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異世界転移の寄生虫(パラサイト)  作者: 黄田田
第1章:寄生虫の世界 A cruel world
14/25

知的生命体

―――未知の生物がすさまじい速度で我らの集落に向かっている


翼人の里を大混乱に陥らせたのは、観測者のその言葉だった


かねてから観測していた、恐竜どころか生物すらほとんどいないはずの【死の熱帯】である砂漠から現れた新種らしき恐竜


それが突如砂漠で最も厄介な魔物の代名詞であるダブルヘッドスコーピオンに変身し、まっすぐこちらに向かっているというのだからこのパニックである


「どういうことだ!やつは砂漠の中で息絶える予測ではなかったのか」

「いや水なしであの地獄を抜けるなんて予想できませんよ!」

「その生物は本当に最初は恐竜だったのか?」

「変身したというより、環境に適応したとみるのが正解だろう」

「いや、本当にその場で変身したらしいぞ」


翼人の里の上層部もご覧の様である。普段使わない埃だらけの会議室なんて使って、その大きな翼をバサバサと不安そうに揺らしている


そしてその上司の不安の矛先が向かうのはいつだって下の者だ


「おいセツナ!恐竜がその場で魔物に変身したというその情報、間違いはなかろうな」


セツナと呼ばれた観測者の少女は身をかがませたまま、ハッキリとした様子で答えた


「はい、対象は砂漠をひたすら北上し中腹にさしかかかったところ、突如として蠍の姿に変貌、またも北上を続けました。今まさにこちらに向かってきています」

「そんなことはわかっている!あぁくそっダブルヘッドスコーピオンの退治など…やつらは砂漠から出ないのではなかったのか、なぜここまで…」

「やつがさった現場には同じダブルヘッドスコーピオンの亡骸がありました。損傷がひどかったものの間違いありません」

「それがどうした?共食いかなにかだろう」

「私はこの恐竜が捕食し、その姿をコピーしたと見ています」

「そうか、ははダブルヘッドスコーピオンではないと喜ぶべきか?今すぐやつに対応しろ!セツナ、当然貴様が先陣を張るんだ」

「御意」


こうして緊急の大捕り物が始まった


衛兵数十人と、観測者、防衛者。人手が足らず引っ張り出された民兵といった顔ぶれ。いくら翼人の里の人口が少ないといっても遠征も近いというのにこれとは、セツナは里の将来を憂いた


だが予想に反して事態は早く終わった


槍を持ち、複数でターゲットを包囲したところ、向こうがすぐに降伏したのである。刃を向けると慌てたような様子を見せた巨大な蠍の姿がみるみると縮んでいき、最終的には見目麗しい人族の青年が現れた


全裸の





***


(いやーやらかしたな)


文明を発見したことに喜びすぎて、自分の今の姿がどうなっているのか忘れてしまっていた舞村。邂逅一番に刃を向けられて速攻で牢にぶち込まれた。当然っちゃ当然である


おまけに変身を解いた直後は服も来ていないため、これではただの露出狂である


(怪物の姿でしたけどほんとは人間でしたー。ここから出してなんて通るわけないしな…最悪このまま処刑もありうるぞ)


それだけはまずい。舞村は牢の外にいる監視役ですといった武装している二人に話しかけてみることにした


「あのーおれの処遇ってどうなるんですかね?本当に無害なただの人間なんですよ」

「――――――」

「――――――――――――」


(やはり通じないか)


二人の女性が発す言葉は通りのいい声だが、何を言っているのかわからない。とにかく地球の言語ではないことは確かだった


(まぁ、羽根生えてるしな…異世界ものって言語の壁ないのがセオリーじゃないのかよ)


どうやってコミュニーケーションしようか悩んでいると、ガチャリと扉の音がして、男が入ってきた。何やら装置のようなものを抱えている、色はピンクでチョーカーのような形だ


(なにそれ?SMグッズ?)


その装置を監視役の女性に渡すとなにやら話しこみ、終わるとすぐにでていった。すると褐色肌の方の女性が近づいてきて牢の扉が開かれる。手枷足枷でつながれたまま、首に例の装置をつけられる


妙にぶよぶよとした感触、舞村の体に異変が訪れる


(なんだこれ…頭に大量の情報が入ってくる)


舞村はしばらくめまいというか、独特な酩酊感に包まれていたが、落ち着くと妙に頭がクリアになったような気がした


「私の言葉、わかるか?」

「へ?」


そして、先ほどまで全く聞き覚えのなかった異界の言語をしゃべっていた女性の言葉がはっきりと理解できるようになっていた


二人の女性は褐色の方がセツナ、金髪の方がエイラだと舞村にそれぞれ名乗り、舞村の方も名乗り返した


(セツナにエイラ、日本っぽい名前なんじゃないか?知らんけど)


