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第4寮の呪い

作者: あかさたな

 ヂャブヂャ・ヂュピターは寮の前で一人、頭を抱えていた。

 ここ、東ロットル女子高等学校はそれなりの学校だ。それなりの成績、それなりの頭脳を持った女子たちが集まってくる。もちろんそれなりに有名大学へ進学するものもいる。

 そんな学校だが、寮が特に有名だった。在学生はとても多く、その全員が寮に入ることになるので当然寮の数はとても多い。なんでも10棟もあるらしい。その中でも今からヂャブヂャが入ることになる、この第4棟は不運をもたらすものとして有名だった。第4棟の呪いと呼ばれている。

 入った一週間後に首をつって死んだとか、通り魔に殺されたなんてことはザラにある。隕石が頭をぶち抜いたなんてことすらあった。人によっては第4棟に選ばれただけで退学するものもいる。

 そんな棟さっさと壊せばいいと思うのだが、経費の問題なのだろうか、そんな話は一度も聞いたことはない。それに、死者もそこまで多くない。せいぜい2、3人だ。いや、普通に考えると多いか。だが一つの棟に200人も住んでいるのだ。百分の一と考えると...多いか。

 そんなことを考えてもしょうがない。とりあえず寮に入ることにしよう。外から見ると、白色に塗装された壁と、レンガの屋根が夕焼けに映え、素晴らしい外観だ。

 内装もなんか花が置いてあっていい感じだ。なんか壁も白くて清潔感がある。

「えーっと部屋は...203か」

 転送機に乗り込み、2と掘られたボタンを押した。一瞬で二階に上がる。それにしてもやはり便利だ。転送範囲が狭い以外は最高の魔道具だろう。早いとこ他の町にもいけるようにならないものだろうか。転送屋は高すぎる。

 なんやかんやでこれからの我が家についた。最初なので鍵魔法を設定する。鍵魔法は大事だ。同時に結界も張れるんだから、格納魔法よりも早く覚えるべきだと思うのだが。

 いや、小さいころは鍵は親が開けるんだからいらないのか。それより荷物を持たないで済む格納魔法の方が大事か。

 ドアを開ける。中は結構広い。風呂だってあるし、冷蔵庫だってある。魔道具の効果が切れれば予備を貸し出してくれるらしい。かなり良心的だ。

 壁はやはり白かった。白がベースなのだろう。

 まずは格納魔法から家具を取り出す。自分は強化系統の魔法は使えないので慎重におろす場所を見定めた。これらがひと段落つくと、ソファに座る。

「ふう」

 そう声が漏れた。とりあえず親にもらったコーヒーでも淹れよう。どちらかというと紅茶の方が好きだが、親がコーヒー派のせいでずっと言いそびれてしまった。

 ポットに水を注ぎ、取っ手の下についたボタンを押す。しかし湯気が出てこない。

「あれ、おかしいな」

 もう一度ボタンを押す。しかし動かない。とにかく連打しまくってみる。しかし動かない。

「効果切れか、明日魔道具屋で魔法かけなおしてもらわないと」

 しょうがないので水をコップに注ぎ、飲んだ。

 あ、そういえば明日はマリーと会うんだったな。マリーとは中学卒業以来一度も会っていない。久しぶりに楽しみだ。最近は親しくもない親戚の集まりに顔を出し、隅でひたすら本を読むことになってしまった。

 そんなことを考えながらソファに横になった。魔法学の予習しないとなとか、防衛騎士コースの宿題ってなにかあったかななんてことを考えているうちにうつらうつらし、半目開きで白目をむいていた。

