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異世界転移の寄生虫(パラサイト)  作者: 黄田田
第1章:寄生虫の世界 A cruel world
12/25

寄生虫vs寄生虫

地球ではないどこか、夜のとばりが完全に落ち、星々たちがお互いの光を讃えあうかのように輝くもと、その下では地獄の戦闘が繰り広げられていた


血しぶきが飛び、肉がどこかにちぎり飛ぶ。そぎ取って、むさぼって、切り裂く。お互い人型の寄生虫だからこそ、このような戦闘が展開される


手長足長。ステージ4の寄生虫で人型を取るものの頭部はない。かなりの瘦躯だが、全長は大型恐竜を軽々と超えるので遠目に見えただけでも近づいてはいけない代物だと一瞬で理解できるだろう


口だけの怪物…そう評したのはあながち間違いではないが、あの夜一瞬それも錯乱した状態のときに見たものだったので若干表現に誤りがある。正しくは“脊椎から牙が生えそろった怪物”だ


体の頭にあたる部分から腰に至るまでまっすぐに生えたゴン太の黒い背骨に、四肢が生えそろっている


本来あるべき頭部はなく、その部位からは肉が肩にかけて盛り上がり、ワニの顎を横向きにしたような悪趣味な“口”がのぞいている


もし神がいるのであればこんなものは作らない、あまりにも奇怪かつ醜悪な存在だった


その手長足長の驚異なのはその膂力で、なんと同ステージの寄生虫ではトップである。それを異常に長い手足で繰り出してくるというのだから、目を離したすきに頭をねじ切られてもおかしくない


現に戦闘は舞村は肉をいくつか持っていかれ、手長足長の圧倒的有利な状況に収まっていた


(くそもう無理だ…)


血を流しすぎた。連戦につぐ連戦に疲弊した舞村に容赦なく降り注ぐ暴力がどんどんと舞村の戦意を奪っていく


普通、生命の危機に瀕したとき通常の生物は必死で抵抗し、逃げるか徹底的に抗戦するものだが、寄生虫は違う


なまじ常軌を逸した再生力があるばかりに必死さ、生き残ろうという意思にかけ、そのせいかアドレナリンの分泌も少なく、ただ痛みだけが残る


戦局が不利になり、ただ蹂躙されるだけになるとその襲ってくる痛みだけをただ強烈に痛感し、学習性無力感…何をやっても無駄だという結論になってしまうのだ


片脚をもぎ取られ地に倒れ伏す舞村に二の矢、三の矢の攻撃がしかけられる


もう一つの脚も引きちぎる、胸を脚で抑えつけ、両腕を付け根からはぎ取る。だるま状態になった恐竜、舞村を転がすと手長足長は扉のように開いた口から「フォーッフォフォ」と笑ったような鳴き声をこぼせてみせた


黒煙とともにピンクの肉をみせながら再生していく四肢。手長足長はそうはさせるかと両腕で腹部を掻っ捌いて中の本体を露出させようとするが、これがなかなか硬く、簡単にはちぎれない


それはそうだ、本体の周辺の臓器や皮膚は特段強化される。舞村の場合、飲み込むことで本体を取り込んだので腹部や胸部の硬度は鉱石のそれをはるかにしのぐ


裏を返せば弱点がそこにある、ということにもなりそうだが本体は肉体をどこでも移動できるのであまり関係がない。が、舞村は中の本体すら完全に思考の制御下においているのでこの状況では裏目に出る


舞村が思考を放棄しつつある現状、腹部の露出=死だ


なので一刻も早く上に騎乗している手長足長をどかし、再生しないといけないといけないのだが


(イタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイ)


本人にしては早くこの地獄の責め苦を終わらせてほしいところだろう。再生そのものにも痛みが伴う、関節ごと舐られた激痛と再生の苦しみ。ほぼ不死とはいえ、この痛みに、特性である無力感である。いつ諦めてもおかしくない


脳をつぶして、痛覚を断ってほしいとも考えるが、その頭部の再生にも狂気的な痛みが走るのでつまるところどん詰まり、絶望であった


「ギャァァァァァァァァ!!!!」


だが、とうとう腹部が裂かれたとき、生への執着、死への恐怖感が勝った


舞村の胸部が突如強烈に発光し、紫電の輝きとともに膨大なエネルギーを無差別に放ち始める


真上にいた手長足長はひとたまりもなく、腕の一部を溶かされ、吹き飛ばされた


そのすきに再生が完了するも、激痛に悶え苦しむ舞村はまともな思考能力を失い、ところかまわず寄生をあげながら暴れまわる暴竜と化した


一方、吹き飛ばされ何が起きたのかわからないといった様子で特大の口をパクパクと閉じていた手長足長だが、やがて激怒して発狂しながら全身から黒い液体を噴出し始めた


第二形態だ





***


時に、特殊な能力を持った寄生虫が生まれることがある。スポナーからかもしれないし、空母型から生まれた個体かもしれない。出自は問わず、本当に突然変異のように現れるのだ


