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39「言ってはならない言葉」


「ぅぅ、ぅぅうううう――。……アレクちゃんの……おたんちん――」


「アレックス! キスニ姫の気持ちも考えなさい!」


 アレクはアレクなりに、きちんと二人に対応したはずですが、はい分かりました、と簡単に行かないのが人の心ですよね。


 勿論、ボラギノ女史の言い分も分からないではないんですけどね。



「――ねぇボラギノ。僕はどうすれば良いの? キスニの気持ちを考えて、自分の気持ちを無視するのが正解なの?」


「――む、無視しろ、とは言いませんが……しかし、キスニ姫は貴方の為にわざわざ精霊武装を――」


 ふぅ、と一つ溜息をついたアレクが続けて言います。

 声音は優しく、しかし有無を言わさぬ迫力を以って。


「だったらそれいらない、持って帰って。もしアネロナ王が、キスニと結婚しないなら勇者認定も剥奪する、って言うならそれももういらないよ。アネロナ王にそう伝えて」


「――アレックス……貴方……復活した魔王は……、ザイザールの復興は……、どうす――」


 そう言えばボラギノ女史たちはデルモベルト復活の報から先は知らないんですよね。まぁ、そんなに問題ありませんか。



「僕は僕のできることをやるよ。勇者認定を取られちゃうのは正直キツいけど、それとこれとは別の問題だもん」


 なんと言ってもアネロナの勇者認定ですからね。


 女神ファバリンへの信仰心を集めてバフとするんですから、大国アネロナの勇者認定を受けるという事は、人族最強へと繋がる一番の近道ですものね。


 以前のアレクであれば、勇者認定を得る為、すなわち全ての魔族を葬る為に、自分の気持ちを無視することが出来たのかも知れません。


 しかし、今のアレクは――



 アレクがチラリと家具屋の方へと視線を遣ってから続けました。


「僕はもう、自分の気持ちを無視する事はできないよ。ごめんねボラギノ」


 嘘偽りのない自分の言葉を投げ、さらにきちんと謝ったアレク。


 かつてザイザール陥落の際、アレクを胸に抱えて弟ノドヌさんとともに命からがら亡命したボラギノ女史。


 確かその時、御主人とお子さんを亡くされている筈のボラギノさんにとって、故国再建と魔族への復讐だけが望みであり、その唯一の希望がアレクだったのです。


 その手塩に掛けて育てた我が子同然のアレク。


 思うところもあるでしょうが、アレクの成長を目の当たりにしたボラギノさんは、アレクに向けて頷いて、少しだけ微笑んで見せました。


「……ボラギノ――」




 けれど――


 それを良しとしない者もいました。



「キスニは認めない!」


 立ち上がり、肘やドレスに付いた砂をパンパンと(はた)いたキスニ姫が再び叫びました。


 家具屋の方を指差したキスニ姫は、()()()()()()()()()()()吐き出してしまったのです。


「アレクちゃんはトロル女に騙されてるの! その巨大な筋肉! 大き過ぎる顎! 紅髪とコントラストのあり過ぎる緑のお肌! その()()()()()()()()()に騙されてるの! だってキスニの方が一億倍可愛いんだから――!」



「――キスニっ!」


 パンっ! とキスニの頬から乾いた音が響くと共に、再びキスニ姫がズザッと地面に崩れ落ちました。


「――酷いっ! キスニ……キスニ誰にも叩かれた事ないのに……アレクちゃんのバカッ!」


「「アレク殿!」」


 アネロナから共に来た数人の警護の者たちがアレクへ詰め寄ろうとしましたが、それをアレクはひと睨み。


「――キスニを連れて行って」


「しかしアレク殿! 姫に手を上げ――」


「――僕をこれ以上怒らせないで!」


 警護の者たちはアレクの言葉にビクリと体を震わせて、窺うようにボラギノ女史へと視線を走らせ、女史が頷くのを見た途端にキスニ姫を抱えて駆け出しました。


「――も、戻りなさい! 戻ってアレクちゃんを……引っ(ぱた)きなさ――」


 騒ぐキスニ姫の声が徐々に遠ざかっていきました。



「リザ! ごめん、僕のせいで!」


「…………貴方のせいではありませんよ」


 アレクは直ぐにリザの(もと)へと駆け寄り言いましたが、リザは間髪入れずにそう返しました。


「なんなのよあの女! アレクちゃん! あんなバカで無礼な女連れてこないでよ!」


 カコナがリザの代わりとばかりに怒りを露わにして言い、アレクは心からすまなそうにゴメンと謝りましたが、当のリザは心ここに在らずとぼんやりしています。


 ちょっとリザ。

 貴女、目の焦点が合っていませんよ。


「――リ、リザ姫さま! ちょ、ちょっと! 大丈夫なの!?」


 ぐらりと傾いた己れの体が真っ直ぐに保てない様で、リザはグッと手摺りを掴んでなんとか支えはしましたが、ゆっくりとカコナの体にもたれる様に倒れ込んでゆきました。



「リ、リザ姫さま! ちょっ――ちょっと待――、アレクちゃん! 支えて――早く支えて支えて――!」



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