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第36話 ミコトの心

 ダンジョンの話題が出ると、少年は困惑した様子を見せた。生徒会長がなぜダンジョンへ行こうと思ったのかと、少年は考え込んだ。おそらく、九尾の狐のことに関係があるのだろう。



「あの、すみません。ちょっと、生徒会長に聞きたいことがあります…」


 少年は生徒会長に声をかけた。

 すると、ミコト生徒会長が問いかけた。


「何だい? 困ったことがあるなら、話をしてくれてもいいんだよ。何かあったのかい?」


 彼女の目は期待に輝いていた。

 やはり、生徒会長は誰かに頼られることを望んでいるようだった。



「ダンジョン配信ってどう思いますか?」

 

「え、ダンジョン配信?」


「そうです。今度、友人と一緒にダンジョン配信をしようという話があるんです」


「ああ、なるほどね。そういうことか。最近、学校でも話を聞くし、生徒会にも相談者が来ていた気がするね」



 すると、ミコト生徒会長は困ったような顔をしていた。

 彼女は少年に視線を向けていた。



「ダンジョン配信か…。君も、それに行くことになっているの?」


「ええ、そうです…」


「じゃあ、私も付いていこうかな…」


「え、付いていく?」


「そうだよ!」



 生徒会長は笑っていた。


 さっきから生徒会長がダンジョンに行こうとしていた。

 どうして行きたいのか。 


 ただ、九尾の狐の話はしたくなかった。

 


「じゃあ、行く日が決まったら教えてほしい。私はそろそろ戻ることにするよ。怒られてしまうからね!!」



 そう言うと、生徒会長は走り出してしまった。

 少年は生徒会長を見つめていた。

 



  ◇  ◇  ◇




 一週間が過ぎた朝のことである。


 朝日が地平線をオレンジ色に染め上げる中、少年は自宅の窓のカーテンを開けた。

 時計の針は朝5時を指していた。


 今日、ダンジョン配信に参加する日になっていた。


 隣の家からは、朝食の準備をしている音が聞こえてきた。給湯器がお湯になった合図のメロディが響いている。


 母親はまだスナックから帰ってきていない。

 泥酔していなければいいけど…、と、少年は思った。


 彼は駅に向かう道を歩いていた。

 昨日、生徒会長にはダンジョンのことを連絡しておいたが、何となく嫌な予感がしていた。


 その時、スクイを呼び止める声がした。


 野球部員で同級生の寛太が走ってきた。彼は身軽で、野球ではショートのポジションを守っていた。



「やあ、今日はダンジョンに付き合ってくれるんだっけ?」

 

 寛太の声がした。


「ああ、翔平から頼まれたからな……」


「断ったっていいんだぜ。また、どうせ何も起きやしないんだからさ」


 寛太は笑っていた。

 スクイ少年は黙ってその様子を見ていた。


 ただ、少年はダンジョンで何が起きているのかをもっと知りたいと思っていた。


「ただ、助っ人を頼むならさ、スクイ君なのかね。中学校で野球部の部員じゃないんだろ? スクイに頼むなんて不思議だよ……」


「さあ、何か理由があるんだろうね……」


「翔平はあまり自分のことを話さないから、少数精鋭を好むのかもしれないね」


「へえ、そうなんだ……」


 と、少年は返した。

 寛太は少年の方を見つめていた。


「そういえば、翔平とお前は同じ小学校だったよな。スクイ君に助っ人を頼んだのも、そのせいかもな」


「確かに、そうかもしれないね…」


「あまり、興味がないみたいだな?」


 寛太は笑っていた。

 それを聞いて、少年は曖昧に答えた。


「まあ、いろいろあるからね」

 

「何だよ、それ。意味が分からないな…」

 

 寛太は首を傾げた。


 話をそらすように、少年はテレビの話をすることにした。

 ずっと、2人は何気ない話を続けていた。


 段々、駅前に近くなると、翔平とその友人たちの姿が見えていた。

 そこには生徒会長の姿があった。




  ◇  ◇  ◇



 少年が生徒会長に声をかけると、彼女は驚いた表情を浮かべた。

 何かに落ち込んでいるようだった。


 少年が、


「何かあったんですか?」


 と尋ねてみた。


 しかし、彼女は返事をしなかった。

 困惑した様子である。

 


「ごめん、今は話せないんだ…」



 そう言うと、生徒会長は昨日の出来事を思い返していた。

 昨夜、彼女は家族から厳しい叱責を受け、呼び出されていたのだった。




 話があると、父親が居間でミコトを呼んでいた。

 襖を開けると、家族五人がその場にいた。


 父は陰陽師の頭首であり、その真ん中に座っていた。


「ミコト、お前は陰陽師としての仕事を怠けているみたいだな!」


 父親の厳しい声が響いた。


 ミコトはその言葉に戸惑いを隠せなかった。


 自分は何をしたというのだろうか。

 家族に迷惑をかけず、問題を起こさないようにと、必死に生きてきたつもりだった。


 どうして、みんなわがままなんだろうとミコトは心の中で思う。

 しかし、そんなことを口に出しても、誰も理解してはくれないだろう。



 それでもミコトは、苦笑いを浮かべていた。



 相手に合わせる。




 それが処世術であると思う。




 ミコトは困った顔をしていた。



「ごめんなさい、最近、学校での生徒会の仕事が忙しくて……」





 そう言うと、父親が近づいてきていた。




「そんな風に言うが、お前、あやかしとかかわりがあるんじゃないだろうな。天狗からもそんな連絡が来ているんだぞ」




 それでも、ミコトは笑っていた。



 そして思う。

 いったい、いつ、どこで、私があやかしとかかわったのかと。

 頭の中には疑問しか湧いてこない。




 こんなバカを相手にしてはだめだ。

 いや、違う。

 そんなことを言ったら、私は母親と同じになってしまう。




 私は違う。

 私は違うんだ。




 ミコトは下を向いていた。

 頭が壊れそうで。





 その時、地面が揺れているような気がした。


 おかしな感覚がしている。

 幼稚園の頃、同じような感覚に襲われたことがある。




 気が付くと、ヤンチャをしていた男の子が傷だらけになって倒れていた。

 あの時のような感情が湧き上がってきていた。




 気が付くと、ミコトの心が停止したように動かなくなっていた。

 もう一つの心でもあるように。





 突然、彼女の手が4本になる。

 父親以外の4人の生徒たちの首を掴んでいた。




 家族を持ち上げていた。




「お前たちの首を握りつぶすことなんて簡単なんだぞ……」




 突然、重々しい声が聞こえてきていた。

 ミコトの口から発せられていた。





 返事ができない。





 気が付くと、家族の目がとろんとしていた。

 父親だけが震えていた。





「何、何、いったい何が起きているの!?」




 ミコトの声が聞こえていた。

 そのまま、ミコトは意識を失っていた。



 操られているように、家族たちは自室に戻っていった。


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