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17「魔王デルモベルトとロン・リンデル」


「だから! それが信じられないと言っているのです!」



 残念ながら魔王だった、そう言ったロンの言葉へリザが反駁(はんばく)します。

 リザのその反応、当然ですよね。

 普通に考えれば、私なんかもそう思いますもの。



「貴方が魔王? 何を馬鹿な……貴方は十年前も今も、現に人族ではないですか!?」


「…………」

「…………」



 リザらしくない大きな声でリザがそう言い募りますが、男性二人、アレクもロンも反応を示しません。


「二人とも何を黙っていらっしゃるの?」


「ごめんねリザ。僕に分かるのはこのロン・リンデルという彼が去年僕が倒した魔王デルモベルト本人だという事と、どうやったかは知らないけれど今は人族だという事。その二つだけはやっぱり間違いないよ」


 アレクのその言葉を受けて、リザとアレクの視線がロンへと集中します。


「……姫は聞いたことがありませんか? かつてのトロルには変身能力があったという事を」


「……え? トロルに変身能力……? わたくしは存じ上げませんが……」


 リザがアレクへと視線を遣りましたが――


「僕も知らないよ」


 ――そうでしょうねえ。トロルの姫たるリザが知らないんですから。

 当然私は知っていますけどね。物知りですから。



 ずいぶんと昔まで遡らなければなりません。

 それこそ、この私が()()()()()()まで遡る必要がありますね。


 かつてのトロルには確かに変身能力があり、大きくも小さくも、人族や魔族、さらには魔物にまで、生き物ならば何にでも変身する事が出来ました。



 こちらの世界以外のトロルにもそのような伝承があるらしいですからね。気になった方は調べてみるのも良いでしょうね。


 そちら(読者様方)の世界のトロルについては詳しく知りませんが、こちらの世界のトロルはその身に宿る精霊力を使う事で変身を行なっていたのです。


 しかしいつの頃からか、その精霊力の質が変質し、変身を行えない者が増えました。

 そして今ではどのトロルからも変身能力は失われてしまったんです。


 関係があるかどうかこの私にも分かりませんが、その頃からトロルの体は今の様に大きくなったんでしたね。




「その――、その変身能力が――、一体なんだと言うのですかっ!?」


 リザの声に頷いたロンが、左の袖を少しめくり上げて言います。

 そこにはアレク達の精霊武装に雰囲気のよく似た腕輪が一つ。


「十数年前、この腕輪を魔王城で見つけたのです」


「――だ、だからそれが――」


「これは『トロルの腕輪』。これを使えばかつてのトロルの変身能力を手にできるのです」



 あー……、はいはいはい。


 リザが信じられないという顔をしていますが、私はそうでもありません。

 見た目はアレクたちの精霊武装によく似たもので、確か原理的には全く異なるもの……というか、それ。


 今の今まですっかり忘れていましたが、かなり昔に私が作ったものですね。



「……それが真実(ほんとう)だと言うのならば……、今ここで魔族に……魔王になってごらんなさい!」


 ワナワナと震えつつ、目には薄らと涙を溜めたリザが声を荒げてそう言います。


 リザにとっては複雑ですから。

 十年前に恋した、この国を救ってくれたロンが魔王などと信じたくないのでしょうね。



「すまないリザ姫。それはもう出来ないのです」


「――っ! ほら見なさい! どうせわたくしを騙そうと二人で話を合わせていたのでしょう!?」



 ロンがちらりとアレクの事を見遣り、そして再びリザへと視線を戻しました。


「俺は……、魔王だった俺は……去年、死んだのです。この腕輪のお陰でロン・リンデルという仮の姿で生かされているに過ぎないのです」


「――っ、で、では! 十年前にこのアイトーロルを救ってくれたのは――!?」


「あれも間違いなく俺です。しかし、まだあの時は『人族に化けた魔族デルモベルト』でしかなかったのです」



 ……………………。



 ロンの告白を聞き、難しい顔をしたままのリザも黙ってしまいました。

 未知で尚且(なおか)つ驚きの情報がちょっと多すぎたせいでしょうかね。



「さすがにリザは戸惑っているみたいだけど、僕はなんとなく納得しちゃったよ」


「…………そう。わたくしには何が何だか……」


 アレクは落ち着いた素振りでリザとロンに『冷めちゃうよ』と紅茶を勧め、自分でも一口飲み下してから話し始めました。



「僕がこれまで疑問に思っていたけど納得した事。聞いてくれる?」


 リザもロンも、カップに口をつけたまま目顔で頷きそれに答えます。


「ありがと。――それはアイトーロルがはぐれ魔竜に襲われたほぼ同時期、僕の祖国ザイザールが魔族に襲われた事と関係するんだ」


「……本来であればアイトーロルから援軍を出す筈だったのです……。本当にごめんなさ――」


「――何言ってんのさ。アイトーロルに、ましてやリザに責任なんて一つもないよ。だから謝らないで」



 そうでしたね。

 アレクの祖国、ザイザールが魔族に蹂躙されたのはアレクが二歳のちょうど十年前。


 勇敢な乳母と護衛の二人のお陰でアレクは難を逃れたと聞き及んでいます。



「僕を助けてくれたウル姉弟。アネロナに落ち延びてからも二人は僕を育ててくれて、剣や魔法、それにザイザール最期の時のことも教えてくれたんだ」


 ウル姉弟、私もお会いした事はありませんが、噂は聞き及んでいます。

 姉が乳母で、弟が騎士団から選ばれた護衛だそうですが、二人とも相当な腕利きだそうですね。武力的に。


「二人からは……、ザイザールの最期に現れた魔族の名は、デルモベルトという名だったと聞いてたんだ」



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