第34話 修行
「コメント欄はオフになっているみたいです。きっと、視聴者からやらせとクレームのようなことが書かれたせいかと思います」
動画の配信者がスライムと戦っていた。
その映像を見つめていた。
ダンジョン配信を見ながら、金槌坊たちがそんな話をしていた。
真剣な表情で、黒猫も動画に目を凝らしていた。一方で、少年は椅子に腰掛けているだけだった。
ダンジョンの動画配信を見ていると、彼は自分の大切な居場所を失ってしまったような、深い寂しさを感じていた。
しかし、その感情を言葉にすることはできなかった。
その間、楽しそうな金槌坊たちの声が聞こえてきていた。
◇ ◇ ◇
次の日、生徒会長は学校を休んでいた。
副会長もいない。
何かあったのかと、少年は猫又さんに生徒会長のことを訊ねてみることにした。
猫又さんが言う。
「え~、生徒会長? ああ、天狗様の所にいるみたいよ~」
「何かあったんですか?」
「昨日、ダンジョンで九尾のあやかしが現れたんでしょ? 安全のため、天狗様に保護されているってことみたい。あー、私も天狗様に保護されたいな~」
猫又さんは忙しそうに頭をかいていた。生徒会長が不在で、彼女はずっと慌ただしい様子だった。
生徒会室に相談に来た生徒が入ってくると、少年はそそくさと部屋を出た。廊下を歩きながら、休み時間の生徒たちの楽しそうな声が聞こえてきた。
その時、黒猫が彼に話しかけた。
「天狗たちも、あの子のことを心配はしているみたいだにゃ~」
「そうですね…」
少年は返事をした。
黒猫は透明になり、少年の肩に静かに乗った。
「少年、暇になったんだにゃ?」
「まあ、そうですね」
「ちょうど良い、妖力の使い方を学ぶことにしようか…」
「え、妖力の使い方ですか?」
「そうにゃ。君はスポーツしたことがあるにゃ?」
「野球をしてましたけど…」
「じゃあ、野球にするにゃ!!」
「あの、修行って何をするんですか?」
「すぐにわかるにゃ」
黒猫が微笑んでいた。
その瞬間、少年は友人の翔平から野球部の助っ人を頼まれたことを思い出した。
翔平にはいつも世話になっているので、断るわけにはいかないと考えていた。
教室のドアを開け、翔平に声をかけることにした。
ただ、特訓とは何だろうか…。
◇ ◇ ◇
グラウンドには野球部の生徒たちが集まり、夏の名残りの暑さが漂っていた。
少年は野球グローブをバンバンと叩きながら、小学生の頃の野球の動きを体が覚えていることに気づいた。ボールを握ると、反射的に投げ動作をしようとしたが、体が異様に重かった。その原因は黒猫の呪術だった。
黒猫は少年のユニフォーム、グラブ、シューズ、バットに呪術をかけており、妖力を使わなければ道具は思うように動かなかった。力任せには動けず、妖力がないと少年の体は重く、普段通りに野球をすることができなかった。
そんな中、野球部の翔平の声が遠くから聞こえてきた。
「おいおい、スクイ君、どうした。そんなへっぴり腰じゃ、ボール、取れないぞ~」
「わかってるって!!」
クソっと思い、最大限の妖力を放出してみることにした。
やっと、体を自由に動かすことができた。
翔平の声が聞こえた。
「やっぱり、うまいな!」
「当たり前だよ。小さい頃からずっと野球をやっているんだからさ!」
少年はグラウンドにパタリと倒れ込んでいた。
数分後、妖力が尽きた。
土の匂いが鼻をつき、懐かしさが心を満たした。
ダンジョン作りに明け暮れていたが、この感覚も悪くないと思った。
ふと、ダンジョンの中に野球場を作ることを思いつく。
また、少年は立ち上がろうとした。
日暮れまで、少年は野球のボールを追いかけ続けた。
グラウンドには、ボールを追う少年の姿があった。
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