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処刑人は英雄を夢見る  作者: 田中凸丸
3/19

3:天使の皮を剥がされた悪魔

 生徒達もある程度、駆動鎧の操縦に慣れてきたころを見計らって女教師が生徒同士で模擬戦を行わせる。生徒たちは皆親しい者同士でペアを作っていくが、生憎嫌われ者のグルム人であるカシムと組もうという人間はいない。

 どうしようかとカシムが悩んでいると彼の乗るアーヴェンクに近づく別のアーヴェンクが現れる。肩に割り振れられた番号から察するに、セルギスが搭乗しているアーヴェンクだ。アーヴェンクに搭載されている拡声器から声が聞こえてくる。


『やあ、君も相手がいないのかい。実は僕も相手が居なくてね。僕が相手だと皆委縮して別の人とペアを組んじゃうんだ。困るよね、僕としては立場とか気にせずに相手してほしいのに。おっと話がそれてしまったね。それで提案なんだけど、互いに相手がいない者同士、僕達で模擬戦をしないかい?』


 いずれは国のトップに立つ男の頼みを断るわけにもいかず、カシムは「分かりました」と返事をし、模擬戦用のフィールドへと向かう。

 駆動鎧での模擬戦は校庭の地面が抉れるなどの可能性がある為、校庭の幾つかの場所に設置された小さな専用フィールドで行う決まりとなっている。また学生間での駆動鎧を使った大会などではより大きなスタジアムで、客を招いての試合もあるそうだ

 そんなことを思い出しながらフィールドに移動するカシムだが、アーヴェンクの歩みは遅く、一歩一歩をゆっくりと踏み出していく間にセルギスの操縦しているアーヴェンクは既にフィールドに到着している。


 漸くカシムのアーヴェンクがフィールドに到着すると、暇そうにしていたセルギムが両手に持っていた模造剣の内、左腕に持っていた剣をカシムに投げ渡す。慌てて受け取ろうとするがアーヴェンクの動きは鈍く落としてしまう。


『それじゃ早速始めようか。勝負は五本勝負、先に相手に一本当てた方が勝ちって事でいいかな?ルールとしては、取り敢えず今日は皆初めて動かしたし、剣のみで”プッシュガン”は無しって事で。』


―――――


 王太子殿下が模擬戦をすると聞いて、既に模擬戦を終えて駆動鎧から降りた生徒や、女教師が集まってくる。

 皆セルギスの活躍とカシムが無様に負ける様を観たいのだろう。先程からセルギスには黄色い声援、カシムには罵倒が飛んでいる。


『ギャラリーが騒がしいけど、気にせず全力でやろう。それじゃあ行くよ!!』


 フィールドに設置されたゴングが鳴ると同時にセルギスが剣を振りかぶりながら突進してくる。その速さは昨日今日で駆動鎧を動かしたものの動きではなく、彼が常日頃から駆動鎧の操縦に慣れていたことを示していた。

 一方のカシムも防御しようとするのだが、アーヴェンクの動きは鈍くそのまま頭部に一本貰ったどころか、頭部に衝撃を受けた勢いで後ろに倒れこんでしまう。あっけなく終わった勝負とカシムの情けないその姿から、周りからは歓声や嘲笑の声が聞こえてくる。


「やっぱりすげえな殿下は、駆動鎧の操縦もしかしたら、一年生で一番うまいんじゃねえか?」


「それに引き換えあのグルムの奴、碌に反応も出来ずに倒れてんの!かっこわりいー!」


「仕方ないわよ”劣等種”のグルムじゃまともに駆動鎧を動かせないんだから、なんたって”エーテル”を集められないんだから」


 駆動鎧を動かすのに必要なエネルギー”エーテル”、基本的にこのエネルギーは搭乗者が吸収した”エーテル”が使われる。一応駆動鎧にも”エーテル”の吸収率を上げる”エーテルファン”や”エーテル”を貯めて置く”エーテルタンク”が内蔵されているものの、前者はあくまで搭乗者の”エーテル”の吸収率を向上させる物で、それ単体で”エーテル”は集められない。

