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異世界転移の寄生虫(パラサイト)  作者: 黄田田
第1章:寄生虫の世界 A cruel world
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プロローグ

-------人を誘惑するのはいつだって悪魔。


では、悪魔を誘惑するものとは?






身なりの整った美しい少女が暗い廊下に立っていた


石造りのそこは地下牢であり、貴族然とした少女にとっては不釣り合いの場所であったが、少女はそこに人と会う目的をもってやってきていた


「本当にわたくしのこの呪いを解いてくださるんですの?」


地下牢の中の囚人に、である


「呪い?おいおい呪いなんてあるのか知らないがそんなもんは治せないよ。お嬢さんが治したいのは傷だろ?消えない傷」


剃刀のような鋭い中性的な美貌を持った男だった。紫紺と翡翠に光る片方ずつ色が違う両眼は少女をまっすぐに射抜き、牢にこもれる月明かりが影をたらすことも相まって非常に様になっている


その実、ただの変態なのだが


「えぇ、呪傷(じゅしょう)ですわ。わたくしの一族、いえエーリトリッヒ王朝にかけられた血の呪い」


少女はこの国のプリンセスのひとりだった。男は少女にかけられた呪傷を治すことと引き換えに牢から出せと国と契約したのである


「セリーヌ様、私は今でも反対しております。こんなどこの馬の骨かもわからんやつに血の呪いを解けるわけがない」


少女の側近である眼鏡の大男がそう告げる。一人で地下牢へ行くといった少女が心配で無理やりついてきていたのだ


「イヴァン、貴方は黙ってなさい。ではよく見せますわ。王族にかけられた人狼による【血の呪い】を…」


そういって少女は衣を外し始めた。珠のような肌があらわになる


「セリーヌ様!なにもそこまで…こんな男、貴女様の顔を拝むことすら不遜だというのに」

「こうでもしないとよく見えないでしょう」


少女があらわにした陶器のように白い肌は、爪で引き裂かれたような紅い傷跡で覆われていた


「今は多少の痛みで済んでいますが、年に一回やってくる魔獣の月…ブラッドムーンのとき、この傷がまるで地獄の底のように痛むのです」

「多少の痛み?ならいいじゃないか。一回やってくる激痛に耐えればいいだけだ」


なんだ、とあきれたようにつぶやく男、それに激高する側近あり


「多少ではない!セリーヌ様はいつも激痛に苦しんでいるのだ、この呪いがかけられるのは一族に、一人の女性だけ!それに準ずる迫害もセリーヌ様は一手に受けてきた!それを耐えればいいなどと、貴様…」

「先に多少とか言ったのはそっちのお嬢さんじゃーん」

「この野郎…」


殺気立ち、今にも檻を破壊してとびかかりそうな側近イヴァン。それをひょうひょうと躱す男


「セリーヌ様、やはりこの男は信用できない。帰りましょう」

「イヴァン!黙ってなさいとわたくしはいいましたよ」


うっと言葉に詰まってしまうイヴァン。男は感心した。小柄ながらなかなかの迫力だと


「マイムラ・クオン。あなたには国家転覆罪と反逆罪の疑いがかけられていましたが、私のこの呪傷を治すことができれば解放する。そういう契約だったはずです。治せるのですか、治せないのですか」


少々舌足らずでまだ幼いところが見えるが覇気はあった


「いいね。ますます気に入ってきた。こんな子に“虫”を仕込めるとなると興奮するなぁ」

「あぁ、治せるよ」






そういうと男は、口を開け手を突っ込んで見せた。オェェという音と、大量の唾液とともに男のあまりに美しい容姿と相反するようなそれは現れた


「それは…」

「虫だよ。体内で飼ってるんだ」


いっかいの虫にしては大きすぎるそれはでっぷりと太っていて、黒光りし、幼虫のようだった


「これを今からあんたの体内に仕込む」

「ツッッ、認められるわけないだろそんなこと!魔虫を体内に入れるなんて」


虫をみせたとたん、血相を変えてさらに強く拒否するイヴァン。当然の判断である


「これは魔虫っていうより“寄生虫”なんだが…これを取り込むと、なんというか人間じゃなくなる。新たなステージに進化するんだ。病弱で命儚いプリンセスも、2000年は生きる妖姫に大変貌さ」


イヴァンはもう付き合ってられないと思った


「セリーヌ様、やはりこの男は狂っています。あんなものを体内に入れたら御身がどうなるか…。すべて妄言と聞き流し、この気狂いは閉じ込めておきましょう」

「いや、わかりましたわ。どうやってそれを取り込むのです」

「セリーヌ様!」


信じられないといった表情で焦燥するが、セリーヌの意思は固かった


「イヴァン、もうこの方法しかないのです…目の前にいる男は7つの悪徳が一人、【暴食】ですよ。あの死者をも復活させたという大逆者(オプレッサー)です、この男に頼るしかありません」

「私たちの目的のためには…」

「し、しかし…」

「【暴食】マイムラ・クオン、それを取りくむ方法を教えなさい」


ニィィと口角をゆがませる男


「簡単だ。口に押し込めばいい、本来なら胃を食い破って体内を荒らしまわるところだが、この個体はおれが体内で調教してるから問題ない」

「わかりましたわ」

「しかしわからんな。側近もこんなに反対してるんだからやめときゃいいのに、寄生虫は生物を次のステージに押し上げる素晴らしいものだが、厄ネタなのも確かだ。あんたはこれから違う理由で迫害されることになるぜ?」

「それでも、やらねばならないことがあります」


へぇと感心し、男はセリーヌへ寄生虫を渡そうとするが、それを阻む手が一つ


「まて」

「まだなんかあんのか...しつこいねぇ側近さんも」

「セリーヌ様…そこまでおっしゃられるのならば私は否定しません。ですが、貴女様の危険は私の危険、貴女様がそれを取り組むのでしたら私が先に取り込ませていただきます」

「イヴァン…」

「いいのか?あんたも同じ化け物になるってことだぜ」

「騎士は主のもとを離れることなし!」


そういってぐっと寄生虫を奪い取るとそのまま口に放り込み、飲み込んだ。うっと顔を青ざめて息づくが、戻さなかった


「あんたも存外やるようだ、いいぜ、まだストックはある。それでお嬢さん、あんたの執事はどんどんこれから人外になっていくが、あんたも同じ業を負うってことでいいんだな?」


少女の意思ははじめから固い


「えぇ、私たちが国を取ります」

「気に入ったよ」


そういって未来の女王は男が取り出した二匹目の寄生虫を取り込んだ





「出ろ」


ガララ…と重い城の正門が開く


晴れて国外追放となった男。とらえられた瞬間死罪が確定している7つの悪徳人にしてはずいぶんと軽い処罰である


それも契約によって実行されたもの


男はこれから何を思い、どこへいくのか


(おれすっげー強キャラじゃなかったか!?強キャラだよなぁ。気に入った、のくだりとか強キャラ以外の何物でもないよな)


実際はただのミーハーな異世界人なのだが


(あいつらこれからどうするんだろうか、まぁ、どんなに頑張ろうと“オリジナル”のおれにははるか及ばないがね)


ついでにマウント取りでもある




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