第57話 決意
「神になろうなどと、不届き者が出てきたのじゃ。そいつらを抑えられるのはお前の中にいるあやかしだけということ、さあ、あいつらを止めに行くのじゃ!!」
エンマ様が少年に命令をしていた。
その後、少年は椅子から立ち上がれなかった。まったく、両親があやかしと関わりがあるなんて思ってもいなかった。そのことに気が付いていなかった。自分が何も知らなかったことを知ったのである。ふと、彼は顔を上げていた。既に、エンマ様の姿はなくなっていた。
「どうしたんにゃ?」
黒猫の声がした。
「あの、エンマ様は?」
「気が付いてなかったのか? エンマ様はさっき帰ったにゃ」
「ああ、そうですね…」
少年は返事をしていた。
少年は落ち着かなかった。さっき、エンマ様に両親とあやかしの関係について聞いておけばよかった。突然のことで冷静に考えることができなかった。いや、エンマ様だって詳しいことまでは知らないだろう。
しばらくの間、少年は椅子に座っていた。
夜が白々と明けようとしていた。
既に、あやかしたちが眠りにつき、人々が目を覚まそうとしていた。
その時、玄関のドアが開いていた。
ふらふらになった母親が家に戻ってきていた。少年は眠そうな母親をベッドまで運んでいくことににした。酒に酔っているのかと思ったが、どうやらあやかしの妖力のせいらしい。人間の体には悪影響があるのかもしれない。母親を布団に寝かせることにした。疲れた顔の母親が少年の顔を見つめていた。
「すーちゃん、ありがとうね…」
「疲れてるんでしょ。ゆっくり休んでよ。あとはこっちでやるからさ…」
スクイ少年は返事をしていた。
それを聞いて、母親は目をつむっていた。
少年は部屋を出ると、部屋のドアを閉めることにした。ただ、閉めたドアの前で立ち尽くしていた。母親はあやかしのことを知っていたらしい。そのことが頭から離れることはなかった。
いつから、あやかしの存在に気が付いたのだろうか…。
そう思うと、1つのことを思い出していた。確か、社の下にあった黒い石を壊した時、しばらくの間、意識を失っていたことがあった。あの時、両親はあやかしのことに気が付いたのではないだろうか。
ずっと、少年は両親に隠れてダンジョンを作っていると思っていた。しかし、そんなことはなかった。2人はあやかしとかかわっていた。ダンジョンの話だって、両親はどこかで聞いたことがあったかもしれない。
そんなことを考えていたら、少年は眠ることができなくなっていた。明日は学校に行こうと思っていたのに。
窓から朝の陽射しが差し込んでくる。すると、少年はうつらうつらとしていた。
もうすぐ朝になる。
その時、頭の中で沼田君の声が聞こえてきていた。
沼田君は少年がヒーローであると言っていた。
「スクイ君は大きなカメのあやかしを倒したんだよ。本当に凄かったんだ!! 彼はヒーローなんだよ!!!」
その声を聴いて、少年は立ち尽くしていた。
ヒーローであると言われて、少年は否定したい気持ちになっていた。顔を左右に振る。ぼくはヒーローではない。だって、家族のことすら知らなかったのに。ヒーローになれるのだろうか。ぼくは何もできてない。やめてほしい、ぼくをヒーローなんて呼ばないでくれ、少年はそう思っていた。
その時、誰かの声が聞こえてきた。
「ねえ、朝よ、起きなさい…」
その声を聴いて、少年は目を覚ました。
目の前に母親の顔があった。
ずっと、ベッドの横で少年の顔を見つめていた。
「うわっ!!」
「ちょっと、何でそんなに驚くのよ。やっと、元気になったみたいね。今日から学校に行けそうなの?」
「ああ、うん、大丈夫そう。学校には行けそうだよ…」
「良かったわね。ずっと、起き上がれなかったから心配しちゃったわよ」
「ごめん…」
「別に、謝ることなんてないの。だって、あなたは私の息子でしょ」
「そうだね……」
「さあ、早く起きなさい。学校に遅れちゃうわよ」
母親が部屋を出ていこうとした。
ベッドから降りると、スクイ少年は台所に向かうことにした。
少年は台所の椅子に座っていた。
母親はいつもと変わらない。料理をしながら、楽しそうに鼻歌をうたっていた。テレビのニュースではダンジョンの話をしているようであったが、少年はどことなく気まずい感じがしていたせいで、テレビの内容を確認することができなかった。
朝食を食べると、少年は学校に行く準備をしていた。
制服に着替える。
少年は玄関のドアを開けようとした。
すると、母親の声が聞こえてきた。
「いってらっしゃーい、気を付けていきなさいね!」
母親が手を振っていた。
手を振りながら、少年は独り言をつぶやいていた。
「母さん、ぼくがヒーローになって、この世界を元に戻してみせるからね!!」
それは小さな声だった。きっと、母親には聞こえてなかっただろう。
少年は決意をしていた。
学校に向かって走り出した。少年は本当のヒーローになろうとしていた。
その時、町にはおかしな妖気が漂っていた。
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