表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

91/103

85「僕が行く」


「よぉ婆さん。どこほっつき歩ってたよ?」


 ベトネベルトにお腹を抉られたジンさんがいつもの軽口を叩きました。

 人聞きの悪い事を言いますね。


『ほっつき歩いてもいましたけど、ずっと見てましたよ』


「うへぇ、見られてたんかよ。カッコ(わり)いとこ見てんじゃねえや」


 そりゃあ見てますよ。

 リザの事も心配ですけど、同じくらい貴方たちの事も心配しているんですから。


『せっかく良い話を持って来てあげたんですけど、そんな事を言うんならリザのところに戻っちゃおうかしら』


「え!? 教えてお婆ちゃん!」


 アレクが慌てながらも満面の笑顔でそう言います。

 良い話、って最初に言いましたからね。期待しちゃいますよね。


『良いでしょう。話してあげます』


 にっこり微笑んで、んんっ、と(しわぶ)き一つを挟んで勿体つけて――


『リザがあのフル(キショ)を撃破! 現在こちらへ向けて全力疾走中です!』


 おぉ〜〜、と拍手とともに()()()()声が上がります。

 私が倒したわけでもないのに気分が上がりますねぇ。


「怪我は!? リザ怪我なんかしてない!?」


 どうしましょう……でもまぁ一発食らった事なんか言わなくても良いですよね。優しい嘘というやつです。


『ええ。怪我一つありません。ピンピンしていますよ』


「やったね! それでこそ僕のリザだ!」


 そう言って喜んだアレクがジンさんを見遣ってニヤリと笑って見せました。


「約束守れなかったのジンだけだね」


「うるせ! 俺は姫さんと約束してねえっつうの!」


 確かにジンさんは約束していませんが、実際怪我らしい怪我を負ったのはジンさんだけです。

 アレクは完全に無傷で魔力消費も抑えて戦っていましたから十全。

 レミちゃんは魔力消費は激しいですが無傷。

 逆にジンさんの魔力消費は大した事ありませんが、こう見えて割りと重症です。


 元気に会話していますが、それも隣で眠るレミちゃんの癒しの魔術(ヒール)のお陰です。なんとか傷が塞がっただけでまだまだ痛いはずですけどね。


 でもね、ジンさんが怪我したのもレミちゃんを守る為に負ったものなんですよ。



 アレクと対峙していたベトネベルトは()が悪いと判断すると、すぐさま狙いをレミちゃんに変更しました。

 魔物に対して魔術を放ったレミちゃんの隙をついたベトネベルトが攻撃を放ち、それにジンさんが即座に割って入ってお腹で手刀を受けたのです。


 貫かれた手刀が背からチラリと見えつつも、ジンさんお得意の身体硬化を使ってがっちりキープ。


 お腹から口から血を噴きながら――


『ぐっふ――アレク! やっちまえ!』


『任して!』


『ギャァァァ!』


 という展開で、見事に核を砕かれたベトネベルトは絶叫と共にその体を崩壊させたのです。


 フルに比べて他の魔族はシンプルで良いですねえ。ってそれが普通なんですけどね。



「元はと言やぁ、オメエがとっととやっつけねえから――……お、起きたんか?」


 なんだかニヤニヤしながら眠っていたレミちゃんが目を覚ました様ですね。



「好き……」


「……は?」


「もっとして――」


「――はぁっ!?」


 寝ぼけ(まなこ)でキョロキョロと辺りを見回したレミちゃんが続けて言います。


「ロン様は?」


「……はぁ。そんなこったろうと思ったよ。ロンの野郎はちっとも姿を見せねえよ」


 照れっ照れに頬を染めたジンさん。さすがにドギマギしますよねぇアレは。

 寝起きの女の子ってただでさえ可愛いのに、ぼんやり虚ろな目付きのレミちゃんに『好き……もっとして――』なんて言われちゃね。


 ナニをもっとしたら良いの!?


 なんてオロオロしちゃいますよ、私なら。

 ニヤニヤしていたレミちゃんはきっと素敵な夢を見ていたんでしょうね。



「そんで? 姫さんとロンの野郎はいつ頃来るんだ?」


『リザは順調なら夕方には。ロンは――』


 こちらもどうしましょう?

 今はまだボカしておいた方が良い気がしますね。


『ロ、ロンの事は心配しないで――』


「ロンの心配はしてねえ。ロンがちゃんと仕事すんのか心配してるだけだ」


 ぐっ――。

 ジンさんのクセに正論ですね。


『それも大丈夫です。ロンとカコナにはちゃんと考えがあるようです。二人を信じて良いと思います』


「カコナ=チャンも噛んでんのか……なら、まぁ信用すっか」


 ロンが信用できなくてもカコナは信用するんですね。ちょっと不思議ですけど、基本的にジンさんは女の子に甘いところがある、ような、なんかそんな気がしますものね。



「お婆ちゃまだ」


『あ、起きました? どうですか? 魔力の方は』


「三割程度」


 指を三本立ててそう言います。

 まだまだ頼りないですね。リザが来るまではジンさんの復調も難しいですし、ここはアレクだけが頼りですね。



「おい。おかしな透け透けチビトロルと談笑してる場合じゃないぞ」


 あら、いらっしゃったんですね、アドおじさん。なんてね。

 相変わらず縛られたままなのに、普通に輪に混ざってて違和感なさすぎです。

 リザの活躍を聞いて普通に、アレクとジンさんと一緒に『おお〜〜』と喜んでくれてましたし。


 倒されたのは貴方の甥っ子なんですけどねぇ。



「来たぞ。quatrième(くわとりめ)、アンテベルトだ」


 アドおじさんから数えて四番手ですか。

 襲来が思っていた以上に早いです。

 いかにリザが全力で走ったとしてもさすがに間に合いません。


 ジンさんもレミちゃんもまだまともに戦える状態ではありませんがどうしましょうね?



「僕が行く。二人は休んでて」


 右手をそっと左手首に置いたアレクが、焦りも気負いも見せずにそう言いました。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] レミちゃんの無自覚攻撃!!! ここにロン様がいれば良かったのにね!! いやここはジンさんが◯◯◯(なろう的配慮)でも私は全然喜びますけどね?! 続きはムーンで…( ˘ω˘ ) おじさん……
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