何度も何度もざまぁされる元婚約者と、だんだんざまぁに興奮してきた悪役令嬢
「ざまあを書くのが苦手」という友達の悩みを聞きながら書きました。
軽い気持ちでお目通しいただけると嬉しいです。
●1回目●
「メメリアス! 君はドドリアンヌをいじめただろう! 許さん! 婚約破棄する!」
育ちの良い美しい金髪に青い瞳。令嬢なら誰もが憧れる麗しの公爵子息、ザザース様。
彼は私という婚約者がある身ながら、某侯爵が高級娼婦との間に生ませた妾の娘、ドドリアンヌと恋に落ちた。
温室育ちの公爵子息が火遊びに溺れたらどうなるかーーつまらない婚約者は婚約破棄され、捨てられるのが定石だ。
「悲しいですわ! でも、仕方ありませんわね……さようなら」
私はそのまま衆目を集めたまま、断罪の大広間を後にした。
しかし。私は捨てられたあと宝くじを当てて金持ちになって手近な美男子と結婚することになった。
そして元婚約者のザザースとドドリアンヌを断罪した。
相手が悪いとは言っても、断罪でギロチンにかけられたザザースが可哀想で私は気を失った。
●2回目●
「メメリアス! 君はドドリアンヌをいじめただろう! 許さん! 婚約破棄する!」
「悲しいですわ!」
私はそのまま衆目を集めたまま、断罪の大広間を後にした。
しかし。
捨てられた後、金と権力を得てギロチンは良くないと思ったので、サロンを運営して女社会の最高権力者になった。
そしたら私の盲信者になった女たちがザザースを虐め尽くして心を病ませて殺した。
相手が悪いとは言っても、断罪で心を病んで死んだザザースが可哀想で私は気を失った。
●3回目●
「メメリアス! 君はドドリアンヌをいじめただろう! 許さん! 婚約破棄する!」
「かしこまりました! どうかザザース様ご健康に長生きしてくださいね!目覚めが悪いので!」
「えっ!? あ、ああうん」
捨てられた後、私はもう権力から離れようと思って市井のメイドになった。
しかし持ち前の貴族社会ノウハウと豪運によりメイド探偵として活躍した私は、警察の男と懇意になった。
そしたら警察の男がヤンデレになって「君のために胸糞悪いザザースを職権濫用で殺しといたよ!」と言った。
相手が悪いとは言っても、断罪でザザースが国家権力の職権濫用で死ぬのが可哀想で私は気を失った。
●4回目●
「メメリアス! 君はドドリアンヌをいじめただろう! 許さん! 婚約破棄する!」
「婚約破棄するのはいいんですけど、誓ってください。どうか命を大事にしてください。何があっても生き抜いてください。どうか諦めないで。あなたは幸せになってください」
「何!? 怖いんだけど!?」
私の鬼気迫る懇願に怯えるザザース様に捨てられた後、私は今度こそは絶対胸糞悪い展開になりたくないと誓った。
大人しくしていれば何事もなく済む。後ついでにザザース様の身辺も悪いこと起きないように配慮してあげよう。
そしたら周りの人々は「ザザースに無惨に捨てられたのに逆に気遣って差し上げるなんて聖女」と私を信仰し始めた。気づけば知らない間に私は心清らかな令嬢の鑑として持ち上げられ、政治利用されそうになった。
「いや、いやいやいや! もうやだ! またザザース様が死んじゃう、このままじゃ!!!」
私は自分の評判が上がるのを恐れ、ザザース様の屋敷に乗り込んだ。
一人まったりお茶をしていたザザース様が噴き出す。お茶で服がビシャビシャだ。
「ど、どうしたんだい君!? もう僕も反省している、一時の気の迷いで君に恥をかかーー」
「そんな言葉が欲しいわけじゃないんです!」
ええい、もう、やってしまうしかない!!
私は思いきり彼の頬をぴしゃりと叩いた。叩き飛ばした。
「っ……!!」
彼は叩かれた目を瞠り、信じられないと言った顔をして私をみる。私はもう一度、手を振りかぶった。
「ええい! 私は聖女なんかじゃないんです! あなたを恨んでるんです! だからっ! これでおあいこですっ!」
ピシャッ! ピシャッ! ピシャッ!!!
