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処刑人は英雄を夢見る  作者: 田中凸丸
6/19

6話:起動

 カシムとアイシャが駆動鎧の清掃を終えて、一息ついた瞬間、学院全体で大きなアラームが鳴り響く。


「な、何だこの音は!」


「こいつは、・・・いかん!二人共!早く鎧に乗り込むんじゃ!」


 突如鳴り響いたアラームにアイシャが驚いていると、管理人の老人が二人に駆動鎧への搭乗を促す。


「これは、学院内で魔獣が逃げ出した時になる警報じゃ!生身のままじゃ危ない!動かさなくても鎧の中の方が安全じゃ!儂は格納庫を閉鎖する!」


 学院では多くの人間、鎧、魔獣が敷地内に存在し、それに伴い様々な事故も発生する。

 火事や駆動鎧の暴走など、それに対し学院では警報の音を変える事で現在、学院内でどのような事件が発生しているかを生徒や教師に知らせる手法を取っている。

 そして、現在鳴り響いている警報はその中でも最悪のもの、学院で管理しているはずの魔獣が檻から逃げ出し、学院の敷地に解き放たれていることを示している警報だった。


 格納庫の扉に向かう老人、カシムとアイシャは老人の言う通りにそれぞれの待機状態になっている鎧の胸部から乗り込み、鍵を差し込み起動状態にする。


 まさか初めての搭乗がこんな緊急事態である事に驚きを隠せないカシムに対して、アイシャは自らの駆動鎧、カーンバルクⅤ型を動かして、彼女の駆動鎧の近くに置いてあった駆動鎧用の突撃槍(ランス)を右手に持つ。


「ようし、今格納庫の扉を閉鎖したから、暫くは安全じゃ。後は教師陣や警備員の連中が魔獣を捕獲、討伐するのを待つだけ・・・おおい!お嬢ちゃん何武器を持って出口に向かおうとしとるんじゃ!儂の話を聞いとらんかったんか!外には魔獣がいるんじゃ、生徒は安全な場所へ避難、待機するのが決まりじゃぞ!」


『だからです!外にはまだ避難できてない生徒もいるはずです!だったら既に鎧に乗り込んだ私が向かった方が先生達の到着を待つよりも早いです!』


 避難し遅れた生徒たちが、救助を待っている間に魔獣に襲われる事を懸念したアイシャは、自ら動いて彼らを助けに行こうとするが、老人はアイシャの駆動鎧の前に立ちはだかり、通せんぼする。


「それで、お嬢ちゃんが怪我したらどうするんじゃ!ええか!魔獣が逃げ出したっちゅう事は、魔獣を制御する為の首輪をしとらんっちゅう事じゃ!授業で弱っている魔獣の相手とは訳が違うんじゃ!入学したばかりの一年生には無理じゃ!」


『私は既に授業以外で魔獣討伐の経験があります!それに生徒を避難させるだけで、魔獣と戦うつもりはありません!』


「だとしても行かせる訳にはいかんわい!逃げ出したのがどんな魔獣かすらわからんのじゃぞ!」


 どんどんヒートアップして行くアイシャと老人の言い争いに、カシムは二人を一旦落ち着かせようと駆動鎧で二人の間に入ろうとするが、何故か彼の駆動鎧、グライフはうんともすんとも動かない。


「動いてよ、お願いだから。」


 カシムがグライフを動かそうと必死に内部で少ないエーテルを流し込んでいると、アイシャのカーンバルクが格納庫の出口へと向かって行く。

 踏み潰されないように老人が慌てて道を譲ると、遂にアイシャのカーンバルクが格納庫の出口に到着する。


「おい、お嬢ちゃん!本気か!」


『当たり前です!騎士を目指すものとして、目の前で人びとが襲われるのを黙って見ているわけには行きません』


 アイシャの鎧が格納庫の扉の開閉ボタンを押すと、シャッターが上がり、その隙間を彼女の機体が通り抜けて行く。

 カーンバルクが外に出ると今度はシャッターが下り始める。恐らく魔獣が入ってこないようにアイシャが、外側から開閉ボタンを操作したのだろう。


「あの嬢ちゃんホントに向かいやがったわい!一人でどうにかなると思っとるのか!」


『そ、そんなに危険なんですか!』


 怒りと呆れが混ぜ合わさった表情で老人が頭を掻き毟る。

 確かに魔獣は生身で挑むには危険かもしれないが、駆動鎧に搭乗している以上それ程危険はないのではないか?そう思ってカシムが質問をすると、怒鳴り声が返ってきた。


「当たり前じゃ!いいか、この学院は駆動鎧に搭乗する騎士を育成する機関なんじゃ、そんな所で飼われとる魔獣なぞ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、それが何匹逃げたかもわからず、教師が来るまで一人で戦うなぞ、自殺と何一つ変わらんわい!」


