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異世界転移の寄生虫(パラサイト)  作者: 黄田田
第1章:寄生虫の世界 A cruel world
17/25

何があろうと酒は飲む

翼人たちが住む最果ての集落、ナギド村。場末の酒場にて男二人が最近あった事件についてついて話し合っていた。事件とはもちろん舞村のことである


「知ってるか?例の人型セランガとの訓練、勝ったはしたが辛勝だったらしいぜ」

「遠征のための訓練だろ?何十人もいたはずじゃないか?それも精鋭の観察者や守護者を集めた」

「それでもギリギリだったらしいぜ。あのセツナ隊長やガエリア兵士長もいたのに」

「嘘だろ?でも一応勝てたんだよな?」

「あぁだがセランガ全体を含めればたった一頭だし、最後は胴体ごと斬られたらしいんだが、それでもなお五体満足で生きてるんだよそいつ」

「まぁ訓練だから死人が出るのはおかしいとはいえ、やっぱセランガは化け物だな。兵士たちに怪我人は?」

「見なかったのかよ?全員ボロボロで傷だらけだったぜ。みんなこの世の終わりみたいな顔してた」

「重要な遠征前なのになにやってるんだか…」

「それでその人型セランガのご尊顔も見に行ったんだが、見た目は普通の人族そのものなんだけど、やっぱちょっと雰囲気違うんだよな。チョー美形だったし」

「セランガに憑りつかれたら醜い異形になるんじゃないのか」

「いやいや、どこの女神様ってぐらい整った顔してたぜあいつは」

「女神?女なのか?そいつ」

「いや、男だと思う。あんな身長高い女はいない、いやでもわからんな本当に、どこか不気味な人外じみた美貌だった。目を奪われたからな」

「それもセランガの特性の一つなんじゃないか?だがそんな野郎とはいえそんな美形なら一度見てみたいもんだな。マイムラクオン、だったか」


舞村が遠征隊と演習を行い怪物に変身し、多数のけが人を出したという噂はあっという間に行った


いくら演習とはいえ舞村が派手に暴れすぎたものもあるだろうが、結果は翼人たちの勝利だというのに満身創痍の兵士たちに比べて舞村はピンピンしていたのが原因だろう


自由に外出していいという許可が出たことで舞村はいろんな場所をほっつきまわっていたが今のところすべて避けられていた。仲良くしていた業者たちにもだ


だが当人は全く気にしていなかった。セツナ、たまたま居合わせたティコと一緒に真っ昼間から市内のバーに入り、酒と料理をかっくらう


「マスター!もう一杯くれ」

「おい、兄ちゃんもう7杯目だぜ」

「酒は強いから大丈夫だ」

「そうはいっても、金はあるのか?高いやつばかり頼んでるが」

「ツレが出すから問題ない、よな?」


そう言って舞村は隣に座っているセツナの方を不安げに確認するような顔で見る。人の金で堂々と飲食してる図太い性根のわりに小心者だ


「おい、まさかセツナちゃんに全部払わせる気かよ!」


セツナはこの辺一帯の警備を任された『観察者』であり、顔も広く、容姿の良さも相まって人気ものだった。そんな有名人のヒモをやっているのが現在の舞村である


「いいんだマスター。こいつが本当に毒が効かないか試したかったからな。アルコールが一番丁度いい」

「あはは…、セツナさんって時々発想が大胆ですよね」


セツナと同じく、ティコも何も頼んでいない。舞村が酒を飲む様子を二人で見るだけだ


「…それであんたは酔わない酒飲んで満足なのか?」


店主は小料理に夢中になっている舞村に尋ねるが舞村の返答は「人の金で酒飲めるなら大満足だろ」とのことだった


「はぁ…まぁいいがあんたは特に最近ひんしゅく買ってるから気をつけろよ」

「ひんしゅく?おれって嫌われてるのか?」


そらあんたはいろんな意味で有名人だからな、とあきれるようにいう店主。舞村があたりを見渡すとこちらから露骨に眼をそむける客が何人かいた。ひんしゅくを買っているかはともかく嫌われているか、恐れられているかは間違いないだろう


(まぁ化け物が市内を普通にうろついてるって考えると陰口たたかれるもするか。実害がないだけましだな)


そんな事態も軽く受けとめるとまた酒を飲み始める舞村だが一点空気がひりついたように感じ、静かな店内に騒がしい男どもが入ってきた


「ギャハハ!だからそれはあの野郎が」

「で、絞めてやったわけよ」

「おい店主!さっさと酒もってこい!」


ここが居酒屋かなにかだと勘違いしているのか各々好き勝手に喋り散らかし、舞村たちが座っているカウンターに最も近いテーブル席にどたどたと落ち着くとさらに騒がしくなり始めた