「すみません、通信番号29875109のヂャブヂャ様ですか?」

 その言葉に一気に飛び起きる。心臓がものすごい勢いで跳ねているのが分かった。これだから通信屋は嫌だ。もうちょっと小さな声で話せないのか。

「はいそうですが」

 左胸を抑えながらそう言った。

「通信番号29869825のマリー様から通信です。今お時間よろしいですか?」

 さっきは驚いたせいで気がつかなかったが、結構いい声をした男だ。

「いいですよ」

「やっほー、マリーだよ。明日の待ち合わせ時間正午だったんだけどさ、なんか高校入学に関することでいろいろ手続きがあるらしくて、午後一時にしていい?」

「いいよ」

「ごめんね、それじゃまた明日」

「はい通信を切らせていただきます」

 男がいい声でそう言った。



 次の日、マリーとの待ち合わせ場所である喫茶店の一席に座っていた。紅茶を口に運び、左手につけた腕時計を見る。午後一時5分前。少し早かった。あ、ポット持ってくるの忘れた。まあ明日日曜日なんだし、明日行けばいいか。

「ごめーん、待った?」

 そういってマリーが手を前で合わせながら言った。顔を時計から上げる。久々に見るマリーは大人びて見えた。一か月程度あっていないだけなのに、これが成長期ってことだろうか。

「全然待ってないよ。というかまだ集合時間より早いしね」

 そういって一気に残った紅茶を飲み干した。

「おお、いい飲みっぷり」

 カップを机に戻す。そうしてまじまじとマリーの顔を見た。やはり整った顔をしている。顔は小さく、まん丸な目は人懐っこそうだ。真っ白なワンピースがとてもよく似合っていた。

「あれ、また身長伸びた?」

 そういってマリーがいたずらっぽく笑う。

「どういう意味よ」

 そういって顔を膨らませると、マリーがさらに笑った。その様子を見てため息をつく。

「それじゃ、行こうか」

「おー」


「まずは昼ご飯だね」

「結構遅いけど」

 そう言ってあたりを見渡す。相変わらず活気があっていい通りだ。魔道具屋を見つけ、ポットのことを思い出して憂鬱になった。

 レストランはマリーが予約してくれたとのことだ。

「ここ左」

 そういって道を曲がる。すると次の曲がり角にマリーがいた。それも仰向けに倒れている。

「へ?」

 すぐに首を右に曲げた。マリーは楽しそうに歩いている。どういうことだ? マリーがなぜ二人いる?

 もう一度倒れている方のマリーを見る。服は真っ白なワンピース。今横にいるマリーと同じだ。

 これが第4棟の呪いとかいうやつだろうか。いや、それなら倒れているのは私のはず。ならこれは全く関係ない誰かからの攻撃? 今私達は攻撃を受けているのか?

 すぐにマリーの腕を掴んだ。マリーが不思議そうに顔を向ける。

「どうしたの?」

 そう言われてもひきつった笑いしかでなかった。

 防衛騎士心得その十三。わからないものには絶対に一人では近づかない。

「ねえ、ちょっと行く道変えない?」

「ええ、予約送れちゃうよ」

「いいから!」

 思わず大きな声を出していた。マリーは肩を震わせるが、私の顔からただならぬものを感じたらしい。体をクルリと反転させた。

「万引きだ! 誰か捕まえてくれ!」

 そう声がした。男が鬼気迫る表情でこっちに向かって走ってくる。早い。強化魔法でも使っているのだろうか。マリーは恐怖で体が動かないらしい。棒立ちのまま、男の進行方向を塞いだ。

 マズイ。そう考える暇もなくマリーは跳ねのけられた。そのまま次の曲がり角に落ち、仰向けに倒れた。

 男の肩を掴もうとし、手を伸ばしたが男のスピードに跳ねのけられた。他の正義感の強い人たちも立ちふさがったが、男にやはり跳ねのけられていた。そんなことを見ている場合ではない。すぐにマリーに駆け寄る。