 老人の言葉にカシムの表情が青ざめる。アイシャとは特に親しいわけではない、それでも彼にとっては唯一出来た知り合いで死にに行く事に平然としている程冷淡ではない。


『じゃ、じゃあ、早く連れ戻さないと。』


「今更連れ戻しても遅いわい。追いかけていっても、あの嬢ちゃんの鎧が魔獣と戦っている所に割り込むだけじゃ、死人が増えて終わりじゃな。」


『な、何とかならないんですか!』


 必死にアイシャを連れ戻そうとカシムも手段を考えるが、何一つ浮かばない。今搭乗している駆動鎧でさえ、マトモに動かせない自分が情けなくなる。


 それでも何かできる事はないのか?老人に頼るカシムに、老人は大きく溜息を吐くと、カシムが搭乗している駆動鎧を眺める。


「おい坊主、おまえさん、あの嬢ちゃんを助けたいか?」


『は、はい!特に仲がいいわけじゃないけど、それでも魔獣と戦って死ぬかもしれないのは嫌です!』


「なら、一つだけ方法があるぞ。」


『ど、どんな方法ですか!』


「お前さんがその駆動鎧で嬢ちゃんを助けに行くんじゃ!」


 老人の提案に対してカシムは困惑する。何故なら彼が搭乗しているグライフはさっきから指一本動いていないのだから。


『え?でもこの鎧、さっきから全然動かなくて、』


 カシムの台詞に老人は口角を上げて、ニヤリと笑う


「それはお前さんの動かし方が悪いんじゃ。ええか、よーく聞け、今から儂の言う通りのことをするんじゃ、、、」


―――――


(いよいよ、この日が来たか!入学してから一ヶ月、長かったぜ!)


 魔獣脱走の警報が鳴り響く十数分前、転生者であるセルギスは主に正門からでは運び込めない機材を運び込む際に使われる校舎の裏門で、とある人物と物資の到着を楽しみに待っていた。


 当然、転生者でこの世界と同じゲームの知識を持っているセルギスは、後十分程で魔獣が学院に解き放たれてしまうことも知っている。

 普通であれば事前に避難するか、事件を止めようとする所だが、主人公としての活躍とヒロイン達とのハーレムを渇望する彼はどちらも選択せず、シナリオに沿って行動をしていた。


(今日この日、俺専用の駆動鎧が出来上がる!そして同時に発生する魔獣脱走!鮮やかに解決する俺!首謀者のアイシャを問い詰めて事件解決!そしてアイシャは俺のメイドに、ぐふふふふ)


 その端正な顔に似合わない気持ちの悪い笑みを浮かべるセルギス、きっと彼の頭の中では、既にヒロイン達があられもない姿で自分を求めている妄想が繰り広げるられているのだろう。


 彼にとって最高の娯楽だった"蒼天のギア"では、この魔獣脱走事件は、シナリオを進めて行く上で重要なイベントでもあった。


 ゲームのシナリオでは、主人公(セルギス)と平民であるエメリアが仲良くするのを良しとしないアイシャに王国崩壊を目論むカシムが唆し、エメリアを魔獣に襲わせる事を提案、アイシャは魔獣を厩舎の檻から放つのだが、その際に他の魔獣も脱走し学院は大混乱となる。

