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31「一肌脱ぐ時」


 王城まで駆け続け、自室に飛び込んだリザがベッドに突っ伏しました。


 何事かをブツブツと、思ったよりは大きめの声で呟いていますね。



「わたくしなんかが……醜いわたくしなんかが……」


 うわ言の様にしばらくそう続け、少し涙声になったりもしましたが、ようやく落ち着いたのかのそりと起き上がりました。


 ベッドに腰掛けて水差しから水を注ぎ、乾いた喉を潤します。


 そしてぼんやりと視線を彷徨わせ、しばしジイっと床を見つめたかと思うと突然顔を赤らめて、そして再びベッドに突っ伏してはブツブツを始めました。



 これは重症ですね。


 でもまぁ、いつものリザなら御飯時には元気に食事も摂るでしょうし、そんなに心配いりませんかね。


 と、そう思ったんですけどね。


 お昼時、ジル婆やが呼びに来ても「食べたくありません」と応え、夕食時、ニコラ爺やには「お腹が空いていませんの」と。


 これは本格的に重症ですね。

 どう致しましょうか。


 これは、遂に()()()()()()時でしょうか。


 そうですね。

 ただただ傍観する者、なんて言ってはおれませんね。


 私にとっても可愛いリザの為ですもの。




◇ ◇ ◇



 日付が変わろうかという深夜。


 私も意を決してリザへ声を掛けました。



『……リザ。……眠っていますか?』


 大きな声ではないですが、心に直接呼び掛けましたから、仮に寝ていたとしても反応する筈ですけれど。


「…………どなた?」


 ほらね。


『貴女が手入れしているお庭で待っています。来れますか?』


「…………分かりました。伺いますわ」



 ああ良かった。ホッとしました。


 リザのお部屋でお話ししても良かったんですけど、王の部屋にも近いですからね。

 声が聞こえて怪しまれたら大変ですからね。



 リザは速やかに、ロング丈のネグリジェの上から普段着ドレスを着込み、そっと物音を立てない様に王城敷地内の庭園へと向かってくれました。


 ややおっかなびっくりで現れたリザは真っ直ぐに、私が佇む薔薇の植込みのもとに歩みます。



『遅くにごめんなさいね、リザ』


 少し()()()()()()()()筈の私に向かって、リザは怯える事なく返事を返してくれました。


「……それは構わないのですけれど、これは一体?」


 リザは私の周りを揺蕩う、仄かに明るく光る灯りを視線で追ってそう言いました。


『久しぶりに私が姿を見せたからでしょうね。精霊たちも喜んでいる様です』


「……精霊が……、貴女は一体?」


 今この国でもっとも精霊(マナ)に愛されているのは間違いなくこのリザでしょう。

 ただ、申し訳ないけどこの国の()()()()()もっとも愛されたのは私でしょうからね、こればっかりはしょうがないでしょうね。


『私はね、貴女にとってみたらお婆さんみたいなもの。ただ、ずっと古い――』


「あ! まさか……っ!」


 もう気付いちゃいましたか? 案外鋭いですね。


「お婆さまですね!? 確かに亡き父や母からも、お婆さまはトロルにしては小さい体だったと伺いました!」


 いや、あの、現アイトーロル王の亡くなった奥方――リザの祖母――は確かに小さい娘だったけど、小さいと言ったって百八十センチくらいはあった筈ですよ。

 体格だってスリムな娘でしたけど、リザほどでないにしたってカルベほどのバルクは十分備えていました。


 それに比べて私。


 百五十センチ程度の背、バルクなんて言う必要を感じない筋肉量、どちらかと言えばアレクの様な体型のおばあさんトロル。


 トロルらしさはお肌の緑色と紅い髪くらいのものですの。



「初めましてですね、お婆さま。エリザベータ・アイトーロルにございます」


 ドレスの裾を指で摘んで少し持ち上げて、優雅なお辞儀のリザ。……まぁ、訂正する事もありませんか。


『初めまして、リザ。と言ってもね、私はいつも貴女の事を見守っていましたよ』


「え! そうだったんですか……」


 リザが少し口籠もって、最近の少し恥ずかしいところなんかも見られていたか、とちょっと気まずい気持ちらしいですね。


『それでね。今夜は少し貴女とお話がしたいなと思いまして、この、ちょっと透けちゃう体で()()きちゃいました』


「お話し……ですか?」


『そう。女神ファバリンのお話しなんて、今の貴女にちょうど良いかと思ったの』




 リザ。貴女も毎日祈りを捧げる女神ファバリン。


 彼女は死後に女神となった訳ですが、生前はただの何にでも首を突っ込む、ただのお節介な姫だったのです。

 彼女の伝説や逸話は多くありますけど、不思議に思ったことはありませんか?


 彼女はかつて、人族の国アネロナで宰相の悪事を暴いて懲らしめました。その時彼女は人族の姿だったそうです。


 しかし、また別の伝説では、獣人の国トラベルミナで内戦を食い止めた際には背の小さなウサギ獣人の姿でした。


 さらに、エルフの国セパアナでは耳の長いエルフの姿、魔族の国ロステライドでは魔族の姿。



 そう、ずいぶんと以前からね、色々な国で同じ主張があるんですよね。


 女神ファバリンは自分の国の者だ、と。



 ここまで話せばね、今の貴女ならお分かりでしょう?




「……女神ファバリンは……まさか、変身能力のあるトロルなのですか?」


『そ、正解。わた――ファバリンのフルネームは、ファバリン・アイトーロル。かつてのこの国の姫だったのです。これは間違いなく真実。()()()()請け合います』


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