「おい、マリー、大丈夫か!」

「うん、な、なんとか...」

 そういって手を地面につき、立ち上がろうとする。

「大丈夫ですか?」

 そういって男が近寄り、手を差し伸べた。。彫りが深く、切れ長の目。それに背が高い。モデル体型というやつだ。

「は、はい」

 そういってマリーはその手を掴む。男はそのまま引き上げるようにしてマリーを立たせた。

「おい、あんちゃん。あんたのおかげでさっきの万引き野郎が捕まったよ。あんがとな」

 そういってぶくぶくと太った丸っこい男が歩いてきた。

「いえいえ、たまたま戦闘できる魔法を覚えていただけですから」

 そういって手を顔の前で振った。そうして体を後ろに向ける。

「あ、あの! お名前聞いていいですか?」

 マリーがそう言った。完全に乙女モードだ。マリーがそう言うと男は首を捻った。

「ドラーです」

「ドラーさん、通信番号聞いてもいいですか? お礼したくて...」

「別にいいけど、お礼なんていらないよ」

 そう言ったところでヂャブヂャは二人のもとを離れた。さすがにそのまま近くに居続けるのは野暮だろう。問題は...

 さっきまでマリーが倒れていた曲がり角を見る。もうマリーはいなかった。

 つまりこれは、私は未来を見ていたってことか? しかもマリーの反応を見るに、マリーにはアレが見えていなかった。

 私の幻覚魔法が勝手に働いたってこと? いやそんなわけない。幻覚魔法で未来を予知できるなんてことができるはずない。

 第4棟の呪いだったら私が吹き飛んでいたはず。だとすれば何? これは。

「...ヂャ、ヂャブヂャ、早く行こ」

 マリーがいつの間にか後ろに立っていた。男との会話が終わったらしい。

「ああ、そうだね」

 しかしそう答えたヂャブヂャは上の空だった。


 マリーの予約したレストランはとてもおいしかった。特にハンバーグは肉汁が染み出し、肉を食っているという実感が湧いてとてもよかった。メニューを見ると一番人気らしい。

 マリーはずっとドラーの話をしていた。そういえば前にもこんなことがあったな。あの時はフラれたマリーをずっと慰めていた。それも3日ぐらい。さすがに気が滅入ったものだ。

 しかしこんなに楽しそうなマリーは久しぶりだ。最近は受験で失敗したり、おばあちゃんが死んだとかでずっと凹んでいた。会っていない一か月の間に立ち直ったのもあるのだろうが。

 さっきの曲がり角の事を言うべきだろうか。今の楽しい雰囲気に水を差すことになるが、もしかしたら大事になるかもしれない。やはり言うべきだろう。

「ねえ、少し話があるんだけど」

 マリーにさっき未来を見たことを告げ、話をした。マリーは最初は驚いたり、怯えたりしていたが、そこまでのことではないと判断したのか、途中から普通にハンバーグを食べていた。

「で、どう思う?」

 そう聞くとマリーはナイフとフォークを置いた。

「うーん。先天性じゃないの? 未来関係の魔法が胎動魔法で、それがなにかがトリガーとなって表れた」

「やっぱそうなのかな」

「それ以外考えられないよ。とりあえず使用魔法登録しといたらいいんじゃない?」

「だよねえ」



 次の日、ヂャブヂャは病院に行くべく外に出た。転送屋を使うかどうか悩んだが、節約しようということで歩いていくことにする。

 外に出て伸びをする。時計を見ると午前9時だ。最近あんまり運動していなかったし、少し走っていこうか。そう考えて足を速めた。


 それにしてもなぜ病院で魔法の鑑定が行われるのだろうか。胎動魔法を持っていた場合に便利だからなのだろうが、どうも納得がいかない。

 生まれた赤ちゃんはすぐに魔法の鑑定が行われ、胎動魔法があるかどうかを見られる。

 爆発する魔法を覚えた状態で生まれた赤ちゃんが両親を爆破したという事件があり、それから始まっているらしい。

 たまに胎動魔法がある状態で生まれているのに、魔法鑑定で見破れないことがある。それはまだ表面化していないだけで、なにかがトリガーとなって出てくるわけだ。今回の私はこれの鑑定を受ける。

