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異世界転移の寄生虫(パラサイト)  作者: 黄田田
第1章:寄生虫の世界 A cruel world
9/25

弱肉強食

重く鈍い音


恐竜型寄生虫の噛みつきによる初撃を紙一重のタイミングで躱したところだった。空気が震えるほどの威力、まともに食らったらどれだけのものか。そんなことをまともに考える前にすかさず行われる第二のカギ爪による攻撃


すかさずこちらも爪で弾きかえそうとするが力足りず、二の腕から胸にかけてを引き裂かれる


「つっ!!!!」


痛みをこらえ、すかさず距離をとる


(やべぇよ、こいつまじやべぇ)


平原で始まった戦闘。最初こそ足元に入って攻撃し、優勢だった舞村だったが、やはり根本の初期種族の問題が、戦闘が長引くにつれ重くなっていた


あちらの方がリーチが長い、膂力が高い、速度も違う。戦闘、狩りのセンスも持って生まれた肉食獣としての本能があちらにはある。攻撃をしかけてもなんなく予想され、こちらの防御が薄くなったところを的確に突いてくる


再生力は同等なのかまだ持ってはいるが、致命傷があたり息が止められるのも時間の問題といえよう


(くそ、爪が通らない…)


寄生虫の全長は8メートルといったところか。ティラノサウルスほどではないにしろ、この体格で俊敏に動く相手の急所に当てるのはかなり困難だ


空中にけりだして喉笛を引き裂こうとするが、尾に吹き飛ばされ、失敗。糸を絡ませて急回転し、背後から接近しようとしてもすぐに感づかれて叩き落される。毒?効かない


再度足場から組み落とそうとするが、ヘビのような長い頸ですぐに死の牙を近づけられる始末



正直、歯が立たなかった


(くそっ!どうすりゃいいんだ)


体力もそろそろ限界をむかえてきる。相手の攻撃が予測不能なので、ひたすら動きまわるしかないのだ


(またアレがくるっ!)


ギュンとした加速音。舞村の背後と、正面に爪と牙の同時攻撃


恐竜の圧倒的な身体能力と寄生虫のドーピングが加わって生まれる、圧倒的な速さ。だからこそ繰り出せる、絶対の技


舞村は少し遅れてやってくるとてつもない激痛に身を悶えながら、平原から再びジャングル近辺にまで吹き飛ばされた


あたり一面に広がる血。さきほど攻撃を受けた場所は地面がえぐれ、小さいクレータのようなものができていた。それほどの衝撃だったのだ


当然ただでは済まない。全身の骨が砕け、内臓は破裂しているだろう。本人にとってはもう死んだ方が楽だとも考えているかもしれない


だが体は死ぬことを許さない。メキメキ…という音とともに舞村の体は再生を始める


「グァァァァァ!!!!」


その再生も激痛を産む。無慈悲に配列された骨が周りの肉や神経も巻き込みながら無理やり元の場所に戻ろうとし、破壊された内臓はたとえ骨の破片が内部にあろうとおかまいなしに再生する


そしてどんなに悶えても苦しんでも、寄生虫は相手が息絶えるまで攻撃をやめない


うずくまっている舞村を発見し、まだ息があるのを恐竜型は感じ取る


踏みつぶす


体重何トンかの脚で獲物が肉の塊になるまで圧殺する


「ガァァァァァァ!!!!!」


悲鳴とともに、爆発が起き上に乗っていた寄生虫は吹き飛ばされた。が、瞬時に体制を整えると何が起きたのか遠回しに様子を確認する


「うぅ…」


無傷の舞村が白い煙とともに現れる。どうやら再生の最中に無理に攻撃すると、その場で爆発し再生を完了する性質があるようだ


この性質は全ステージ3以上の寄生虫はみな、該当する。そこでダウンしている舞村も、恐竜型も


全身を内臓から洗濯機に入れられたような激痛の中、舞村は何が起こったのか、理解した。一方恐竜型は何が起こったか理解できなかったがそんなことはどうでもいいとばかりに瞬時に攻撃を再開する


舞村と同じ蜘蛛型を吸収したときに得る毒が埋め込まれた牙による噛みつき。舞村にこの毒は効かないが、威力は折り紙付きだ


(くっそ…)


なんとか躱し、再び距離をとる。いやそれしかない


(あの長い頸による攻撃がヤバすぎる…手足短いのを尻尾と牙でカバーされる)


(寄生虫は同じ寄生虫を食べることでその寄生虫の特性や能力を吸収できる…。だったら寄生前のオリジナルの身体的特徴や能力なんかも食えば奪えるってことか)


