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28「三つの嘘」


 スィン、と剣先を(しな)らせながら振り、レイピアに血振を一つ与えたアレク。


「さ、帰ろっか」


 アレクは一滴の返り血も浴びていません。さすがに圧倒的ですね。



「……ば……ばかな……この私が手も足も出せず――?」


 若い魔族レダ・コルトが血溜まりに崩れ落ちたままで呟きました。こちらもさすがの生命力ですね。


「あれ? まだ生きてるの?」


「いや、もう死ぬ。たとえ魔族でもあれでは助からん」


 これまたさすが元魔族で元魔王のロン。魔族の生命力について詳しい筈ですよね。


「この私が……、そんな()()()な精霊武装の勇者なぞに!」


「ちゃちって……酷いなぁ、お気に入りなのに」


 自分の手に握られたレイピアを見遣り、不満げにそうアレクが呟きました。

 でもまぁ、実際にレダの言う通りなんですけどね。


 アレク愛用のレイピアは精霊武装としては最低レベル。

 実は鎧なんかも備わってはいるのですけど、素の防御力とあまり変わらないので使いさえしないのですよね、アレクって。


 どうやらレダの体も限界のようです。

 崩れ落ちた体から、魔力の黒っぽい光が溢れ出してきました。



「魔王ジフラルト様に……! 魔族の神デセスの加護が、ありますよう……に――!」


 カァッと一瞬大きく光が爆ぜ、砕け散るようにレダの体が消滅しました。


 人族に比べて魔力の大きい魔族の最期はいつもこう。目にするたびに物悲しい気持ちになりますね。



「なんのお話しだったと思いますか?」


「……恐らくは、デルモベルトの弟ジフラルトが魔王の種を受け継いだ、それを喧伝に来たのかと……」


「ジフラルトというのがデルモベルトの弟だというのは本当なのですか?」


「……それは本当です」



 今は人族の姿をしているのに、なんだかあちらの事に詳しそうな発言をしてしまっているロンです。

 けれどカコナもチヨさんも突然の出来事に、そこまで意識がいかない様で何とも思っていないみたいですね。



「よし。じゃ帰ろっ!」


「……あのぉ。これで今回の依頼は終了?」


 そう言ったのはカコナです。

 無理もありませんよね。特に詳しい説明があったわけでもなく連れてこられて、安全だと聞いていたのに前魔王のお化けや魔族の襲撃、怯えもしますよねぇ。


「終わりだよ! だよね、ロン?」


「ああ、終わりだ。カコナもチヨの旦那もご苦労だったな」


「俺は何にもやってねえけどよ! ガハハハ! まあ終わったんならいっか! ガハハハ!」


 そう言って笑うチヨさんですけれど、ロンも含めてみんな分かっていますよ。

 さりげなくカコナを守ったり、大きな体に似合わない細やかな気配りを。




 一行の帰路、チヨさんがロンに尋ねました。


「今回の件、アイトーロル王なんかには報告するだろうが、俺たちは内緒にした方が良いよな?」


 それに対してロンもアレクもリザまでもがニヤリと笑んでみせました。


「いや、大いに触れ回ってくれ。ギルドにも街の者にも」



 これが今回のロンの策なんです。


 一つ目の嘘、

『勇者アレクが倒した魔王デルモベルトがお化けとなって現れたが、アレクの手により再び倒し消滅した』


 二つ目の嘘、

『そしてデルモベルトの『魔王の種』はその弟に受け継がれた』


 この二つを同行者に見せつけ噂を広め、特にアネロナに対して魔王復活騒ぎと勇者パーティによる誤報を有耶無耶にしてしまおう、という考えだったのです。


 あんな学芸会をやらなくてもなんとでもなったような気もしますけど、三人とも楽しそうでしたし、まぁ良いですかね。



 ただ、若い魔族レダ・コルトの登場により、どうやらジフラルトが魔王になった事は本当の事になってしまった様ですけれど。




 魔の棲む森を出て一泊のキャンプを経て、そしてアイトーロルへ辿り着き、一行は速やかに仮パーティを解散しました。


 疲れ果てたカコナは惰眠を貪り、チヨさんはギルドや街で大いに触れ回り、リザ達は王やニコラに報告です。



 十年振りに顔を見せたロン・リンデルに、王もニコラも大いに喜びました。


 そして第三の嘘をここで披露です。


「なんと! お主は魔族の国ロステライドへ潜入していたと申すか!?」


「え、ええ、この半年ほどの事ですが……」


 これでロステライドの事に詳しくても変に思われないんじゃないか、これはリザとアレクの提案でした。

 どこかでボロが出そうですけどね。



 そして丸二晩に及んだリザの外泊を咎める事もなく、王もニコラも神妙な顔で報告を聞きました。



 魔王デルモベルトの脅威は去った、しかし新たな魔王・ジフラルトの存在、けれどまだ猶予はある、そんな報告ですね。



 全てを聞き、うぅむ、と唸ったニコラが結論を求めました。


「では、我々はどうすれば良いとお考えか?」


「そうだね。引き上げた警備レベルを戻して、いつも通りにすれば良いと思うよ」


「アレク殿は?」


「とりあえず僕もおんなじ。いつも通り魔の棲む森とその向こうへの警戒だね。じきにアネロナから精霊武装が届くだろうけど、ロステライドに突っ込むには他にも色々と準備もいるしね」



 数年は大丈夫、とロンは言っていましたが、それは魔王の種を芽吹かせたジフラルトが攻め込んでくるまで数年はかかる、という意味ですものね。


 魔王の種が芽吹く前のジフラルトを倒す、アレクであれば当然それを選ぶでしょうね。




あれ?

今回は……今回も? 恋愛要素、皆無じゃないですか?


……まぁ、今更ですね。

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