「6番でお待ちの方、第2鑑定室にお入りください」

 私だ。席を立つ。まわりにはこどもが鑑定を受け終わるのを待つ親やその家族が多かった。


「えっと、結論からいってあなたは未来関係の魔法を覚えていません」

 そう鑑定士が言った。かなり歳をとっており、真っ白なひげを蓄えていた。頬骨が出ていて、栄養を取っているのか心配になる。胸についた名札によると、ラルというらしい。

「でも私は見たんです。確かに未来を」

 そういってラルに起こった出来事を話した。ラルは話を頷きながら聞き、話が終わったところで口を開いた。

「だとしたらおかしな話です。未来を見たということは、あなたに対する攻撃ではない。あなたに未来を見せることが条件の魔法ということならあり得ますが」

 私が未来を見るという条件。なら万引き犯か? いや違う。私が未来を見てアイツになんの利益があるんだ。今回の事件でもっとも利益があった人物,,,

 マリー?

 ラルは私が黙っているだけなので、しびれをきらしてまた口を開いた。

「とにかく、防衛騎士に連絡してみてはいかがでしょうか。次の方がいるのでそろそろ...」

「あ、すみません、そうですよね。ありがとうございました」

 そういって鑑定室を出た。狐につままれたような気分だった。

 あ、ポット忘れた。


 家に帰るまで、ずっとあの曲がり角での出来事を考えていた。つまりマリーはあのドラーとか言う男のことを最初から知っていて、お近づきになるためにあんなことを起こした?

 いやそれもおかしな話だ。それならわざわざ吹き飛ばされる必要がない。つまりああしないと近づくのが難しかった人物。それは。

「ドラーか」

 なるほど、あの男は危険だ。


 そのまま防衛騎士団の基地に向かった。通信屋を使ってもよかったが、かなり近いところにあるのだ。節約と健康のために走っていくことにしよう。

 基地はまるで城のように大きく、真っ白な壁がとても綺麗だった。というか色味が寮と全く同じだ。

「すみません、ちょっと報告したいことがあるのですが」

 門番にそう話しかけた。結界が張られた基地の唯一の出入り口なのだから、やはり守っている者も強そうだ。オーラが見えるような気がした。

 中に入り、受付に話しかける。

「すみません。ちょっと報告したいのですが」

「はい、この番号札をおとりになってお待ちください」

 そう言われて札をとる。また6番だ。


 番号を呼ばれ、応接室のようなところに通された。目の前には筋肉質のがっちりとした男がいた。

「ダンバスタ・エランガリだ。今日の要件を聞く前に、今いる高校とか、その辺のところをこの紙に記入してくれる?」

 ダンバスタはそう言って紙とペンを格納魔法で取り出した。

 受け取り、そのまま書く。

「ありがとう」

 そういってダンバスタが受け取った。

「えっと、ヂャブヂャさん? 背高いね。俺より大きくない?」

「あの、身長はコンプレックスなので...」

 そういうとダンバスタは慌てた顔をした。

「ああごめんごめん。で、どんな用でここに?」

 ヂャブヂャは今までの事を話した。特にドルーと言う男が怪しいということを重点的に。

 ダンバスタは基本的に相槌を打ちながら話を聞き、わからないところは聞いてきた。全てを話し終わったとき、ダンバスタは腰を上げた。

「ちょっと待ってくれる?」

 そういってドアから出ていった。

 ちょっとと言っていた癖に、けっこう経った後に入ってきた。ダンバスタは申し訳なさそうに頭を掻いている。

「多分さ、この万引き事件防衛騎士に報告されてないね」

「私は嘘を言っているわけでは」

「わかってるよ。なんとなくそういうのは分かる。でもね、こういうのって報告されないこともまあまああるんだよ。人情がどうとかってこと。それにそのドルーってのがその魔法を使っているという確証も掴みづらい。そういった魔法を見破れる人はもっと大事な事件で手一杯だし、この事件に使える力はそこまでない」