通常の肉食恐竜にはおよそないだろう、しなやかで鎌のような長い頸。ヘビや竜脚類に寄生した寄生虫なんかを食べたときに得たのだろうか、それもあって相手は絶対的に有利に展開できている


(つまりこの相手は少なくとも一回は同じステージ3のやつを倒してるってことか)


スペックだけでなく経験まであちらの方が上。勝利がまた一歩遠のいた絶望的な瞬間だった


(足はもう動く。だがこいつは決して逃がさないだろう、こいつの速さには対抗できない。背中を見せた瞬間、終わりだ)


どうする、どうする、どうする、舞村はひたすら思案を巡らせる。起死回生の一手はなく、戦闘が始まる最初から考えていた分の悪いギャンブルしか残っていなかった


(それでも、このまま食われるぐらいならやるしか…!!)


息をため、タイミングを見計らう。相手は動かない、こちらを動くのを待っているのだ。カウンターの姿勢、だが、それがいい、それが好機


(いまだ!!)


舞村は正面突撃した。寄生虫の目の前を、相手よりはるかに遅いスピードで。当然、そんな甘い攻撃に恐竜型は回避などしない。全力の一撃を叩き込み、絶命させる。カウンター狙いなのだから当然。しかしそれが油断、それが隙


(うぉぉぉぉぉぉ!!!)


舞村が限界まで接近すると、飛び上がる。そして爪を頸に届かせようとして…


ドン!


その攻撃は見た。とでもいうように恐竜型は舞村をあざ笑いながら口元をゆがませ、とびかかかってきた舞村をそのまま脚で踏みつぶした


あたり一面に飛び散る、はみ出た臓物と血。再生されるまえに即刻絶命させるため瞬時に長い頸を伸ばし、舞村の頭ごと噛み砕く


恐竜型は標的の頭蓋をかみ砕く感覚を味わいながら確信した。勝ったと


が、次の瞬間、己の頸が吹き飛ばされていた


恐竜型は最後まで何が起こったのかわからなかった、どうして標的の脳みその味を感じているのに、自分の頭が落とされているのかと。視点がぐるぐると天地がひっくり返ったかのように回転しながら恐竜型は頸なきかつての体と、標的の右手から延びる爪を確認した





***


「あぶねーーーーーーーーーー!!!!!!!」


舞村は声に出して狂喜した。まさか成功するとは思ってなかったからだ


右手にはあの恐竜型の本体が握られていた


恐竜型が必ず牙を使って仕留めてくることはわかっていた。そこで興じたギャンブル、相手に組み伏せられることを許し、相手が頸を伸ばしてくるタイミングで伸縮可能な爪を限界まで伸ばし、頸ごと引き裂く


肉を切らせて骨を断つ。頭を食わせて頸を切る。これが舞村が講じた賭け、頭を食われてもすぐには死なないというだろうという危険すぎる仮定の下生まれた大ギャンブル


相手の攻撃が思ったより早く、爪を伸ばそうとした段階で脳みそがつぶされていたハプニングはあったものの、脳の指令は何とか追いついたのか勝利を飾ることができた


頭が新しく生えた後の対応も完璧だった。同じく奴も再生するだろうという思考から血眼でやつの“本体”を探した。おそらく高ステージの大型寄生虫を排除するにはこれをやる必要があると


やはりその通りでやつの切断部から臭い煙が出てきたタイミングで、腹の側面にいた寄生虫をとらえることができた


ブリンブリンと動くまるまると肥えた寄生虫


そうすると煙は止まり、恐竜型は再生の見込みもなく絶命した


勝った。勝ったのだ。あの状況から、生き延びた。そして初めて今まで逃げてばかりだった寄生ステージ高の連中を舞村は初めて倒すことができた


もちろんまだ同じスーテジ3を倒せただけだが、それでもうれしかった。同時にこれより上をいくステージ4の恐ろしさは感じたが


(よく今まで生きれたよな…おれ)


口だけの怪物による襲撃や空母型の爆破を直で受けても、何とか生きている。弱点もわかった。凄まじい達成感だ


あとは進むだけ


(この寄生虫の世界を出るだけだ…)


困難はあるだろうが、この戦いで受けた痛みに比べればたいしたことはない。これ以上の地獄などあってたまるか


またも甘い考えだが、舞村は決意していた。二度とこんな苦しみを味あわないと


そして、舞村は手にした寄生虫と残りの恐竜型の死体を余すことなく食い尽くした


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