 そんな中、同日に王宮から専用の駆動鎧を受け取った主人公(セルギス)は、その後駆動鎧を駆り、見事に事件を解決する。

 そして、魔獣を檻から放ったのはアイシャだと仲間の貴族からの密告で判明し、実家から勘当されたアイシャはセルギスの専属の使用人として仕えることになる、と言う流れだ。


 これから起こるイベントを楽しみしていると、やがて裏門に馬を模した荷物運搬用の駆動鎧とそれに引かれている巨大な馬車(コンテナ)が到着する。

 駆動鎧はセルギスの近くで一旦停車し、首のあたりが左右に開き中から搭乗者の女性が出てセルギスに頭を下げる。


「お久しぶりでございます、殿下。予定より鎧の搬入が遅れてしまい申し訳ございません。」


「いや、気にしてないよ。それよりもごめんね。折角の休日なのに学院に呼び出して。」


「仕事ですから、それに私も自分が開発したこの()を殿下の元に早く届けたかったですから。」


 頭を下げたことでズレた眼鏡を治しながら女性が答える。年齢はセルギスと同じくらい、海のように青い髪をおかっぱ頭に切りそろえ、自らが開発した駆動鎧について誇らしげに語る彼女こそ、”蒼天のギア”に出てくるヒロインの一人にして、主人公であるセルギス為の駆動鎧を開発する専属駆動鎧技師であるエステリア=トンベルク、その人である。


 ゲーム内での彼女は、若くして既に王宮で駆動鎧開発に携わる程の才能を持ちながらも、若さゆえに周りから認められずにいた所をセルギスよって正しく評価され、彼専属の駆動鎧の技師となり、その名を轟かせていく事となる。

 またエステリアは駆動鎧の権威であるドクターハワードの弟子であり、偉大である師へのコンプレックスを解決することが攻略のカギとなっていた。


「それでは警備の方から搬入の許可を頂きますので少々お待ちください。」


 セルギスへの挨拶もそこそこに、馬車(コンテナ)に積んだ荷物の搬入許可を得る為、裏門を監視している警備員の元へと歩き出すエステリア、しかし数歩歩いた後、何もない所で躓き”ビタンッ!”という効果音がしそうな勢いで転んでしまう。


 一見、眼鏡と感情が読み取れないポーカーフェイスの所為でクールな印象を与えるエステリアだが、その実かなりのドジっ子だったりする。彼女のルートを真っ先に攻略したユーザーは、そのギャップとそれを隠そうとする可愛らしさに魅了されたと言っても過言ではない。


 今も急いで立ち上がり、服に着いた砂を叩き払うと何事もなかったかのように警備員の元へと向かう。そんな微笑ましい彼女の振る舞いにセルギスが笑みを浮かべていると、けたたましいアラームが周囲に鳴り響く。


(遂に来たか、今までのトレーニングパートとは違ってゲームでは初の戦闘パートだからな。それでも逃げ出したのは弱い魔獣だから、負けることは流石にないか。)


「殿下、大変です!ただ今この学院で管理している魔獣が脱走して、敷地内で暴れまわっているみたいです!直ぐに非難を!」


 突如鳴り響いたアラームに対し、どのような意味を持つ警報なのかを警備員に確認したエステリアが転びながらも急いでセルギスに避難を促すが、生憎全ヒロインを攻略してハーレムルートを目指している彼にはそのような選択肢はなかった。


「いや、それは駄目だ。きっと学院内ではまだ避難できていない生徒達が居るはずだ。彼らを放って自分だけ逃げるわけにはいかない。助けなくては。」


 内心では別にモブキャラがいくら死んでもどうでも良いと考えているが、ヒロイン攻略の為、前世のゲームの主人公の台詞を吐きながらセルギスは学院の中へと入ろうとする。


「お待ちください殿下!鎧もないのにどうやって助けるつもりですが!まさか生身のままで行くと?それでは怪我人が増えるだけです!」


「いいや、鎧ならあるさ。此処にね。」


「・・・殿下、まさか?」


 馬車(コンテナ)を見つめるセルギスにエステリアは確信する。彼は馬車(コンテナ)に搭載されている彼専用の駆動鎧に搭乗して生徒達を助けに行くつもりだと。


「そんな無茶です!本来ならこの後に殿下が搭乗して調整を行う手はずだったのですよ!それを調整なしで動かすなど!」


「頼む、僕はいずれこの国を治める者として、民である彼らを見放すことは出来ないんだ!」


 セルギスの力強い瞳に見つめられ、エステリアも根負けしたのか弱弱しく「・・・分かりました」と告げると、馬車(コンテナ)に向いハッチを開ける。


 ”バゴン!”と力強い音を鳴らし、ハッチが開くと馬車(コンテナ)の中から待機状態の駆動鎧が現れる。

 