「そうですか」

 そういってヂャブヂャは肩を落とした。

「悪いんだけどね。せめて通信番号がわかればちょっとは分かるんだけど」


 基地を出るとき、ダンバスタは頭を下げていた。申し訳ない気持ちがあるのだろう。

 ダンバスタは20歳とのことだ。私より5歳年上。私もあと5年でああいうふうに働いているのだろうか。

 まあいい。とにかくドルーは危険だ。通信屋でマリーに連絡しないと。

 通信屋に駆け寄る。順番待ちが鬱陶しかった。はやる気持ちを抑え、じっと待つ。

「次の方どうぞ、通信番号もお忘れなく」

「29875109のヂャブヂャです。29869825につないでください」

「2986982ですね、わかりました。それでは頭と頭をつなげます」

「はーい、ヂャブヂャ。どしたの?」

「ねえ今ドルーと一緒にいない?」

「え、どうしてわかったの?」

「ねえよく聞いて、今...」

「あっ、ちょっと待って。うんうん。ごめんヂャブヂャ。もう切るね」

「ちょっとマリー!」

「通信が切れました。お代はこちらです」

 通信屋はそう言って料金表を指さした。


 ヂャブヂャはゆっくりと歩いて家に帰った。まわりには人一人いない。まだ日は出ているが、単純にここはにぎわっていないのだろう。事実、周りの店は全て閉まっている。ちかくにデカめの商店街でもできたのだろうか。最近この辺には来てなかった。今度来てみよう。そう考えて顔を下に向ける。

 もうこのことに首を突っ込むのはよそうか。結局のところ、自分が考えているのは全て推論の域を出ない。それにドルーがああやってマリーに近づいたとして、そこまで悪いことなのだろうか。

 それに万引き犯が報告されていないのなら、あの時の関係者全員がグルだった可能性がある。マリーを突き飛ばしたことは許せないが、単に事故だったのかもしれない。

 もうこれ以上考えてもしょうがない。防衛騎士には報告したんだ。もうなにもしなくていいだろう。そう考えて首を上げる。

 男が倒れていた。腹のあたりから血が流れ出ている。近づいてみると、かなりがっしりとした体形だ。

「大丈夫ですか?」

 そう言ってかがみ、男の肩を触ろうとする。しかしそのまますり抜け、地面のざらざらとした感触があった。

 あの魔法だ。すぐに気がつき。立ち上がってあたりを見渡す。後ろにダンバスタの姿があった。すぐに倒れた男の姿を見る。服装からなにまで全く同じだった。

「動かないでください!」

「君も動くな」

 ダンバスタが言った。

「君が、そこで血を流して倒れている」

 そう言ってダンバスタが私の少し後ろのあたりを指さした、振り返るが、目には映らなかった。


 あの時を思い出せ。どうやってあの未来になった。未来が見えていたのは私。ならばその未来を変えることができるのは私のはず。そうじゃないと条件にならない。見えても変わらないのなら、見たところでどうにもできない。

 しかし私とダンバスタはおそらくこの道の先でマズイ未来が見えている。近づくのが条件か? それとも時間経過によって発動するのか?