「なんだあいつらは?」

「守護者の連中だな。この集落の防衛を任されている重要な責務のはずだが、少々教育がなってないらしい」

「訓練の最中に彼らの顔は見かけましたか?」


訓練で会っているならあなたの顔を見ただけで逃げ出すかもしれませんよと舞村に助言するティコ。だが舞村はやつらの髭面など一度も見たことがなかった


「いや、知らないね。それよりセツナの方が上司なんだからそっちが注意した方がいいだろ」

「それもそうだな」


カウンターから立ち上がり、騒音を注意しに行くセツナ。舞村もなんとなく面白そうだからついていく。ティコも立ち上がった


「おいお前たち。少し騒ぎすぎた、酒くらいしずかに飲め」


だいいちなんで任務もあるのに真っ昼間から飲んでいると続けるセツナ。その言い分は無職の舞村にもぶっささる


「なんだぁてめぇら?昼休憩だからこっちは楽しく飲んでるんだよ、仕事もねぇ女どもは引っ込んでろ!」


触らぬ神に祟りなしならぬ触らぬDQNにたたりなし、仲間内の楽しみに水をかけられた髭面どもが面々と怒鳴りだし、空気は一気に剣呑に変わる


だがこちらにはよりDQNな舞村とセツナがいるので問題ない


「この様子だとセツナさんのことは知っていないようですね。相当下っ端なようです」


小声で舞村にそうつぶやくティコ


「誰が下っ端だぁ!」

「あ、聞こえてました!ふぇぇ冗談ですよぉ」

「ナチュラルに女扱いされたか今…?」


女顔だから仕方ない。そんなどうでもいいショックを受けている舞村の横でセツナは鞘を握り臨戦態勢をとっていた


「黙れないなら強制的にしゃべれなくさせてやろう」

「上等だ!受けてやる、表へ出ろ!」


髭面たちは全員抜刀すると舞村たちを取り囲むように空中で汚い羽をまき散らしながら浮遊し始める


(翼人はどうしてこう血の気が多いのか)