 青白赤(トリコロール)の塗装、鋭い目つきのツインアイ、額から後頭部に大きく伸びた角、曲線で構成された装甲、その駆動鎧は主人公らしい(ヒロイックな)デザインで構成されていた。


「これが僕の鎧、、、」


「はい、これが殿下専用に設計した駆動鎧”ユニケロス”です。」


 ゲームでは序盤から二年生になって発生する新機体乗り換えイベントまで搭乗する事になる駆動鎧でそのカッコ良さから、元の世界ではフィギュア化されたほどだ。


 エステリアから起動用のカギを受け取り、セルギスが胸部のハッチからユニケロスに乗り込み、起動させる。重く力強さを感じさせる駆動音を鳴らしながらユニケロスが動き出す。


「殿下、武器については隣のコンテナに用意してありますのでそちらを使用してください。」


『分かった。』


 エステリアの指示に従い、ユニケロスが格納されていたコンテナの隣にあるコンテナのハッチを開き、武装を確認、両肩と背中のハードポイントに固定する。

 武装は軽量で扱いやすく作られているバトルブレード、威力は低いが小型で取り回しに優れるハンドガン型のプッシュガン、近接戦闘用のクローが搭載されているヘビィシールド。

 どれもゲームで使い慣れた初期装備であり、ストーリーが進むにつれて使える武装が増えていく仕様だが、最初の戦闘パートであるこのイベントでは初期装備でも十分な威力を誇っている。余程の事が無い限り、魔獣に負けることは無いだろう。


「殿下、ご武運を。」


『ああ、行ってくる!』


―――――


 本当にこれで動くのか?様々な計器類が並ぶコクピットの中でカシムは自身が搭乗している駆動鎧、グライフの内部に搭載されているエーテルタンクのエーテル充填率を示しているメーターを眺めながら、苦手なエーテルの吸収をして必死にグライフのエーテルタンクへとエーテルを送っていた。


 カシムがグライフを動かし、助けに行けば良いと言う老人はカシムに『良いか、搭乗席の右側に目盛りが刻まれた緑色の筒があるじゃろ、それはソイツ(グライフ)に搭載されているエーテルタンクの充填率を示しておる。まずは目盛り一杯までエーテルを貯めるんじゃ!その後は、、、』

 彼にグライフの動かし方を教えた後、老人は魔獣と戦うための武器を取ってくると言い、フォークリフトで格納庫の奥へと行ってしまった。


 既に十分ほどエーテルの吸収を行っているが充填率は三分の二ほどで、微々たる速度でしか貯まっていかない。

 早くアイシャや他の生徒達を助けに行かなければいけないのに、全く動く気配を見せないグライフ。最初は早くエーテルを貯めようと頑張っていたが、徐々に不安になってきてしまう。本当にこの駆動鎧は動くのか?あの老人が言ったことは本当だったのか?このまま動かなかったらどうする?


 そんな思いから焦っていたカシムだが、更に状況は悪くなる。急に格納庫の扉に巨大な物体がぶつかったのか、大きな音が格納庫内に響いて、扉が大きく内側に凹み一部が角のような物で貫かれている。

 カシムが鎧に搭載されている照準補正器でその様子を眺めていると、角が引っ込み外の景色が露になり、外には犀のような見た目をした魔獣と二つの頭を持つ犬のような魔獣が一匹ずつ格納庫の中を覗きながら、扉を攻撃していた。


「そんな、嘘でしょ。」


 今格納庫にいるのは、動かない駆動鎧に搭乗している自分と生身の老人だけ、どうやっても対処できない状況にカシムは絶望してしまう。しかし、そんな事は魔獣には関係ない、犀のような魔獣が再度、格納庫の扉に突進をし、遂に扉が吹き飛んでしまった。


 内部に入り込み暴れまわる二匹の魔獣。格納庫に鎮座されている搭乗者無き駆動鎧は彼らの角で貫かれ、その牙で噛み砕かれ、鉄屑へと変貌を遂げている。

 