「どうも、こんにちは」

 そういってドルーが目の前に出てきた。口元には笑みが浮かび、手を叩いて歩いてくる。めちゃくちゃうざい。

「これが僕の魔法、吸引力の変わらな(アナザー・)いもう一つの未来(ワールド)だよ。君たちは僕の決定した未来へと近づいていく。それが僕の魔法だよ」

 ご丁寧に魔法の説明までしてくれて、完璧に勝っていると思っているのだろう。ふざけやがって。

 一旦ダンバスタの方に振り返る。

「すみません! 倒れている私ってどんな感じですか?」

「君か? 仰向けで倒れている。首のあたりから血が出ていて、多分ナイフとかで刺されたんじゃないか」

「ありがとうございます!」

 そういってまっすぐ走り出す。ドルーまでは少し距離があるが、このまま突っ込んで殴ってやる。




「おい! 止まれ!」

 そういってダンバスタも走り出した。ヂャブヂャはまっすぐドルーの方向へ走っている。しかしそのまま行けば倒れているところに到達する。

「待てよ!」

 強化魔法を使って一気に加速する。すぐにヂャブヂャの横についた。

「止まれって」

 そう言ってヂャブヂャの肩を掴む。しかしそのまま通り抜けた。つまりこれは...幻覚?

 そういえばあの紙に幻覚魔法が使えると書いてあった。じゃあこれはブラフか。

 ダンバスタはたちどまって胸をなでおろす。よかった。これは罠だったのか。しかし俺が引っかかってしまった。

 タッタッタッタッタッタッタッ。

 どうしようか。俺が倒れているのはもう少し奥だろう。いったん下がらなければ。ん?

 タッタッタッタッタッタッタッ。

 なんで走っている音が聞こえるんだ? 首を回転し、まわりを確認する。自分たち以外に人はいない。ならばこの音は。

「おい! 止まれ! 本当に死ぬぞ!」

 ヂャブヂャの姿は見えない。これじゃ止めることすらできない。基地であったときに探知魔法をつけておくべきだった。

「馬鹿だね君は! そのままいっても犬死だよ!」

 ヂャブヂャが姿を見せた。しかしもう手遅れだ。右足がすでに未来に触れている。

 ナイフが上から降ってきた。

「かがめ!」

 しかしそのままヂャブヂャは突っ切った。首をナイフが通り抜け、ほっと胸を撫でおろす。これも幻覚か。

「しかしダメだよ! もう時間切れだ!」

 ダンバスタは足が何かに引っ張られるようにして倒れた。マズイ。マズイマズイ。

 そのままドルーの方に引き寄せられるようになった。手で道路を掴み、なんとか時間を稼ぐ。

 ヂャブヂャは倒れている彼女を通り抜けてドルーの傍にいた。しかしあれは幻覚だ。本物は今どこかで引っ張られている。クソ、俺のミスだ。

「僕の勝ちさぁ!」

 そう言ったドルーが後ろに吹き飛んだ。そのまま地面に倒れる。

「おかしい。なんで未来を超えられるんだ。なんで」

「うるせえ!」

 ヂャブヂャが姿をあらわし、そのままドルーの腹に拳を入れる。

「さっさと気絶しろやぁ!」

 そういってドルーの顎を思いっきり蹴り上げている。いつの間に身体が引っ張られなくなっていた。体を持ち上げ、ドルーのところに走る。

「ちょ、やめ」

「黙ってろやぁ!」

 このままいけばドルーが危ない。



「で、手続きがいろいろあるから、今からちょっと時間ある?」

「あります」

 そういってヂャブヂャが笑った。まだ防衛騎士になっていないのに、こんなに優秀なら、防衛騎士になることにはとんでもないことになってるんじゃないか。

「でさ、ちょっと聞きたいんだけど、なんでドルーの魔法を突破できたの?」

「ああ、それですか。ちょっと私の頭触ってみてください」

「はあ」

 言われた通り頭を触るべく、手を上にあげる。近づいてみるとわかるが、かなり身長が高い。自分も身長が高いことで通っているから、見上げるのは久しぶりだ。

「それじゃ」

 手を下に動かす。手はヂャブヂャの頭を通り抜け、胸を通り抜け、腰のあたりで止まった。手を動かすと、紙をぐしゃぐしゃにしているのが分かる。

「言ったでしょ。私、身長がコンプレックスなんです」

面白いと思ってくれたらうれしいです。

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