 また後者も”エーテル”を貯めると言っても、貯められる量は精々遠征時に長距離の歩行を搭乗者の代わりに行い負担を軽減する程度で、戦闘で求められるような走ったり、飛び跳ねたりと言った機動を行える量は貯蓄できない(無理にその量まで貯めるとタンクが駆動鎧と同じサイズになってしまう)


 ”エーテル”が多く駆動鎧に供給されれば、より速く、より精密に、より力強く動かす事が出来る。その為、駆動鎧に搭乗している有名な騎士の殆どが優れた”エーテル”吸収率を誇っている。

 逆に言えば、”エーテル”吸収率が人より劣っていた場合、駆動鎧は鈍間な動く的となってしまう。正にカシムがそれだった。

 グルム人は体内で生み出す”マナ”の保留用は優れていたが、逆に”エーテル”を吸収することは苦手としていた。実際カシムの”エーテル”吸収率を他の生徒と比較したら、半分くらいの数値になるだろう。それ故カシムが搭乗しているアーヴェンクの動きは鈍くなってしまう。それこそ”エーテルタンク”で歩かせた方が速いのではないかと思う程に。


『あれ、もしかして僕が王太子殿下だからって手加減してる。さっきも言ったけど立場とか気にせずに相手してほしいんだ。次からは手加減しないでくれよ。』


 セルギスは本気なのか分かって言っているのかわからない発言をした後、カシムの乗るアーヴェンクの手を引いて無理矢理立たせる。そうして再度、両者試合開始と同じ位置に移動すると二回戦が始まる。勿論これもセルギスの圧勝で、カシムには嘲笑の言葉がぶつけられる。そんな第三者視点で見たら、反吐が出るような試合を五本行い、模擬戦はカシムの全敗で終わった。


―――――


「殿下、いくら相手がグルム人とはいえあれは趣味が悪すぎます。」


「いや僕だって好きでやってたわけじゃないよ。ただ他に相手がいなかったし、仕方なくだよ。」


 一日の授業が全て終わり、生徒たちが家や学生寮に帰っていく中、セルギスは自分のお目付け役であるアイシャに校舎裏に呼び出されて説教されていた。

 夕日の沈む中、女子生徒の呼び出し。一見告白かと期待してしまうが、アイシャの役割を知っているセルギスはそんな期待を一切せず取り巻きを引き連れて、アイシャに会いに行った。そして案の定告白など甘酸っぱい展開ではなく、単なる説教だったことにうんざりしてしまう。


「貴方はいずれこの国を治める人物なんですよ!それなのにあのような弱い者いじめのような真似など、もっと国を治めるに足る人物として立ち振る舞ってください。」


「はいはい。」


「殿下!他にも言いたいことがあります。殿下は他のクラスメイトと距離が近すぎます!別にクラスメイトと触れ合うなとは言いません。ですが中には取り入ろうとしくる者もいますし、下手をしたら殿下を見下すものまで現れるかもしれません!もしそうなれば王家と秩序は崩壊してしまいます、分かっておられるのですか?ましてや複数の女生徒に声を掛けて、先程も申しましたが国を治めるに足る人物として、、、」


「だからと言って、クラスメイトと壁を作ったりしたら将来誰もついてこないだろう?それにあのグルムの件も、アイツは動物を虐めるような外道だぞ。その事は教師にも伝えてあって皆知っている。それなのにあのグルムがのうのうと居座ってたら、皆許せないだろう。俺は天誅を下してやったんだよ。」


 セルギスの言葉に取り巻き達が「そうだ!そうだ!」と同意して、アイシャを責め立てる。猫の件に関しては、あのグルム人の男が毒草を食べた猫を助けようとした可能性があるのだが、アイシャがそれを伝えようとしても、遮られてしまう。

 最後にセルギスは、「言いたいことはそれだけか?」といって取り巻きを連れて去って行き、校舎裏にはアイシャだけが残った。


「何度、苦言を呈しても聞き入れてもらえない。王妃様、もしかしたら私には殿下の悪癖を治すのは無理かもしれません。」


―――――


(ゲームだとちょっと口うるさい感じのかわいい子だったけど、リアルだとうんざりするくらい説教臭いなアイツ。一学期の決闘イベントの後はしおらしくなるのに)


