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10「アレクと魔族と」


 アレクの魔族への憎悪というのは物凄くてね。

 それと言うのも、アレクは今でこそ騎士国アネロナで勇者認定を受けていますが、母国はその姓と同じザイザールという小国。


 ザイザールはアイトーロルから見て南方の、小さな国ながら馬畜の盛んな国として騎士国アネロナとは昵懇(じっこん)の仲でした。


 しかしそれは十年前、(いま)だ幼いアレクがさらに幼い二歳の時、魔族に蹂躙されてあっさりとザイザールは滅びました。


 幸いと言いますか、王家の一粒種である王子アレックス・ザイザールだけが、アレクの乳母と護衛を務める()()姉弟の手によりアネロナへの亡命を果たしましたの。


 ザイザールでの蹂躙は本当に酷かったそうです。

 恐らく生き残ったのはアレクとその乳母と護衛の三人だけ。

 

 しかも魔族の軍はザイザールを蹂躙するだけ蹂躙し、けれど占領する事もなく放置し、アネロナの軍が到着するまで野晒(のざら)しにしたの。


 アネロナの軍によりザイザールの民たちは手厚く葬られはしたものの、屈強な騎士たちでさえ目を背けてしまう程の惨状でした。


 これも幸いと言うのは違うかも知れませんが、アレクは当時二歳。その時の具体的な記憶はほとんどないそうです。


 しかし乳母と護衛の二人はそうはいきません。


 アレクを連れてアネロナへの亡命を果たした二人は、魔族を呪う怨嗟の声をアレクへ向けて囁きながらアレクを育て、鍛えました。


 そして出来上がったのが、人族最高峰の力を持ち、魔族を絶対に許さない勇者アレクという少年なのです。






「王様。最上級の警戒の要請、それに魔族の国ロステライドへの侵攻許可を求める旨をアネロナへお願い致します」


 アレクの言葉にアイトーロル王が頷いて答えます。


「分かった、そのように(したた)めよう。ジルよ、ニコラをここへ」


「あいよ。ちょっと待っておくんなせえよ」


 ジル婆が(おもむ)ろに壁に近付き窓を開きます。


 開いた窓へ向けて大きく息を吸い込むジルを横目に、アイトーロル王が両手で耳を塞ぎました。


 あ、アレク達が――


「クッッソ爺ぃーー! 王がお呼よびじゃぁぁあ゛あ゛!」


 ――遅かったですね。

 ジルの大声に勇者パーティの三人も慌てて耳を塞ぎましたが、時すでに遅く、三人ともに目を白黒させています。


 三人がお互いの耳へ向かってアーとかウーとかやっている内に、ニコラがノックもせずに部屋へ踏み込んできました。



「こらクソばば! 大声で呼ぶなとあれほど――」


「ここは大国ではないんじゃ! 爺い一人呼ぶのに人をやる余裕はないし自分が行くのは真っ平御免だし、大声が一番理にかなっとるわぃ!」


「ぬぅぅ、クソ生意気なクソ婆ぁめが……」



 アレク達は心配そうに二人の老トロルを見詰めますが、慣れっこのアイトーロル王は特に心配していない様子。


「二人とも、じゃれるのもそこまでにせよ」


「じゃれてなどおりませぬ!」


「いや、なんならもう、再び一緒になって家でじゃれよ」



 アイトーロル王の言葉を受けてお互いの顔を見遣ったニコラ爺やとジル婆や。


「「――ふんっ!」」


 お互いに鼻を鳴らしてそっぽを向きましたが、ここまでがいつも通りの一連の流れですからね。

 特に不安がる必要もありませんのよ。


 実はずいぶん前に離婚したのですけど、根は仲良しですからね、この二人。



「なんでぇ爺さん、バツイチだったとは恐れいったぜ」


「言うてくれるなジン殿。我が生涯唯一の汚点じゃわ」


「けっ、汚点だらけじゃねえかよ、クソ爺いが」



 ……こんなですけど、本当に根は仲良しなんですよ。




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