「それでマイムラ、クオンだったか。聞きたいことはやまほどある、まず最初にどこから来た?」


会話が可能になったのでそんな様子で尋問が始まった


舞村は寄生虫関連の情報だけ隠したまま、これまでの事情を説明していく


気が付いたら見知らぬジャングルの中にいたこと。自分が全く別の世界の出身だということ。恐竜たちに襲われながらも、北上を続けてここまでたどり着いたこと


だが、この隠したことが悪手だった。相手には蠍に変身していたこと、セツナに至っては恐竜の形をとっていたこともバレているので当然


「なぜ怪物の姿をしていた?」


詰められる


「っと、それは…」


眼が泳ぎ、何とか言い訳を思いつこうとする舞村。だがセツナの殺意の籠った視線に我慢できず、とうとうすべてをぶちまけた


「―――なるほど」


寄生虫のことも、それに寄生されたこと、寄生されたことで得た能力もすべて話し、これで舞村が提供できる情報はなくなった


「話を聞く限り、お前は【転移人】のようだな」

「転移人?」


稀にいるのだという前触れもなく突然身の着のみを纏って現れる異邦の者。国によって対応は異なり、異界人として崇めたり、迫害したりする地域もあるらしい


(何それ怖い)


「その首輪も魔術教会が転移人のために作ったという話だ」


かなりの技術力だなと舞村は感心した。魔術教会ということは魔法を使うのだろう、脳に干渉して言語をインプットできるなんてそんな技術地球にもない。オーパーツのレベルだろう


(見かけはhな道具にしか見えんがな)


ブヨブヨのショッキングピンクを見てそう思う舞村だった


「それで、お前のいう【寄生虫】だが…ここではセランガと呼ばれている。現在、セランガ討伐及び調査のための遠征を企画している最中だ」

「遠征?」

「もっとも、里で起きた異変解決のためが一番大きいがな。で、話を戻すがセランガに本当に寄生されたんだな?」

「そうだ」

「…なぜ自我が保てるんだ…いやしかし…」


ブツブツと口に手を当てながら思案するセツナ。結論に至ったのかピンとした表情を浮かべると急遽牢の外へと出た


「一度、上に報告を入れる」


そういうとセツナは部屋から出て行った


「ごめんなさいね~今ここかなりバタバタしててまともに歓待もできない状態なのよ」


一人残された監視役のエイラがやけに気が抜けた声で話しかけてきた


「はは、いいっすよ。おれもだいぶ非常識な姿で皆さんの前に出てしまいましたから」

「私もビックリしたわよ。薄気味悪い虫から全裸のイケメンくんが出てくるんだから」

「全裸なのは本当に申し訳なかったです。一応服は持ってたんですけどね」


緊張感のない会話が続く。この集落の舞村への対応は緩い方だ。ほかの国なら速攻で処刑されてもおかしくない


しばらくそんな意味のない会話が続くと飛ぶ鳥を落とすような勢いでセツナが再び牢のある部屋に入ってきた


「お前の処遇が決まった。でろ」


セツナに足枷を外されて、牢から出ると何人もの無骨な兵装に身を包んだ翼人たちが列を作って舞村を囲んでいた。その視線は奇異なものを見る色、明らかに警戒しているもの、納得がいかないような表情をしているもので様々だ


(こわっ)


舞村は外の熱風と視線の歓迎を浴び、これから処刑されるのだろうと察して、いつでも手錠を破壊しておけるように心の準備をしておくが、その予想は外れることになる


またしても薄暗い区画に案内されると、そこには重厚に閉ざされた鉄扉があった。先方を歩くセツナがそれを開けると、扉のきしむ音と同時に地獄の窯が開いたかのような声が中から聞こえてくる


(こ、これは…)


目線の先には幾重にも鎖でつながれた、全身がどす黒く変色し紫に光る眼光と鋭い牙をちらつかせる“人間”がいた


悪鬼としか言い表せないその様相、だが確実に人間だった。寄生虫に寄生されてしまったのだ


「寄生されている…おれと同じく変異体ですよこいつら!」

「知っている」

「彼らはもともとこの村の住人だった。だがセランガに寄生された結果こうなってしまったのだ」


よく見ると翼のようなものが生えている。変色し、ところどころ崩れ落ちているので見る影もないが


セツナは振り返って、舞村の目をじっと見つめると、言葉を続ける


「あの黒い恐竜の姿…お前は間違いなくセランガ、いや寄生虫なのだろう。なぜあれに寄生されて無事なのか、変異しないのかそれはもうどうでもいい」

「あいつらを戻すために協力してくれないか」




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