その個体がどんどんと進化して、上位の寄生虫になるとその能力は開花する


メキメキ…とタールのような液体をまき散らしながら内部から裂けていく手長足長。そして、しばらくすると極黒の、紫水晶の眼球を持つ凶相の邪竜に変化していた


―――【模倣(モーフィング)】、それが手長足長が持っていた能力だった


遺伝子さえ接種してしまえばどんな生物でも同じ姿に変身できるふざけた力。手長足長は舞村の血を浴び、その情報を取り込むと、舞村の肉体に変身したのだ


「ギィヤァァァァァァァ!!!!」

「グギャァァァァァァァァァ!!!!」


変身が完了すると、先ほどの反撃の報復のために一目散に舞村に駆け寄る手長足長、いや恐竜


それに反応し、こちらも発狂しながら迎え撃つ舞村。両竜激突、まともな思考を投げ捨てた二匹の寄生虫による戦闘が始まった


まず最初に先手を取ったのは元手長足長。首筋にかみつくと、その喉笛を噛み千切る


「グギャァァァァァァァァ!!!!!!」


傷みにあえぐ舞村、しかしその攻撃をただで済ますほど弱くはない。喉を嚙み千切られてなお、その後の離脱を許さず胴体をつかみ取ると羽交い絞めにして、さらに顔面にかみつき、動きを封じる


が、その後両足で頭をおさえつけられてしまった


さながら格闘化石のように両竜地面に倒れこむと、かぎ爪でお互いの体を引き裂き始める。とにかく相手を絶命させるために一心不乱にかぎ爪で肉をえぐる


お互い相手の血を大量に浴びまともに眼もみえなくなったとき、戦局が動いた


「グギャァァァァァァァァ!!!!」


舞村が相手の頭部をそのまま噛み潰したのだ、痛みに悶絶し、頭の拘束がとけたところを思いっきり体当たりする


血と露出する脳髄を押さえながら転倒する元手長足長。立場が逆転した。この絶好の好機にやつを仕留める。まともな思考能力もないままに舞村は本能でそう動いた


「グゥェェェェェ!!!!!!」


勢いをつけ、とびかかると首筋めがけて牙を向ける。口いっぱいにさんざんあじわった自分の、血の味が広がる


何度も何度もホチキスで紙にあとをつけるがごとく、喉を噛み食らう。相手が痛みに怯み、弱ったところを腹部をかぎ爪で引き裂き、中の寄生虫ごと活け造りにしようとすると、突如相手の体が強烈な紫に発光する


本日二度目の防御反応だ。この【模倣(モーフィング)】、相手の特徴や能力を本当にすべてコピーするようだ。残酷なことに手痛い反撃を食らう番は今度は舞村のようだ


「ガァァァァァァァァァ!!!!!」


ドン!という爆発音と紫電の光の下、人間のような絶叫を上げ、体中を熱で溶かされ宙を飛ぶ舞村


倒れ伏した二体から吹きあがったおびただしいほどの黒煙が大地を包む。その場はまるで火山が噴火したような事態になっていた、真っ平らな平原なのに


そして、煙が晴れると、ズタズタだった元手長足長も黒焦げにされた舞村も無傷で立っている


いや無傷ではないか、再生による激痛でその頭では「イタイ」という感情しか存在しないだろう


もうお互い察していた、一撃で相手を戦闘不能に持ち込むしかないと


息を整え、自分の本能のままに手脚を動かす


「ギィヤァァァァァ!!!!!」

「ギャァァァァァァ!!!!!」


加速、加速、加速、一直線に相手へと加速し続ける。そして最高速度へと加速しきると、音は彼らについてこれなくなった


世界から両竜の姿が一瞬消える。そして今お互いの体が触れる刹那、舞村は“一回目の”経験を思いだしていた


そして…


―――『爪牙(そうが)


世界からまた二体が現れる。目立った外傷はない…だが、それはすでに“終わった”あとだった


元手長足長の腹と背部から夥しい量の血が噴き出す


「ガギャァ……」


そのままどたりと倒れ伏す元手長足長。避けた腹部から黒い物体、寄生虫の本体が露出していた。すかさずそれを捕食する


すると変身が、だんだんと解けていき、しばらくたつと、そこには大型寄生虫はその大口を開けたまま、干からびた姿で完全に絶命していた


「ギギャァァァァァ!!!!!!!!!!!」


勝利の雄たけびをあげる舞村。またしても生き延びれた。大型の寄生虫相手に再び勝つことができたのである


『爪牙』。相手の背後と、正面に爪と牙の同時攻撃。最初のオリジナルである恐竜型寄生虫が生み出した、恐竜の身体能力と寄生虫のドーピングによる圧倒的な速さを活かした必殺の技


舞村はまさか相手も使ってくるとも思わなかったが


オリジナル(恐竜型)→舞村(殺して奪い取った)→手長足長(その舞村に変身した)


こんな過程を入れてもしっかりと引き継がれているのだから、いかにこの技が最強かうかがい知れるものだ


勝敗を分けたのは完全に経験の差だろう。手長足長はこの技を受けてのも使ったのも初めてだが、舞村はその身に経験済み。それもオリジナルのものをだ


限界まで加速して、相手の体に触れる瞬間。少し正気を取り戻し、あの時の記憶を振り返ったのが勝負の決め手だったのかもしれない


やはり、重要な局面を左右するのはいつだって本人の経験と、それを活かせるわずかな知能なのである


手長足長にはそれがなかった。そして生物として完全に敗北したのである


「グギャァァァァァァァ!!!!ア…ァ…」


ひとしきり雄たけびを上げた後、疲労がさすがに限界にきたのかその場に倒れこむ舞村。こちらも恐竜型への変形が解け、元の人間の男に戻っていく


こうして口だけの怪物…。舞村がこの世界に来た時に一番最初に遭遇した大型寄生虫、手長足長との因縁の対決は“経験者”である舞村の勝利で幕を閉じたのだった



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