私は初めて人に手をあげたことの罪悪感でめちゃくちゃになった気持ちで気を失った。
ザザース様はこのループでも可哀想だった。頬を赤くはらして涙目になった彼は哀れなほど無様だった。
今度こそ彼が可哀想にならない道を目指そうと心に誓った。
●5回目●
「メメリアス! 君はドドリアンヌをいじめただろう! 許さん! 婚約破」
パァン。
私の平手打ちが、ザザース様の頬を張り飛ばした。ホールに響き渡る景気の良い音。
令嬢のごとくヘタリ……とへたり込んだザザース様に手を貸して、立ち上がらせて間髪入れずもう一度、私はもう片方の頬を張り飛ばす。
「な、ななな……」
「はい、ザザース様は私を公開婚約破棄で貶めました! ですが私もあなた様を衆人環視のもと張り飛ばし、あなたの殿方としての矜持をズタボロにしました! これで手打ちです! 恨みっこなしです! ザザース様、ご関係者各位、不幸にもこの場に居合わせた皆様、それでよろしくて!?」
周りを見渡せば、周りは勢いに呑まれてコクコクと頷いてくれた。
これでよし。
「それではザザース様、ごきげんよう! どうかこれからもお身体を大切に、末長くお元気にお過ごしください!」
「あ、ああ…………」
ぽかんとしたザザース様を置いて、私は現場を立ち去った。
公開婚約破棄&往復平手打ち公開処刑の後、私は特にお咎めもなく平和な令嬢に戻った。
社交界はあの日起きたことをなかったことにしてくれているようだ。皆、居合わせてしまったよくわからない珍事を見なかったことにしたいのだろう。うん、大人の判断。これでよかった。
私は再び平和で穏やかな生活に戻ったけれどーーそこで、何か、私はとても、何かが足りないと思うようになってしまったのだ。
ギロチンにかけられるザザース様。
心を病んで死んでしまったザザース様。
権力濫用にはめられて命を落としたザザース様。
私に叩かれて、涙目で頬を腫らすザザース様。
衆人環視の前で、恥をかかされて男としての矜持を失うザザース様……
「ああ……ザザース様、なんてお可哀想。そしてなんて……愛らしくていらっしゃるの」
私はその夜、自ら魔術電気コンセントの左右に銅線を突っ込んで感電して意識を失った。
6度目の、ループを愉しむために。
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7
8
9
10
...
●N回目●
「メメリアス! 君はドドリアンヌを」
「ザザース様。そこでトラウザーズをお脱ぎになって、お尻をコチラに向けてお突き出しになって?」
「いじめただろう……って、えッ?」
「はいはい、貴方が虐めて欲しかったんでしょう?」
「えっあの、いや、」
「御託はよろしくってよ、さあ跪きなさい。それともドレスを着た女の足に蹴られて踏まれて跪かされて、辱められながらスカートの中を覗くのがご趣味なのかしら?」
「き、君ッ! なんて破廉恥な」
スカートの中、という言葉だけで耳まで真っ赤になって唇を震わせるザザース様。
ああなんてお可愛らしい。艶々の金髪も、真っ白な頬も苦労知らずのお花畑育ちのおつむも、なんて可愛いの。
「破廉恥な? あら貴方は破廉恥なコトをそのドドリアンヌと楽しまれてこられたのではなくて? さあ、ここにお集まりの皆さんに教えて差し上げるのです。婚約者がいる身でありながら、盛りのついた犬のように浅ましく、そこの女に腰を振ったのだと」
「こ、腰を振るなど! 誓って僕は清ら」
パァン。
「余計なおしゃべりしていいなんて、私一言も言っておりませんわよ? もういいですわ、さあ、早く脱いで尻を出して。下着くらいは履いていてもいいでしょう。ほら、皆さんがあなたの痴態を待っていらっしゃるわよ?」
「あ、あああ……」
私のハイヒールに尻を踏まれ、甘く蹴られ。
ザザース様は耳まで真っ赤にして大理石の床に這いつくばる。
みんながひいていることくらい私もわかる。
いいの。
どうせ私はこの後また、感電してループする。
何度でも何度でも、ザザース様を虐めていたぶって、楽しんでループを繰り返す。
「ねえ、ザザース様? 婚約破棄で相手を貶めた人が、衆人環視の前で辱められて全てを失うことを、ざまあっていうんですって。……ざまあですって。ふふ。無様な痴態を愉しむのは、とても楽しいものですね?」
さあ、次のループではーー貴方をどんなふうに「ざまあ」してあげましょうか。
無惨に死んでしまう貴方はみたくありませんの。
けれどーー無様にざまぁされる貴方を見れば見るほど私は、貴方のことが好きになっていきますの。
★★★★★評価していただけると嬉しいです。
お読みいただきましてありがとうございました!
今連載中の作品(コナモノ聖女が食堂開いて魔王様に溺愛されるお話)もよかったら下記リンクから楽しんでいただけると嬉しいです。