 実家が遠く通学が困難な生徒の為に用意された学生寮、その部屋の一つでセルギスはベッドに寝転がりながら今後の事を考えていた。今この部屋にはセルギスしかいない、王子である彼とは恐れ多くて同室など無理だ!と教師が判断し、彼だけ一人部屋となっている。

 だが、それが逆にセルギスにとっては都合が良かった。これから進めていく己の野望の為に。


(せっかく主人公に生まれ変われたんだ。こっちの人生では、本編にはなかったハーレムルートを突き進んでやるぜ。)


 端正な顔を歪ませ笑うセルギス、彼には誰にも明かしていない二つの秘密があった。それは彼が前世の記憶を所持している事と、この世界が前世に存在したゲームと同じ世界である事だ。


(前の人生はクソだったからな。無能な上司に、使えない同僚、役に立たない後輩、でも此処では違う。この世界の俺は王子でしかも主人公。フラグにさえ注意してれば後は楽なもんだ。)


 セルギス=ヴァンドルフの前世、名前は加藤義明、享年28歳。職業はサラリーマンであった彼の人生は不満だらけだった。無茶な仕事やミスを押し付けてくる仕事仲間にこき使われ、毎日疲れ切て自宅のアパートに帰り、一人で炊事洗濯を行っていた。彼女は生まれてこの方出来た事が無く、後輩にすら舐められる毎日、そんな彼の唯一の楽しみがゲームだった。中でも彼の一番のお気に入りのゲームがアダルトPCゲームである「蒼天のギア」と呼ばれるゲームで、主人公の王子が学園に通いながら、ヒロイン達と王国を揺るがす事件を解決していくというストーリーで、エルフやドワーフ、モンスターが登場するファンタジーな世界観に対して、”駆動鎧”というSF的なガジェットが出てくることで話題を呼んだ。

 そして発売されると魅力的なストーリーとキャラクター、駆動鎧を使った本格的なアクションパートで好評を博し、発売から一年後に全年齢版が発売されるほどだった。


 そんな彼の運命が変わったのは、28歳の夏。外回りで疲れて喫茶店で休憩していた所を、窓際の席に座っていた彼に向ってトラックが猛スピードで突っ込んだところから始まった。

 トラックとぶつかり、目の前が真っ暗になったかと思うと徐々に目が開いていき、気が付いたら自分が見た事もない人達に見つめられている事に義明は気づいた。

 その後、短い手足や言葉をしゃべれない自分の状況から前世の知識と照らし合わせて、異世界に転生したことに気付いた。更に年を重ねるにつれて、自身が王子である事、世界観や人物が「蒼天のギア」と一致している事に気がつき、とある野望を胸に抱いた。


「蒼天のギア、面白かったけどハーレムルートが無かったんだよな~。そこだけが不満だったよな。」


 大好評を博した「蒼天のギア」の世界に転生したと気づいた瞬間、義明は喜ぶと同時に悩んだ。それはどのヒロインを攻略しようかという事である。「蒼天のギア」に出てきたヒロインはどれも魅力的で一人だけ選んで他を諦めるなど彼にはできなかったのである。

 諦めきれなかったこそ、義明は全ヒロインを攻略するハーレムルートを突き進むことを決意した。原作では選択肢によって一人のヒロインしか選べなかったが、ここでは自分の意思で動けるのだ。だったらフラグを回収して上手くやっていけば全ヒロインを攻略できると義明は考えてしまったのだ。


 原作である「蒼天のギア」に出てくるヒロインは五人。


 平民の生まれで高い才能を持ちながらも生まれによって貴族から差別されるが、それでもめげずに努力をして周りを見返すという王道を歩み、黒髪ロングストレートと穏やかながら芯の強い性格から多くのファンを獲得したエメリア=ヴァンドリック。


 主人公のお目付け役として学院に編入するが、やがて暴走し実家から勘当され主人公の使用人として仕えることになるという、貴族からの転落人生とその後のしおらしい態度、金髪巨乳と言う見た目で嗜虐心を擽る設定がサディストなユーザーから人気があるアイシャ=スォーレン。


 王宮で”駆動鎧”の開発に取り組んでいたが、若さ故周りから認められなかった、しかし主人公にその才能を認められ、やがて王国一の駆動鎧技師として名を轟かせることになる。眼鏡ドジっ子というあざとさがベタなユーザーから人気があるエステリア=トンベルク。


