走り続けていた。
その間、スライムの体が小さくなりだしていた。
バイクを隠しているせいか、スライムの体が削れていくようであった。
〈何だか、音がしないか?〉
〈そうだね、苦しそうな声だよね…〉
〈スライムの声かな?〉
〈いやいや、スライムの中ってしゃべらないだろ〉
〈じゃあ、何だってんだよ……〉
スライムから声が聞こえてきていた。
——主様、どうやらここまでのようです…
その声を聞くと、少年はスライムを見つめた。
スライムは小さくなっていった。
ただ、声のする方向をじっと見ていた。顔がどこにあるのかはわからないが。
——私たちの体が限界に来てしまったようです…。もう少し、ダンジョンを案内をしたかったのですが、どうやら駄目のようです…
スライムの言葉はかすかで小さく、消え去りそうになっていた。
スライムは縮小していた。
既に、てバイクを覆うほどの大きさになった。
もう隠れることはできそうになかった。
——最後まで案内をしたいと思っていたのですが…。ただ、こうして主様と一緒にダンジョンの中にいることができて、私たちは幸せでした…。どうか、セツナという妖を倒してください……
スライムが消えていった。
すると、モンスターたちがバイクに気が付いていた。
こちらに向かってくる。
「ガィエエエアアアア!!!」
〈やばい、見つかったわ…〉
〈いや、スライムがきえたみたいじゃねー〉
〈うわーー逃げろーーー!!〉
スライムが消えていく。
その途端、画面に映るリアルタイムの文字が鮮明になった。
ただ、沼田君からの反応はなかった。
心配していると、彼が泣いていることがわかった。
「オレは感動したわ!! あのスライム、スクイ君のことを知っていたみたいだね!!」
スライムの声が聞こえていたらしい。
少年は困惑しながらも、沼田君の言葉に同意した。
「ああ、そうだね…」
「オレたちはスライムのためにも、セツナというあやかしを倒さなくてはいけないと思ったんだ。オレはスライムに感動したわ。よっしゃ〜! 飛ばしていくぞ~!!!」
その声を聞いて、書き込みが増えていく。
視聴者は喜んでいた。
〈おお、スライム、いなくなったじゃん!!〉
〈やっとか…〉
〈さあ、先に行こうぜ~!!〉
〈がんばれ!!〉
〈ブンブンww〉
〈ブンブンブンブンwwブンブンブンブンブンブンww〉
バイクは下の階層へと向かっていく。
最後、スライムの声がした。
——主様と一緒にダンジョンが作れてよかったです…
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