「早く、早く、動いて!頼むから!」


 エーテル充填率を示す目盛りは殆ど充填されている事を示しており、急いで残りの分のエーテルを溜めようと吸収を行うが、次に壊す駆動鎧を探していた犀の魔獣が、グライフを見つけてしまう。


 まるで闘牛のように突撃の体制を取る犀の魔獣、あと少し、あと少しでエーテルを満タンまで貯められるカシム、そしてとうとう犀の魔物がグライフへ突進を仕掛けると同時にグライフのエーテル充填率を示す目盛りもエーテルが満タンまで充填されている事を示した。


『まずは目盛り一杯までエーテルを貯めるんじゃ!その後は、、、思いっきり右の操縦桿から”マナ”を流し込め!』


 様々なエネルギーに変換可能な”エーテル”と異なり、人間の身体機能を強化したり、物質に流し込めるだけしかできない”マナ”、しかもこの二つが合わさると不安定なエネルギーへと変わってしまう。既にエーテルが充填されている鎧にマナを注ぎ込んだら、どうなるのか?考えるのも恐ろしいが、カシムは右腕を包む操縦桿を介してグライフにありったけのマナを注ぎ込む。


「動けええええええええええええええ!!!」


 カシムがグライフへ”マナ”を送り込み叫んだ瞬間、グライフの顔の皮が剥がされたような意匠の頭部に搭載されている右目に相当する照準補正器が赤く輝き、沈黙していた巨人は遂に動き出す。


 ”ドンッ!!!!!!!!”


 犀の魔獣がグライフを貫こうとしたその時、グライフは右足を動かし、犀の魔獣の角を折りながら周りにある駆動鎧と一緒に魔獣を蹴り飛ばす。その威力は凄まじく、趾が前に三本、後ろに一本というまるで鳥の足のようなグライフの足の形に犀の魔獣の顔面が凹んで完全に死んでいるのだ。


「・・・」


 無我夢中で繰り出した蹴りによって、あっさりと倒されてしまった犀の魔獣に、目をぱちくりとさせながらカシムが驚いていると、フォークリフトに武器を乗せてきた老人が格納庫の奥から帰ってくる。


「おお坊主、無事にグライフを動かせたんじゃな、、、って、中に魔獣が入りこんどるではないか!はよもう一匹の魔獣もコイツで倒すんじゃ!!」


『え、でもそんな大きい武器、持てないんじゃ?』


 老人が持ってきた武器は鍔も刃になっている十字を模した剣だが、長さはグライフと同じくらいで幅も広く分厚い、刃の鋭さで切るというよりはその質量で割断するタイプの剣だ。

 通常このサイズの大型の武器を扱える駆動鎧は、重量級且つ高出力タイプの鎧でしか扱えない。見た目からして中量級のグライフでは扱うどころか持つことも出来ないはずだ。


「んなこと言っとる場合か!オルトロスがこっちに向って来とるぞ!」


『え、うわわ!』


 犀の魔獣の仇を取ろうと、いつの間にかグライフに向ってきているオルトロスに対して、慌てて()()()剣の柄を握るとグライフはそれを軽々と持ち上げ、オルトロスに向って振る。


 高質量の剣を叩きつけられたオルトロスは体をくの字に折り曲げさせられながら、吹き飛び絶命する。狭い格納庫内で巨大な剣を振るった為、幾つかの貴族の駆動鎧も巻き添えを喰らい粉々に砕けてしまったが緊急事態故仕方がないだろう。


『な、何この鎧?』


 常軌を逸した出力を誇るグライフ。カシムがそれに驚嘆していると老人が入り口の方を指さす。


「なにボーッとしとるんじゃ!あの嬢ちゃんを助けに行くんじゃろ!早くいかんかい!!」


『あ、は、はい!』


「ええか、ソイツは搭乗者からエーテルが供給される限り動く駆動鎧と違って、駆動時間に限界がある。大体一時間半くらいじゃな。それを過ぎたら、またタンクにエーテルを貯めなければイカンから気を付けるんじゃぞ!」


 老人の忠告を受けながら、大剣を背中のハードポイントに固定し、格納庫から出ていくグライフ。エーテルを貯める為に大分時間を使ってしまった、急がなくては。


「間に合ってくれよ。」


第7話は今週の水曜日に投稿する予定です。

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