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異世界転移の寄生虫(パラサイト)  作者: 黄田田
第1章:寄生虫の世界 A cruel world
3/25

寄生

ぐじゅぐじゅと体を上ってくる感覚。粘液を垂らしながら、それは無防備な未来の”宿主”の口に…


「うぉっっ!!」


(なんだこのきもい虫は!!)


急いで振り払う。ナメクジとダンゴムシが合体したような巨大な虫が舞村の体を這い上がってきていた


べちゃっと緑色の内容物をまき散らしながらつぶれる虫。寝起きの舞村にとって最悪の目覚ましプレゼントである


(最悪だ…てかさむっ!昼間とは真逆じゃねぇか)


昼夜で気温が著しく違うのは本来砂漠くらいのはずだろう。夜昼問わず高温多湿であるはずのジャングルでのこの気温はどう考えてもおかしい


(本格的に異世界だなこりゃ、きもい虫にひどい環境。こんな過酷なもん求めてねぇよ)


休んでいる間にだいぶ体が冷えてしまった。もう出発しなければ


(馬鹿でけぇ月だ…)


眼前の巨大な白い月は当然地球にはない景色だ。この先を困難を象徴するような印象で先行きを非常に不安になる


とにかく歩かなければ、先ほどと同じく東へ向かって出発する。村を求めて、いや果物も残り一つしかないから水と食料も求めて


何分か歩いて気づいたが不気味なことに昼間とは違って生物の気配がするのだ。おまけに…


「ギャァァァァァァァ!!!」


ときどき聞こえる鳴き声がうるさい。化け物でもいるのか、昼間ではこんな鳴き声一切聞こえなかったのに


「どっからでもかかってこいよ、おい。おらぁ」


カラ元気である。舞村は現実逃避するタイプであった。謎のファイティングポーズを構え、調子づく


(何もいないよな…って!)


瞬間、舞村の背中に凍土が生まれたかのような寒気が走る


「こーぽ」


巨大な、あまりにも巨大な異形の影がさしている


振り返ってはいけない。直感でそう感じた


(い、いつの間に背後に…どうする)


刺激しないようにゆっくりと前方へ移動する。そしてある程度距離が離れたら…


(いまだ!走れっ)


「クゥェェェェェェェ!!!!」


耳のつんざくような特有の鳴き声


振り返るとそこには全長10メートルはありそうな全身が無数の口で裂けた化け物がいた。ところどころの口に獰猛そうな牙があり、ガシガシという咀嚼の音を奏でながらこちらへ向かってくる


(やべぇ)


舞村は逃げた。とにかく逃げた。足が悲鳴を上げても、根にもつれて転んでもとにかく逃げつづけた


そして、気が付けばジャングルの外へ出ていた


「あ、ここは?」


あたりに緑はない


「…出られた。出られたのか、ハハやっと出られたぞ」


舞村は歓喜に打ち震えた。あの怪物から逃げられたことと、悪夢の密林を抜けられたことにだ


(ここは海…か?)


浜辺のようだ。一面真っ白な砂浜がどこまでも続いている、青黒い海は、上空のそのあまりにも大きい月を写していた


(綺麗だな)


舞村にとって初めてこの世界にきて美しいと思ったかもしれない、それほどのものだった


だが感傷に浸っている時間はない


(とりあえずジャングルを抜けれたんだから、ここで夜が明けるのを待って…)


「ぽーぽ」

「え?」


赤黒い巨大な卵を抱えたようなグロテスクな物体が浮かんでいた


(なんだこいつ…え?)


理解が追いつく前にそれはこちらの存在に気づいたのか急降下して接近してくる


そして、その生き物は限界まで接近したかと思うと、弾けた


どかんという破裂音、凄まじい耳鳴り


(な、何が起き…)


霞む目を開けて気が付くと左腕がなくなっていた


(え?おれの、おれの腕が…)


ない。舞村はおそるおそる自分の体を、かろうじて機能している目で確認する


左腕、ない。右足、消えた。全身、謎の粘液で覆われている


さらに、理解できた瞬間。それはやってきた


「っぎゃあぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」


とてつもない激痛。亡くなった部位ではない。全身にくまなく塗りたくられたこの緑色の粘液が引き起こしている!


(痛い、イタイ、イタイ、イタイ、イタイ!!!!)


マグマに放り込まれたような痛み、その猛毒は死ぬ寸前までガイシャを痛めつけるものだ


そして死ぬ寸前の舞村に群がる虫が何十匹と。あの飛行する卵から生まれた子供たちである


猛毒で苦しむ舞村にそれらは容赦なく襲い掛かる。ご飯の時間だ


(おれはこんなところで死ぬのか…)


図体がでかくなったクモのような子供たちに囲まれて、舞村の視界はもう群がる黒い脚しか映していなかった


(せめて最後にお腹いっぱい食べたかった…ん?)


ぬるぬるとうつ伏せの舞村に近づく一匹の虫。さきほど舞村に寄生しようとした幼虫だ


「…なら、せめて最後に」


お前だけでも食ってやる。舞村は全身をかじられながら、ぬけぬけと近づいてきたそれを口に入れる


暴れる身を噛み砕いてやろうとするが力が入らない。なら巨大で飲み込むずらいが飲み込む。すると反射の機能が弱っていたのか、窒息寸前だったがなんとか飲み込むことができた


寄生虫は舞村の喉を通っていく…。これから死に行くものに何のために?舞村はこの世界に一矢報いたかった。こんな苦痛を味わう道ずれが欲しかったのかもしれない





***


しばらくして、夜が明けると、日に照らされた砂浜には”無傷で”横たわっている男と、大量の虫の死骸が転がっていた


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