第61話 屋敷の噂話
大きな檜造りの門を抜けると、日本庭園のような美しい庭が広がっていた。松の木がたくさん植えられ、大きな池があり、石畳の道が屋敷へと続いていた。辺りが暗くなるにつれて、灯篭に一つ一つ火が灯され始めていた。
盗人のように、隠れながら裏道を歩くことにした。
猫又さんが嬉しそうな顔をしていた。
「ねえ、私たち、なんだか盗人みたいじゃない?」
ひそひそと話しながら、彼らは屋敷の裏手を進んでいく。すると、先頭にいる九尾の狐が立ち止まった。彼女が何を感じ取ったのか、少年は警戒しながらもその場に留まっていた。
九尾の狐は不安そうな声が聞こえてくる。
「なんだか、おかしいわ…。この屋敷の中に、あやかし、の気配があるの…」
「そうですね…」
少年が返事をする。
すると、猫又さんが驚いた顔をしていた。
「え…、そんなことあるわけないじゃないですか!! ここは陰陽師の屋敷ですよ!!!」
「黙って。ちょっと待って。誰か来たみたい…」
九尾の狐の少女の声がした。
その途端、屋敷の壁に三人は身を潜めていた。
ドアが開く音がする。
その時、屋敷の裏手のドアが開き、その中から女性が飛び出してきた。
彼女は顔色を失っている様子で、急いで逆方向に走り出していた。
「何かあったんですかね〜」
猫又さんが囁いていた。
それを聞いて、九尾の狐は思案していた。
「そうね。妖力もおかしいし…。一度、私があの女性に確認してくるわ。ちょっと、あなたたちはここで待ってて…」
そう言うと、九尾の狐が立ち上がっていた。
彼女はくるくると回転し、屋敷から出てきた女性と同じ服装に変身した。
「どうかしら?」
変装を完成させた九尾の狐が尋ねていた。
猫又さんは驚嘆している。
「うわ〜すごいです。そんなことができるんですね〜!」
「ふふふ、ありがとう。じゃあ、私はあの子に確認しに行くわ。待っててね」
九尾の狐が言っていた。
九尾の狐は屋敷から出てきた女性を追いかけていった。
2人はその姿を見つめていた。
その時、少年は屋敷の2階の窓に目を向ける。
屋敷の中からがこちらを見つめているような感覚に襲われていた。
誰かに見られているような不思議な感覚がしていた。
しかし、そこに人の姿は見えなかった。
◇ ◇ ◇
屋敷の中から出てきた女性を追いかけるため、九尾の狐は服装を変えて、女性が走っていった方向に向かっていた。しばらくすると、女性の後姿が見えてきていた。ゆっくりと近づくと、九尾の狐は彼女に声をかけることにした。
「あの、待ってください。待ってください…」
何度となく、九尾の狐が呼びかけていた。
すると、そのことに気が付いたらしく、女性は立ち止まっていた。
女性は振り返っていた。
たた、不思議そうに九尾の狐の方を見つめていた。
「あなた、どなたかしら? あっ、もしかして、調理場に入った子かしら?」
女性の声がした。
「はい…、少し前、働かせて頂くことになりました」
「そうなのね。ただ、調理場は大変でしょ? だって、頭首様、おかしくなってしまったからね…。ごめんなさい。私、これから法師様を呼びに行くんですよ…」
「あの、何があったんですか?」
「頭首様、食べることと寝ることしかしなくなって、牛鬼のような姿に変わってしまったの。やだ、まだ、あなたは知らなかったのね…。これは秘密だからね。誰にも話してはダメよ。急いで、法師様に頭首様を直してもらわないと…。きっと、お嬢様の中にあるあやかしの魂のせいでしょうけど…」
「あの、お嬢様は何処にいるんですか?」
「変なことを聞くわね。何でそんなことが知りたいの?」
「あの、料理のことで……」
「気にしなくていいわよ。だって、私たち、お嬢様は騙していたんですよ。法師様がいなかったら、今頃、どうなっていたか…。もう死んでしまってもいいんじゃないかしら。もう、気にしないでいいわよ。じゃあ、私は法師様のところに行くからね」
「はい、わかりました…」
「さっきの話、誰にも話してはダメよ。そうそう、噂話だとでも思ってね~」
そう言うと、女性がいなくなった。
九尾の狐は女性の後姿をじっと見つめていた。
ただ、女性が向かった方向から、あやかしの微かな妖力が感じられていた。
しかし、女性自身はそのことに気づいていない様子であった。
もしかすると、法師があやかしである可能性もあるのかな。いや、法師を操る何者かがいるのかもしれないな、と九尾の狐は考え込んでいた。しかし、どのような行動を取るべきかを決めかねていた。
一旦、九尾の狐は少年と猫又さんの元に戻ることにした。
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