 隣国の姫で過去の事故により、失明してしまったが主人公の頑張りによって目を治療し、再び視力を取り戻して以降、主人公に好意を抱く、ちょっとヤンデレが入ったキャラクターが一部のユーザーから支持を得たカグヤ=シラツキ。


 ヴァンドルフ人とグルム人のハーフであり、過去の迫害の経験から王国へ復讐を果たすべく二学期から転入してくるが、主人公との触れ合いにより決心が鈍り、最後は主人公を選ぶという。これまた王道なストーリーで、エメリアと人気を二分するクラリス=グルム。(ゲームでは当初偽名を用いていた。)


「漸く入学出来たんだ。後は()()()さえ注意してれば、フラグを回収して行ってハーレムルート一直線だ。」


 既に頭の妄想の中でヒロイン達をあられもない姿にして妄想しているセルギスだが、彼の計画には一つだけ懸念事項があった。

 それはバッドエンドである。「蒼天のギア」もゲームである以上、ハッピーエンドやトゥルーエンド、バッドエンドがあるのだが、「蒼天のギア」ではある人物が必ずバッドエンドで関わっていた。

 それこそがカシム=グールである。ゲームの設定では彼は王国に恨みを抱いており、ストーリーの要所で発生する事件にはラスボスである彼が関わっており、そこでカシムや彼に唆された人物と駆動鎧で対決をするのだが、もし負けてしまうと即バッドエンド行き、しかもヒロインがカシムに寝取られてスタッフロール後にカシムとヒロインの情事を眺めて絶望する主人公と言う一枚絵が出て終わりなのだ。今思い出しても腸が煮えくり返る。

 

 ハーレムルートを目指す以上、バッドエンドは回避しなければならない。だからセルギスはカシムを早い段階で学院から追い出そうと動いていた。

 猫の件もそうだ。本来あそこは誰も見ていない、ユーザーにだけ分かる伏線として描写されているシーンだったが、前世の記憶を持ち越しているセルギスは仲間を直接引き連れて彼を糾弾、教師にも伝え彼の立場を危うくした。またカシムの机に落書きをするようクラスメイトに陰から指示したのもセルギスである。

 カシムが学校から消えればバッドエンドは回避できる、セルギスはそう考えていた。


「前世はクソな人生だったからな。今世では絶対に幸せな人生を歩んでやるぜ。」


 誰かがいるわけでもなく、勝手に誓うセルギス。だが彼は知らなかった。確かにこの世界は彼が前世で好きだったゲーム「蒼天のギア」にそっくりで彼は主人公の王子だが、彼の計画がゲーム通りに進まないことを、そもそも彼自身がゲームのストーリーを塗り替えようとしている事を。


―――――


「・・・・・・」


 猫を虐めていた件(実際は違うのだが)で教師に呼び出されて、その事について説教され既に日が沈んだ頃、カシムが荷物を持って男子寮の自分に割り当てられた部屋に向うと悲惨なことになっていた。


「風通しが良くなったと考えればいいかな、、、」


 まず扉には”死ね””馬鹿”といった悪口が掛かれ、斧で叩き切ったのか扉が完全に破壊されている。続いて部屋に入るとこれまた壁には落書きや刃物で傷つけた痕、ベッドに至っては最早原型をとどめていない。窓も割られて、硝子の破片が部屋中に散らばっており靴を脱ぐことが出来ない。

 まるで台風が直撃したような部屋の惨状に目を背けたくなるが、今日から此処で暮らすのでまずは掃除をしなくてはいけない。箒でゴミを一カ所に纏めていく。


「わかってる。分かってる。僕は嫌われ者だ。」


 掃除をしている間、過去の記憶がフラッシュバックしてくる。自分に石を投げる人達、困っている所を助けても自分の正体を知った瞬間に手の平を返す人達、自分の素顔を見た瞬間怯え、気味悪がり距離を取る人達。それら過去の記憶がカシムに告げてくる。

 

 ”グルム人のお前が受け入れられることは無い。” ”お前の忌むべき所業は決して許されることではない。その罪を一生を持って償え。” ”お前のその醜い顔では一生誰にも愛されることは無い。お前はその生涯を孤独に終えるのだ。”


