第32話 九尾の狐
目の前に立つ女性は、強力な妖力を放っていた。
徐々に自分の意志とは無関係に、その女性の魅力に引き込まれていくのを感じた。
女性は、優れた妖力で少年に命令を下していた。
「あのー、あなたにお願いがあります。いま、ミコトという女性を探しています。彼女をここに連れてきてくれませんか?」
女性の声がした。
「はい、わかりました…」
少年の声が聞こえてきた。
少年は意識を失っているかのようであった。
ただ、命令には従順に従っていた。
スライムを追いかけるミコト生徒会長の前に、彼は立ちはだかった。
突如、生徒会長の手を掴んだ。
少年の表情は変わらなかった。
感情を欠いた音声読み上げソフトのような声が彼の口から聞こえていた。
「あの方が、あなたをお待ちしております。さあ、まいりましょう……」
少年の声がした。
それを聞いて、生徒会長は驚いた顔をしていた。
彼は生徒会長の手を掴んでいた。
「待って、スクイ君、あなたはいったいどうしたの?」
しかし、少年は返事をしなかった。
自分の意志を失ってしまったため、生徒会長との会話ができなかった。
その様子を目にしたとき、生徒会長を飛び越えて、黒猫が少年の肩に静かに降り立った。
黒猫はじっと少年の顔を見つめていた。
黒猫が少年に声をかけていた。
「少年、どうしたにゃ? おや、誰かに魅了されてしまったのかにゃ? ああ、仕方がない、ぼくが治してあげよう…」
黒猫が妖力を手に集めていた。
その力を使って、黒猫は少年に猫パンチをくらわした。
何かが弾けるような音がした。
段々、少年は意識を取り戻していた。
その時、女性の声がした。
「あらあら、私の魅了が解けてしまったみたいですね…」
そこには先ほどの女性が立っていた。
女性は笑っていた。
その姿を見ると、黒猫が彼女を睨みつけた。
「あなたは誰にゃ?」
「さあ、誰でしょうね~」
「その笑い声、聞いたことがある気がするにゃ。もしかしたら、九尾の使いのものではないか?」
「さあ、何のことかしらね~」
「以前、お前に似たようなやつを見たことがあってな。藤原得子とでもいっただろうか。どこかの上皇をそそのかしていたという話を聞いたことがある……」
「おやおや、私のことをご存じの方もいられたんですね~」
「やっぱり、そうだったんだにゃ…」
「そうです。私は九尾様からの指示でここに来たのです。そこにいる女性を連れて行かなければならないのです。やっと、私は自由を手に入れることができるんですから…」
そう言うと、まるで平安時代の装束をまとったかのように姿を変えていた。
彼女は藤原得子のようであった。
九尾の狐との強い絆を持っているとされるが、藤原得子はその関係を従属的なものだと感じていた。
九尾の狐からの自立を望み、そのために代わりとなる存在を探していた。
それが、ミコト生徒会長であったらしい。
「私の自由のため、その女を渡してください!」
藤原得子がそう言った。
その時、ダンジョンの奥の方から足音が聞こえてきた。
それはとても冷たい声であった。
「ちょっと、自由って何のことかしら? 私はね、あなたが願ったから力を貸してあげただけ……」
1人の女性の声が聞こえてきていた。
絶世の美女がいた。
そこには九尾の女性が立っていた。
「ああ、九尾様、どうしてこんなところに…。どうか、どうか、九尾様、私を自由にしてくれませんか……」
九尾の姿を見ると、藤原得子は困惑していた。
その場に跪いていた。
藤原得子は祈りを捧げていた。
その姿を見て、九尾の狐の冷たい声が聞こえてきた。
「別に、あなたは自由に生きていいのよ。ただ、私の力がなくなったら、あなたは生きていけるのでしょうかね…」
「それでは困るんです。ああ、どうか助けてください……」
「もう、変なことは言わないで。ミコトちゃんが戸惑うじゃない。ただ、私は力を与えているだけ、後のことなんて知らないわよ」
そう言うと、九尾の狐が生徒会長に向かって歩みを進めていた。
その様子を見て、黒猫が九尾の女性に声を掛けた。
黒猫は掛かるかのような構えだった。
「待て、お前、九尾にゃのか!?」
「まあ、そうでしょうね……」
「まったく、面倒な奴が出てきたものにゃ…」
ふふふふふふふふふっふふふふっ
九尾の狐が笑う。
九尾のキツネの妖力がダンジョンを満たしていた。
「ねえ、ミコトさん、私はあなたに力を与えたいのです。あなたからはとても強い力を感じるわ。あなただったら、妲己、華陽夫人、玉藻の前、いや、藤原得子のように力を得ることができるはず、どうかしら? あなたの力であれば、何でも望むものになれるのですよ。ただ、面倒な相手がいるみたいですし、返事は次の機会にしましょうかね…。私はいつでもお待ちしておりますよ」
そう言うと、九尾の狐はミコト生徒会長を見つめていた。
ダンジョンの闇の中に消えていった。
妖気は消えていく。
その時、副会長が走ってきた。
「生徒会長~、大丈夫ですか!? あれ、いま、綺麗な女性がいませんでした? あれれ~?????」
副会長はダンジョン内をライトで照らしていた。
美女を探していた。
その光景を見た黒猫は、呆れた表情でヤレヤレという顔をしていた。
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