「ふひ、左の背が高すぎるのと胸がないのがちと難点だが、全員上玉ぞろいだ。ボコして裸にひん剥いてやるか」

「やれるものならやってみろ」


一触即発、そんな空気の中またしても扉が苛烈に開かれる


「狼藉はそこまでだ!」


金髪の武装した男が、何人かの護衛をつけて入ってきた。その顔を見るに、途端に青ざめる男たち


「やべーぞ!ありゃこの辺一帯を守ってる守護騎士のアルフだ」

「貴様ら、前もこの前もトラブルを起こした工房の連中じゃないか。今回こそは許さん、全員牢にぶちこんでやる」

「こりゃかなわん、ずらかるぞ」


そうはさせるか、とアルフが後続の兵士に指示をすると瞬く間に男たちは机に突っ伏せられお縄となった

そしてそんなギャーギャー嘆く男たちをしり目にセツナにまっすぐに近寄ると首を垂れ、手の甲にキスをした


「ご無事でしたか、セツナ様」


どうやらセツナよりかは下の人間らしい。気楽に話しかけようとした舞村だったが、途端に剣を向けられる


「貴様か、セツナ様に付きまとっているという害虫は…」

「は?」

「さっさと処刑されておけばよかったものを、協力するだのほらを吹いてこの里に寄生して…」


いきなり喧嘩を売られたことに戸惑う舞村だったが寄生する害虫なのは間違ってない


「あのな、おれはセツナのストーカーでも何でもないぞ。彼女はただの監視役だし別におれは頼んでない。なんならお前がおれの監視役になってもいいんだぞ」

「ぐっ、そうしたいのはやまやまだが、仕事が山積みなのだ。ここ最近は忙しくてまったくセツナ様に会えなかったというのに久々の逢瀬がこれとは…」


泣けてくる。と天を仰ぎながら目頭を押さえるアルフ


「なんだか頭がだいぶ変な奴みたいだな」

「あははアルフさんたちはここ一帯を守る守護者のうち長老直轄の近衛兵ですからな、こう見えてすごい人なんですよ」

「誰が変な人だ!!」


軍人か、なら後日の遠征にも同行するだろう。道中はこいつをいじって楽しもうと思った舞村だが憎まれているのだから背中を預けるのはちと不安がでる


「と、とにかく貴様がなにか問題を起こさないか常に見てるからな。少しでも怪しい素振りをみせたらその喉笛切り裂いてくれる」

「いやその心配はないぞアルフ」


ぬっといつものように無口で空気だったところをいきなり横から発言するセツナ


「こいつの素行は常に私が監視している…、常にだ。この前は夜寝られないのをいいことにほっつき歩いていたからな、今は寝ずの番で監視している。だから心配するな」

「おれはお前が心配だよ、セツナ…」

「なっ貴様つまりセツナ様と同じ屋根の下で同棲しているということか!?」


それだけは許せないアルフ。実際は同棲どころか同衾までしている


「あぁ、セツナの家に今は住んでるよ」

「なんてうらやま、いやけしからん。セツナ様この男は信用できません、やはり家での軟禁ではなく牢に入れた方がいいかと」

「?私の家はある意味そこらの監獄より重厚だぞ。なにせこの私が常に監視してるんだからな、寝てるときも常時一緒だ」

「だからって勝手に体をまさぐるのはやめてくれよ…一晩中それやってるから頭がおかしくなりそうだ」

「そうでもしないとお前が眠らないせいで暇だからだ」


アルフはもう二人の会話が先を行き過ぎていて聞かなかったことにして今すぐその場を離れたかった。まさかここまで親密だとは


「それともなんだ、私の実力を疑っているのか?」

「襲われるんじゃないかって心配してくれたんじゃないか?あんまつっかるなよ」

「お前に限ってそんなことができるのか?この前生理現象があるのかいろいろ調べたが何一つ反応がなかったじゃないか」

「それセクハラっていうんですよ」

「せくはら?なんだそれは、身体をまさぐるのがダメなのか」

「ダメに決まってるだろ!あっやめ」


勝手にヒートアップを初めてその場でじゃれ始める二人。ティコなんかもう顔を真っ赤にしてアルフに至っては敬愛するセツナから非難を受けたうえに宿敵である舞村からかばわれる始末。もういろいろと死にたかった


ちなみに寄生された舞村にその手の生理的反応も欲求もない。そもそも人間と生殖することが不可能だからだ


身体の方は感応するが


「何をやってるんだ?真っ昼間から仲良く」


遠い目で見る二人とじゃれつく二人。そんな4人をあきれた目つきで見る老年の大男がいた


「ガ、ガエリア兵士長!いつのまにいらしたんですか」

「つい先ほど騒ぎがあったと通報を受けてな。ちょうど近くだから立ち寄ったのだが、もう事は終わったようだ」


縛られて袋にされた男たちを横目に呟くガエリア。アルフはあせあせと対応するが彼は焦る必要は全くない。拘束したのは間違いなくアルフ一人の功績なのだから怒られるべきなのはそこでいちゃついてる二人だ


「これはよろしいのでしょうか…セツナ様ほどの観察者がセランガと懇意にするだなんて」

「まぁ二人とも楽しそうだしいいじゃないか。実際両者美男美女で様になっておるしな」

「そこに取り残される私たちの気持ちも考えてください…」


最初の険悪な雰囲気はなんとやら空気の読めないセツナとメンタル人間卒業の舞村がデュエットを始めたことにより釘を刺しておこうと思ったアルフでさえそれに飲まれてしまった


「そういえば三日後の遠征について御報告が…」


今はもう舞村に話しかけることすら諦めて今すぐ連絡だけして帰ろうとしている、だがそんな魂胆を打ち破ったのはほかならぬガエリアの言葉だった


「あぁそうだ、遠征と聞いて思いだした。ちょうどお前たちがまとめているし言っておこう。行軍についてはアルフの師団が先行して行うことになっている。なので必然的に戦闘力が高いセツナ、マイムラの二人はここに先蜂として配置することになった」

「はぁ!?」

「あとティコも仲がよさそうだし入れておこう。よろしく頼むぞ、アルフ」

「私が、この3人を預かれと?」

「そういうことになるな」


「これからよろしくな!」


もう絶句を過ぎて白目向いて今にも失神寸前の金髪の美丈夫。銀髪の美青年である舞村が笑顔で肩を組むと一部の層からは溜息が出るほど絵になるが本人にとっては知ったこっちゃない話


「ではそういうわけで失礼する」

「ばいばいおっちゃん!」

「また後日、兵士長」

「あ…あ…」


また横でいちゃつきだした二人を見て、アルフは死ぬほど後悔した。因縁つけるんじゃなかったと
















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