「それでも、、、もしかしたら。」


 箒を握る手に力が籠る。頭の中で何度も呟かれる言葉を否定する。


「入学早々、大変な目に合っていますね。」


「・・・!、王妃様!!」


 掃除をする手が止まっていると壊れた扉から、カシムに向って声が掛けられる。生徒が乗り込んできたのか!とカシムが振り返るとそこには予想だにしない人物がいた。


 二十代半ばの女性、腰まで伸びた赤みがかった茶髪、サングラスで隠しながらも強い意思を感じさせる緑色の瞳、豊満な胸部と細い腰つき、間違えるはずがない。


 王のご機嫌取りの為に側室として嫁いだものの、その手腕によって病床に臥せっていた前王妃から自分が亡くなった後の政治を取り仕切るよう頼まれ、僅か二十五歳で新王妃となったアンジェリカ=ヴァンドルフ、その人だ。

 更にその隣には金髪と藍色の瞳をもつ女生徒が控えている、カシムの知らない人物だが、制服の色から同じ一年生だろう。


「な、何故貴方が此処に!!」


 いるはずもない人物が現れた事にカシムは慌てて跪く、何故王妃が護衛もつけずにこんな場所に?訳が分からなくなる。


「何故?ですか。実は貴方に入学祝を渡すのを忘れていまして、それで慌ててアイシャに頼んで学院に招き入れてもらい、貴方の元を訪問したんです。」


「入学祝ですか?」


「王妃様!余り近づいてはいけません!」


 カシムと親しげに話すアンジェリカを傍に仕えていたアイシャが注意をする。彼女はカシムが猫を助けようとしていたかもしれない事を知っていたが、それでもヴァンドルフ王国との因縁が根深いグルム人、警戒するのも仕方ない。


「今時間は大丈夫ですか?ついてきてください。」


 王妃の命令とあっては断ることも出来ないので、一旦掃除は中断し、カシムはアンジェリカとアイシャについていく。


「此処は?」


「駆動鎧の格納庫、正確には一部貴族の生徒が個人的に所有している駆動鎧の格納庫ですね。結構多いんですよ。個人で駆動鎧を購入して家紋を刻んだり、改造したりするのは。」


 アンジェリカが案内した先は学院が保有する駆動鎧の格納庫で、授業で搭乗したアーヴェンクとは異なる鎧が幾つも佇んでいる。

 格納庫を三人が進んでいくと、他の駆動鎧とは離れた場所に一つだけ佇んでいる駆動鎧を発見する。まるでそれは他の駆動鎧がその鎧に恐怖を感じて距離を取っているように見えた。

 その駆動鎧に近づいていくアンジェリカ、どうやらあの駆動鎧に用事があるらしい。彼女とカシムが近づくとまるでタイミングを計ったかのように照明が点灯し、駆動鎧の全貌が明らかになる。


「この鎧は、、、、」


「驚きましたか、これが私から貴方への入学祝です。どうです?この鎧の印象は?」

 

 駆動鎧を眺めるカシム、今彼の目の前にある駆動鎧は彼が全く見た事のない鎧であった。外装のデザインは”カーンバルク”とほとんど同じだが、頭部のデザインは全く異なる。横一文字のラインに一つの照準補助器をバイザーで保護している”カーンバルク”に対し、目の前の鎧は二つの照準補助器を人間の目のように配置しており、しかも顔の右側の装甲が剥がされたような意匠で巨大な目玉のように赤い照準補助器が露出している。

 またほかの外装も、純白で塗装されているのだが所々赤いラインが入っており、むき出しになった血管を思わせる。

 総じて、高貴な印象のはずなのに何処か不気味さを覚えてしまう。そんな鎧だった。


「まるで、天使の皮を剥がされた悪魔のように見えます。」


 目の前の駆動鎧に恐怖を感じたカシムが素直な感想を述べると、アンジェリカはサングラスの奥に隠れた目を見開き、彼の感想を気に入ったのか口元に笑みを浮かべる。


「天使の皮を剥がされた悪魔ですか、まさにそうかもしれませんね。それでは改めて入学おめでとうカシム。これが私から貴方への入学祝、貴方の為に用意した鎧で貴方しか満足に動かせない鎧、”グライフ”です。」

 

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